オゼンピックより効果的|肥満外科手術がGLP-1薬を上回る減量効果をNYU研究で実証

オゼンピックより効果的|肥満外科手術がGLP-1薬を上回る減量効果をNYU研究で実証 - innovaTopia - (イノベトピア)

ニューヨーク大学(NYU)の研究者が、袖状胃切除術と胃バイパス手術をセマグルチドまたはチルゼパチドと比較した研究結果を2025年のASMBS年次会議で発表した。

研究では年齢、BMI、血糖値などに基づいて患者をマッチングし、健康記録を使用して分析を行った。2年間の結果として、手術グループは総体重の約26%を減量したのに対し、薬物グループでは約5%の減量にとどまった。臨床試験では GLP-1薬で15%から21%の減量が示されているが、実世界では著しく低い結果となった。1年以内に約70%の患者が薬物治療を中断する可能性があることも判明した。GLP-1の処方は2022年から2023年にかけて倍増している。

この研究は、米国国立衛生研究所(NIH)などから資金提供を受けて実施された。NYUの外科レジデントであるエイブリー・ブラウンとNYUグロスマン医学部の肥満外科医であるカラン・チャブラがコメントを発表した。

From: 文献リンクOne Weight Loss Strategy Is 5x More Effective Than Ozempic, Trials Find

【編集部解説】

今回のニューヨーク大学の研究結果は、肥満治療における革新的な薬物療法と従来の外科手術の効果を直接比較した貴重なデータです。特に注目すべきは、実世界での治療効果が臨床試験の結果と大きく乖離している点でしょう。

GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドチルゼパチドは、膵臓から分泌されるインクレチンホルモンを模倣し、血糖値の調節と食欲抑制を同時に実現する画期的なメカニズムを持っています。これらの薬剤が糖尿病治療から肥満治療へと適応を拡大し、2022年から2023年にかけて処方が倍増したのは、まさに医療技術の進歩を象徴する出来事といえます。

しかし、研究で明らかになった「継続性の課題」は、テクノロジーと人間の行動変容の複雑な関係を浮き彫りにしています。最大70%の患者が1年以内に治療を中断するという数値は、単純に優れた薬剤を開発するだけでは解決できない、ヒューマンファクターの重要性を示唆しています。

一方で、袖状胃切除術胃バイパス手術といった外科的アプローチは、物理的に胃の容量を制限することで強制的な食事制限を実現します。これは「テクノロジーによる行動の物理的制約」という、ある意味で究極的な解決策といえるかもしれません。

なお、この研究は米国代謝・肥満外科学会(ASMBS)で発表されたものであり、手術オプションの推進に関する利害関係の可能性についても考慮する必要があります。研究者らも、薬物療法を完全に否定するものではなく、個人に最適な治療法の選択が重要であると強調しています。

この研究結果が医療政策や保険制度に与える影響も無視できません。薬物療法と外科療法の費用対効果を比較検討する際、継続率や実世界での効果を考慮した新たな評価基準が必要になるでしょう。

将来的には、個人の遺伝的素因や行動パターンを分析し、最適な治療法を提案するパーソナライズド医療の発展が期待されます。AIを活用した患者モニタリングシステムや、薬物療法の継続をサポートするデジタルヘルスソリューションの開発も重要な課題となっています。

【用語解説】

GLP-1受容体作動薬
グルカゴン様ペプチド-1受容体に作用する薬剤で、血糖値を下げると同時に食欲を抑制する効果を持つ。セマグルチドやチルゼパチドが代表的な薬剤である。

袖状胃切除術(スリーブガストレクトミー)
胃の大部分を切除し、胃を細長いスリーブ状にする肥満外科手術。胃の容量を大幅に減らすことで食事摂取量を制限する。

【参考リンク】

ニューヨーク大学医学部(外部)
今回の研究を実施した機関で、肥満外科手術や内分泌代謝分野で世界的な研究実績を持つ

米国代謝・肥満外科学会(ASMBS)(外部)
肥満外科手術の専門医による学術組織で、治療ガイドラインの策定や研究推進を行う

【参考記事】

Cost-effectiveness analysis of pharmacotherapy versus surgical therapy(外部)
GLP-1薬と外科手術の費用対効果を比較分析した2024年の研究論文で、薬物療法と外科療法の経済的側面を検証

Long-term Study of Bariatric Surgery for Obesity: LABS – NIDDK(外部)
米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所による大規模な肥満外科手術長期追跡研究で、7年間の効果と安全性を検証したデータを提供

【編集部後記】

今回のニューヨーク大学の研究結果には、私自身も改めて考えさせられました。GLP-1薬という画期的なテクノロジーが登場しても、実世界では外科手術に効果が及ばないという現実は、治療の難しさを物語っています。

とはいえ、「手術より薬の方が手軽で安心」という気持ちは、とても自然なものだと思います。私自身も、身体的な負担や心理的なハードルを考えると、まずは薬という選択肢に安心感を覚えるでしょう。その「手軽さ」と、今回の研究が示した「継続の難しさ」とのギャップこそが、この問題の核心なのかもしれません。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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