MI6がダークウェブでスパイ募集開始「Silent Courier」でVPN活用を推奨

MI6がダークウェブでスパイ募集開始「Silent Courier」でVPN活用を推奨 - innovaTopia - (イノベトピア)

英国対外情報機関MI6の退任予定長官リチャード・ムーア氏は金曜日、史上初となるダークウェブ上のスパイ募集ポータル「Silent Courier」を発表した。

このシステムは世界中からテロリズムや敵対的情報活動に関する機密情報を持つ人物が匿名で英国に連絡し、サービスを提供することを可能にする。特にロシアおよび世界各地の潜在的新エージェントを対象としている。MI6は認証されたYouTubeチャンネルで募集ポータルのアクセス方法を投稿し、利用者に対して信頼できるVPNと自分に関連付けられていないデバイスの使用を推奨している。

この取り組みは2023年にロシアのスパイ候補者向けソーシャルメディア動画を公開したCIAのアプローチに続くものである。CIAは直近では2024年1月にロシアのウクライナ戦争に不満を持つロシア人をスパイとして勧誘する動画を公開している。

From: 文献リンクJames Bond Wannabes: The UK’s Spy Office Says Learn to Use a VPN

【編集部解説】

今回のMI6によるダークウェブ募集ポータル開設は、諜報機関のデジタル化における歴史的転換点といえます。従来の人的ネットワークに依存した古典的スパイ活動から、現代のサイバー空間を積極活用する新世代インテリジェンス戦略への移行を意味しているからです。

Silent Courierという名称が示すように、このシステムは完全な匿名性を前提としています。ダークウェブの技術的特性を活用することで、政治的弾圧が厳しい権威主義国家の内部からでも安全に情報提供者との接触が可能な仕組みを構築しました。特にVPNの使用を明示的に推奨している点は、デジタル・セキュリティに対する現実的なアプローチを示しています。

この動きの背景には、ロシアのウクライナ侵攻以降の地政学的変化があります。CIAが2023年から同様の取り組みを開始していることからも、西側諸国の情報機関が協調してロシア内部からの情報収集を強化していることが分かります。

技術的な観点では、ダークウェブとVPNの組み合わせによって、従来は困難だった大規模かつ継続的な匿名通信が可能になっています。これにより情報機関は地理的制約を超えて潜在的協力者にアプローチできるようになりました。

一方で、この手法には潜在的リスクも存在します。ダークウェブは本来、犯罪組織やテロリストも利用する空間であり、偽情報や罠に陥る可能性もあります。また、政府機関がダークウェブを公式に活用することで、一般市民のプライバシー保護技術に対する規制強化の口実にされる懸念もあります。

長期的には、この取り組みが成功すれば、他国の情報機関も類似のデジタル募集システムを導入する可能性が高く、諜報活動の完全なデジタル化が加速するでしょう。

【用語解説】

MI6
英国秘密情報部とも呼ばれる英国の対外情報機関である。正式名称はSecret Intelligence Service(SIS)で、海外での諜報活動を担当している。

ダークウェブ
通常の検索エンジンではアクセスできない匿名性の高いインターネット空間である。Torブラウザなど特殊なソフトウェアを使用してアクセスする。

VPN(Virtual Private Network)
インターネット通信を暗号化し、IPアドレスをマスクして物理的位置情報を隠す技術である。プライバシー保護や地理的制限の回避に使用される。

Silent Courier
MI6が新設したダークウェブ上のスパイ募集ポータルの名称である。世界中から匿名での情報提供を可能にする。

【参考リンク】

MI6公式サイト(外部)
英国秘密情報部の公式ウェブサイト。組織概要、採用情報、歴史などを掲載

英国政府公式発表(外部)
Silent Courierポータル開設に関する英国政府の公式発表ページ

CIA公式サイト(外部)
米国中央情報局の公式ウェブサイト。ロシア向け募集動画も掲載されている

【参考記事】

MI6 launches dark web portal to attract spies in Russia(外部)
BBC報道によるMI6のSilent Courierポータル開設の詳細記事

MI6 launches new drive to recruit spies(外部)
Sky Newsによるロシア人スパイ募集に焦点を当てた報道記事

【編集部後記】

デジタル技術によって諜報活動そのものが変わりつつある時代を私たちは目撃しています。今回のMI6の取り組みは、テクノロジーが国家安全保障の最前線でどのように活用されているかを示す興味深い事例です。

読者のみなさんは、普段私たちが使用するVPNやプライバシー技術が、世界の諜報機関でも重要な役割を果たしていることに気づかれたでしょうか。また、ダークウェブという匿名空間が、単なる違法取引の場ではなく、政治的弾圧から身を守るためのツールとしても機能していることについて、どのように感じられるでしょうか。

テクノロジーの進歩は常に光と影の両面を持ちますが、この事例は私たちにデジタル時代の情報戦について考えさせてくれます。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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