MSU研究:微生物が出生前から脳発達を左右、現代医療への警鐘

MSU研究:微生物が出生前から脳発達を左右、現代医療への警鐘 - innovaTopia - (イノベトピア)

ミシガン州立大学の研究チームが、微生物が出生前から脳の発達に影響を与えることを発見した。研究は2025年8月19日に発表され、学術誌Hormones and Behaviorに掲載された。研究の主著者はMSU心理学部助教授のアレクサンドラ・カスティーリョ・ルイス氏である。

研究では、マウスモデルを使用して視床下部室傍核(PVN)という脳領域を調査した。PVNはストレス、血圧、水分バランス、社会行動の調節を担う。無菌環境で妊娠した母親から生まれたマウスは、出生後に微生物を受け取ったかどうかに関係なく、PVNのニューロン数が少なかった。無菌の成体マウスも同様にPVNのニューロンが少なかった。

この発見は現代の産科診療に関連している。米国では女性の40%が出産前後に抗生物質を投与され、全出産の3分の1が帝王切開で行われている。これらの医療行為は母親と新生児のマイクロバイオームを乱す可能性がある。研究結果は、微生物が母体からのシグナル伝達を通じて子宮内で脳発達への影響を開始することを示している。

From: 文献リンクTiny microbes may secretly rewire the brain before birth

【編集部解説】

今回のミシガン州立大学の研究は、これまで見過ごされてきた微生物と脳発達の密接な関係を明らかにした重要な発見です。特に注目すべきは、微生物の影響が出生時ではなく、子宮内にいる段階から始まっているという点です。

従来、新生児の微生物定着は産道を通る際に起こる出生時のイベントとして捉えられてきました。しかし今回の研究では、クロス・フォスタリング実験という巧妙な手法を用いて、出生前後の影響を明確に分離することに成功しています。

視床下部室傍核(PVN)は、ストレス反応、血圧調節、水分バランス、そして社会行動に関わる重要な神経中枢です。この領域のニューロン数が減少することは、単なる局所的な変化を超えて、心血管系や行動システム全体に波及する可能性があります。

現代の医療実践への影響も見逃せません。米国では出産時の40%で抗生物質が使用され、33%が帝王切開で行われています。これらの医療介入が母子のマイクロバイオームを乱し、長期的な脳発達に予期しない影響を与えている可能性が示唆されています。

研究では、母体微生物が胎盤を通過する代謝物質を介してシグナルを送り、胎児の脳発達に影響を与えるメカニズムも明らかになっています。短鎖脂肪酸などの微生物由来代謝物質が、胎児期の軸索成長を促進することが他の研究でも確認されており、この分野の知見が急速に蓄積されています。

将来的には、妊娠期の微生物管理が新たな予防医学の領域として注目される可能性があります。ただし、微生物の完全な除去が必ずしも有害というわけではなく、適切なバランスの維持が重要になるでしょう。

この発見は、人間の発達において微生物を「パートナー」として認識する新しい視点を提供しています。今後の研究では、どの微生物種が特に重要なのか、最適な微生物環境とは何かという問いに答えることが期待されます。

【用語解説】

視床下部室傍核(PVN)
視床下部内に位置する神経核の一つで、ストレス反応、血圧調節、水分バランス、社会行動を制御する重要な脳領域である。自律神経系と内分泌系を統合する役割を担っている。

マイクロバイオーム
人体内に共生する微生物群集の総称。細菌、ウイルス、真菌などで構成され、消化、免疫、代謝に重要な役割を果たす。出産方法や抗生物質使用により大きく影響を受ける。

クロス・フォスタリング
実験動物学で用いられる研究手法の一つ。新生児を生物学的母親とは異なる養育母に育てさせることで、遺伝的要因と環境的要因を分離して分析する方法である。

無菌マウス
特殊な環境下で微生物に一切曝露されることなく飼育されたマウス。微生物の影響を調べる研究において、対照群として使用される実験動物である。

周産期
妊娠後期から出産後1週間程度までの期間を指す医学用語。母子の健康管理において特に重要な時期とされている。

【参考リンク】

Michigan State University(ミシガン州立大学)(外部)
1855年設立の米国公立研究大学。農学、教育学、心理学分野で高い評価を受けており、今回の微生物と脳発達に関する研究を実施した機関である。

Hormones and Behavior(外部)
エルゼビア社が発行する査読付き学術誌。ホルモンと行動の関係を扱う神経内分泌学の専門誌で、今回の研究論文が掲載された。

【参考記事】

MSU study finds tiny microbes shape brain development(外部)
ミシガン州立大学の公式発表記事。微生物が脳発達に与える影響について、40%の女性が出産時に抗生物質を受ける具体的数値とともに研究意義を解説。

Microbes in the Womb and at Birth Help Sculpt Neurodevelopment(外部)
神経科学専門メディアによる詳細解説記事。クロス・フォスタリング実験の手法と、出生後3日での脳検査結果について科学的観点から分析。

MSU Study Reveals How Tiny Microbes Influence Brain Development(外部)
科学ジャーナルによる研究解説。視床下部室傍核(PVN)の機能と、無菌環境で育った成体マウスのニューロン数減少について詳しく報告。

Tiny microbes affect how our brains grow before birth(外部)
環境科学メディアによる記事。母体微生物が胎盤を通じて代謝物質を送り、胎児の脳発達に影響を与えるメカニズムについて詳述している。

【編集部後記】

この研究を読んで、私たちが当たり前に受けている現代医療の影響について考えさせられました。出産時の抗生物質使用や帝王切開が、見えないところで次世代の脳発達に影響している可能性があるなんて、驚きではありませんか。

微生物を「敵」として排除するのではなく「パートナー」として捉える視点は、医療だけでなく私たちの日常生活にも新しい気づきを与えてくれそうです。

みなさんは、自分の体内微生物とどのような関係を築いていきたいと思われますか?
この分野の発展が、未来の出産や子育てをどう変えていくのか、一緒に注目していきましょう。

投稿者アバター
TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com

読み込み中…
advertisements
読み込み中…