マハラシュトラ州が2025年AVGC-XRポリシーを発表した。AVGC-XRはアニメーション、視覚効果、ゲーム、コミック、拡張現実を指す。同ポリシーはイマーシブテクノロジーを産業、インフラセクター、必要不可欠なサービスとして位置づけ、24時間365日の稼働を認める。
投資規模は3268クロール(326.8億)ルピーの支援と5万クロール(5,000億)ルピーの投資目標である。インドのAVGC-XR産業は現在270億ドルから2030年までに1000億ドルへの成長が予測される。
新たなAVGC-XRパークをナグプール、ムンバイ、ナビムンバイ、プネー、ナシク、チャトラパティ・サンバジナガール、コルハプール、サタラに建設予定である。パークには高速デジタル接続、バーチャルプロダクションスペース、レンダリングファーム、編集ラボ、AI搭載プラットフォームを整備する。
雇用創出目標は今後20年間で20万人である。インド創造技術研究所が主導機関となり、業界リーダー、学界、協会からなるスキル諮問委員会を設立する。ハブの土地の60%をXRおよび関連産業に、残りを住宅、教育、ライフスタイルインフラに割り当てる計画である。
From: India’s AVGC-XR Leap: A Tech Superpower in the Making – XR Today
【編集部解説】
複数のソースから事実関係を確認した結果、マハラシュトラ州のAVGC-XRポリシー2025は、インドが世界のデジタルコンテンツ制作における主導権争いに本格的に名乗りを上げた重要な政策転換であることが明らかになりました。
このポリシーの核心は、AVGC-XR分野を単なる産業ではなく「インフラセクター」かつ「必要不可欠なサービス」として位置づけた点にあります。これにより、関連企業は24時間365日の稼働が可能となり、従来の製造業的な枠組みを超えた運営体制が実現されます。これは、時差を活用したグローバルな制作パイプラインの構築を想定した戦略的判断といえるでしょう。
注目すべきは投資規模の壮大さです。州政府が投じる326.8億ルピーに対し、民間投資目標は5000億ルピーと設定されています。この15倍以上のレバレッジ効果を狙う構造は、政府投資を呼び水として大規模な産業集積を形成する意図を示しています。
人材育成戦略も従来の職業訓練を超えた包括的なアプローチを採用しています。20年間で20万人の雇用創出目標は、単純計算で年間1万人の新規参入を意味します。インド創造技術研究所を核とした教育体制は、技術の急速な進歩に対応できる「適応性のある未来対応型労働力」の育成を掲げており、これはAIや機械学習の進歩により既存スキルが陳腐化しやすい業界特性を踏まえた設計です。
地理的配置も戦略的です。ナグプール、ムンバイ、プネーなど8都市への分散配置は、単一拠点への過度な集中を避け、地域間の経済格差是正と災害リスクの分散を同時に狙っています。各パークで土地の60%をAVGC-XR関連に、残り40%を住宅・教育・生活インフラに割り当てる「自己完結型エコシステム」のコンセプトは、シリコンバレーのキャンパス型企業群を参考にしたものと考えられます。
世界的な文脈では、インドのメディア・エンターテインメント市場は現在約270億ドルから2030年に1,000億ドルへと急成長が予測されています。この成長予測は複数の調査機関で一致しており、インドが世界第5位のメディア市場として確固たる地位を築きつつある現状を反映しています。
ただし、リスクも存在します。急速な規模拡大は品質管理の課題を生む可能性があります。また、グローバル市場での競争激化により、投資回収期間が予想より長期化するリスクも考慮すべきでしょう。知的財産権の保護や、国際的な制作パートナーとの契約関係における法的整備も重要な課題です。
この政策は、インドが「世界のバックオフィス」から「世界のクリエイティブハブ」への転換を図る象徴的な施策といえます。成功すれば、アジア太平洋地域におけるコンテンツ制作の重心が大きく移動する可能性があります。
【用語解説】
AVGC-XR: Animation(アニメーション)、Visual Effects(視覚効果)、Gaming(ゲーム)、Comics(コミック)、Extended Reality(拡張現実)の略称。デジタルコンテンツ制作における主要技術分野を包括的に表す業界用語である。
クロール: インドの通貨単位。1クロール=1,000万ルピーを表す。インドでは大きな金額を表現する際に頻繁に使用される単位である。
レンダリングファーム: 3DCGや映像制作において、複雑な計算処理を行うための大量のコンピューターを集約した施設。映画やゲームの高品質な映像制作には不可欠なインフラである。
バーチャルプロダクション: リアルタイムでCGと実写を合成する最新の映像制作技術。従来の後処理に比べて制作効率と品質の向上を実現する。
マハラシュトラ州: インドの西部に位置する州で、ムンバイを州都とする。インドの商業・金融の中心地であり、映画産業(ボリウッド)の拠点でもある。
【参考リンク】
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【編集部後記】
インドの巨額投資によるクリエイティブテック大国を目指すこの動き、これらは日本のコンテンツ産業にとって脅威となるのか、それとも新たな協業の可能性となるのか。インドの若い才能と日本の技術力やストーリーテリングが融合すれば、これまでにない革新的な作品が生まれるのかもしれません。