Prochlorococcus、海洋温暖化で激減リスク|地球の酸素生産を担う微生物に危機

Prochlorococcus、海洋温暖化で激減リスク|地球の酸素生産を担う微生物に危機 - innovaTopia - (イノベトピア)

ワシントン大学のFrançois Ribalet氏らの研究チームは、地球の酸素の約3分の1を生産する海洋微生物Prochlorococcusが海洋温暖化により従来予想以上に脅威にさらされることを発見した。研究は10年にわたる研究航海で8000億個の細胞を分析し、Nature Microbiology誌に2025年9月8日に発表された。

Prochlorococcusの最適温度範囲は摂氏19度から28度で、30度を超えると細胞分裂率が3分の1まで低下する。多くの熱帯・亜熱帯海域は75年以内にこの上限を超えると予測される。研究によると今世紀末までに中程度の温暖化シナリオでProchlorococcusの生産性が熱帯で17%減少し、より深刻な温暖化では51%減少する可能性がある。世界全体では中程度の温暖化で10%、極端なシナリオで37%の減少が予想される。

この微生物は地球上で最も豊富な光合成生物で、日光の当たる表層水の75%以上に生息している。

From: 文献リンクOcean Warming Threatens Microbe That Makes Nearly a Third of Earth’s Oxygen

【編集部解説】

この研究が示す結果は、海洋生態系の基盤を支える微生物の脆弱性を浮き彫りにしています。Prochlorococcusは直径わずか0.6マイクロメートルという極小サイズでありながら、地球全体の酸素生産において森林に匹敵する役割を果たしています。

従来の研究では実験室環境での培養細胞を対象としていたため、実際の海洋環境での挙動は十分に理解されていませんでした。今回の研究では、フローサイトメーターという専用機器を用いて自然環境下での大規模データ収集を実現し、より実態に近い結果を得ることができました。

この微生物の温度耐性が予想以上に低いという発見は、海洋食物連鎖全体への影響を示唆しています。Prochlorococcusは多くの海洋生物にとって直接的・間接的な食料源となっており、その減少は魚類をはじめとする海洋生物の生存基盤を揺るがす可能性があります。

一方で、同じシアノバクテリア系統のSynechococcusがより高温に耐性を持つことから、生態系の代替メカニズムが機能する可能性も示されています。ただし、数百万年にわたって構築された生物間相互作用が、新たな優占種との間で同様に機能するかは未知数です。

地球規模での酸素生産量の変化は、気候変動の加速要因となる恐れもあります。海洋による二酸化炭素吸収能力の低下と相まって、温室効果ガス濃度のさらなる上昇を招く悪循環が懸念されます。

【用語解説】

Prochlorococcus
地球上で最も豊富な光合成生物とされる海洋シアノバクテリア。直径0.6マイクロメートルの極小サイズながら、地球の酸素生産の約3分の1を担う。熱帯・亜熱帯の貧栄養海域に適応し、表層水の75%以上に分布している。

Synechococcus
Prochlorococcusと共に海洋の光合成を支えるシアノバクテリア群。より高温に耐性があるが、Prochlorococcusより多くの栄養分を必要とする特性を持つ。

フローサイトメーター
レーザー光を用いて細胞の大きさや特性を高速で測定・分析する装置。今回の研究では微小な植物プランクトンの検出に特化した仕様が使用された。

シアノバクテリア
光合成を行う原核生物の一群。約35億年前に地球の大気中に酸素を放出し始めた生物として知られ、現在も海洋と陸上の両方で重要な役割を果たしている。

【参考リンク】

ワシントン大学(外部)
米国シアトルに本部を置く州立大学。海洋学分野で世界的に著名な研究機関であり、今回の研究を主導したFrançois Ribalet氏が所属する。

ScienceAlert(外部)
オーストラリアを拠点とする科学ニュースサイト。最新の科学研究や発見を一般読者向けに分かりやすく報道している。

【参考記事】

Climate change threatens major oxygen-producing bacteria(外部)
英国自然史博物館による報道記事。Prochlorococcusの重要性と気候変動による脅威について、今回の研究結果を基に解説している。

Future ocean warming may cause large reductions in Prochlorococcus biomass(外部)
研究論文の要約。海洋温暖化がProchlorococcusのバイオマスに与える将来的な影響について、定量的な予測データを含む学術的な分析を提供している。

Warming May Threaten Ocean Key Oxygen Producer(外部)
CBIOMES(海洋微生物群集研究センター)による詳細な解説記事。研究手法や結果の科学的背景について専門的な視点から分析している。

Warming seas threaten key phytoplankton species that fuels the food web, study finds(外部)
海洋食物網への影響に焦点を当てた報道。Prochlorococcusの減少が海洋生態系全体に与える連鎖的な影響について詳述している。

【編集部後記】

この小さな微生物の運命が、私たちの地球の未来を左右するかもしれません。普段意識することのない海の中の小さな存在が、実は私たちが息をする酸素の大部分を作り出していることに驚かれたのではないでしょうか。

温暖化というと陸上の変化に目が向きがちですが、海の中でも静かに、しかし確実に変化が起きています。皆さんはこの研究結果を受けて、海洋生態系の変化についてどのように感じられますか。また、私たちにできることは何があるでしょうか。ぜひSNSで皆さんの考えをお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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