Shanghai Kepler Robotics Co., Ltd(Kepler Robotics)が2025年9月26日、K2「Bumblebee」モデルの量産開始を発表した。世界初の商用ハイブリッドアーキテクチャヒューマノイドロボットが顧客への出荷を開始している。
K2「Bumblebee」はローラースクリュー線形アクチュエータと回転アクチュエータを組み合わせたハイブリッド直並列設計を採用し、最大81.3%のエネルギー効率を実現する。
1回の充電で最大8時間の動作が可能で、片腕で15kg、両腕で最大30kgの積載容量に対応する。価格は1台248,000人民元に設定されている。
同社はすでに「数千台の先行予約」を受けたと発表しており、産業サービスやスマート製造分野の企業を含む顧客への出荷を開始している。また、2025年に入ってから複数の資金調達を完了したと報告されている。
【編集部解説】
ヒューマノイドロボットの商用化において、これまでプロトタイプから実用レベルへの移行が最大の課題でした。今回のKepler Roboticsの量産開始は、この業界の転換点となる可能性があります。
同社が採用したハイブリッドアーキテクチャは技術的にも注目すべき点です。ローラースクリュー線形アクチュエータと回転アクチュエータの組み合わせにより、従来の準直接駆動方式では困難だった人間のような直膝歩行を実現しています。この技術により、複雑な産業環境での安定した動作が可能になりました。
価格設定の意味も重要です。248,000人民元(約550万円)という価格は、従来のプロトタイプが1,000万円を超えていたことを考えると大幅な低下となります。これにより中規模企業でも導入検討が現実的になり、市場の裾野が広がることが予想されます。
一方で、量産化に伴う課題も存在します。品質管理の一貫性、メンテナンス体制の確立、そして何より人間との協働における安全性の確保が重要になります。特に工場や物流センターでの運用では、予期しない状況への対応能力が問われるでしょう。
長期的な視点では、このような汎用ヒューマノイドロボットの普及が労働市場に与える影響も考慮すべきです。単純作業の自動化が進む一方で、人間にはより創造的で判断を要する業務への専念が求められるようになります。
規制面では、各国政府がロボットの安全基準や運用ガイドラインの整備を急ぐ必要があります。中国発の技術が世界標準となる可能性もあり、国際的な協調が重要になってくるでしょう。
【用語解説】
ハイブリッドアーキテクチャ
複数の異なる駆動方式を組み合わせた設計手法。K2「Bumblebee」では線形アクチュエータと回転アクチュエータを統合し、従来の単一方式では困難だった人間のような自然な動作を実現している。
ローラースクリュー線形アクチュエータ
回転運動を直線運動に変換する精密伝動部品。高効率、高精度、大負荷容量を特徴とし、ヒューマノイドロボットの関節制御において滑らかで耐久性の高い動作を可能にする。
Sim-to-Real
シミュレーション環境で学習した動作を現実世界で実行する際に生じる性能ギャップ。センサーノイズ、計算遅延、物理的制約などが原因で発生し、ロボット開発における重要な技術課題である。
VLA+(Vision-Language-Action+)
視覚、言語、動作を統合したAIモデル。セマンティック(意味論的)なコマンドを理解し、複雑なタスクを実行できる。ロボットが人間の指示を理解して適切な行動を取るための技術基盤となる。
【参考リンク】
【参考記事】
Kepler begins mass production of hybrid-architecture humanoid robot(外部)
Kepler Robotics社がハイブリッドアーキテクチャを持つヒューマノイドロボットK2「Bumblebee」の量産を開始したことを報じています。この記事では「ハイブリッドアーキテクチャ」が機械的・計算的構造の両方を指すことを解説し、価格(約34,000ドル)、積載量(30kg)、8時間の稼働時間といった具体的な仕様と、産業用途での可能性についてまとめています。
2025 Is the Year of the Humanoid Robot Factory Worker(外部)
2025年が工場で働くヒューマノイドロボットの実用化元年になるという業界全体のトレンドを解説しています。Boston DynamicsのAtlasやAgility RoboticsのDigitといった競合他社の動向にも触れており、Keplerの量産開始が、研究段階から商業化への大きな流れの一部であることを示唆しています。
Humanoid robots in 2025: Types, prices, and what’s next(外部)
2025年におけるヒューマノイドロボット市場の全体像を解説しています。市場規模の成長予測(2028年までに138億ドル)や、主要なロボットの種類、価格帯、将来のトレンドについてまとめており、Keplerの価格設定が市場でいかに競争力を持つかを理解する上で参考になります。
【編集部後記】
ヒューマノイドロボットがSF映画の世界を飛び出し、私たちのすぐそばまでやってきました。今回のKepler Roboticsの発表で特に驚くべきは、その価格です。248,000人民元という価格は、日本円に換算するとおおよそ新しい自動車が一台買える金額に相当します。
これまで研究開発用のプロトタイプは数千万円もするのが当たり前でしたが、いよいよ「うちの工場でも一台導入してみようか」と検討できる、現実的な選択肢になったのではないでしょうか。
もちろん、人間と安全に協働するための課題はまだ残されています。しかし、もし車を買うのと同じくらいの価格で、24時間文句も言わずに働いてくれるパートナーが手に入るとしたら。皆さんの仕事や生活はどのように変わると思いますか?
工場での組み立て作業から、物流倉庫でのピッキング、将来的には家庭でのサポートまで。想像が膨らみますね。ぜひSNSで、皆さんのワクワクするようなアイデアを聞かせてください