Appleは、Meta製品と競合するスマートグラス開発を加速させる一方、Vision Proの軽量版計画を保留にしたとBloombergが報じた。同社は少なくとも2つの異なるモデルを開発中である。
1つはディスプレイなしで来年発表、2027年発売予定のモデル、もう1つは当初2028年予定だったディスプレイ搭載モデルで、現在開発が前倒しされている。これらのグラスはスピーカーとカメラを搭載し、音声コマンドとAIに大きく依存する。ディスプレイ搭載版は、片方のレンズにスクリーンを埋め込んだMeta Ray-Ban Displayグラスと競合する見込みだ。
Appleのスマートグラス市場参入は競合より遅れており、Metaはすでにバッテリー寿命を改善した第2世代Ray-Ban Metaモデルや、アスリート向けOakleyブランドのグラスを発表している。軽量版Vision Proは2027年リリースが予想されていたが、Appleはそのプロジェクトからスタッフを再配置してグラス開発に注力している。
From: Apple sidelines lighter Vision Pro to prioritize smart glasses

【編集部解説】
今回の戦略転換は、Appleにとって極めて重要な方向修正を意味します。3,499ドルという高価格で販売されたVision Proは、2024年2月の発売以降、販売が伸び悩んでおり、2025年には生産台数を大幅に削減しています。軽量版の開発保留は、ヘッドセット市場での苦戦を認めた形となりました。
技術面では、Appleがスマートグラス専用チップを独自開発している点が注目されます。これはバッテリー寿命と処理性能の両立を実現するための重要な要素であり、iPhoneやApple Watchで培った低消費電力設計のノウハウが活かされるでしょう。音声コマンドとAIの統合により、Siriの進化版として日常生活に溶け込むウェアラブルデバイスの実現が期待できます。
長期的には、スマートグラスがスマートフォンの一部機能を代替する可能性があります。通知確認、ナビゲーション、リアルタイム翻訳などの機能が視界内で完結すれば、デバイスを取り出す手間が不要になります。ただし、完全な置き換えには至らず、スマートフォンとの連携が前提となるエコシステムが形成されるはずです。
【用語解説】
空間コンピューティング
物理空間とデジタル情報を融合させるコンピューティング技術。ユーザーの周囲環境にデジタルコンテンツを配置し、操作できる。
ディスプレイ搭載型スマートグラス
レンズに小型ディスプレイを組み込んだスマートグラス。視界内に情報を直接投影し、AR体験を提供する次世代デバイス。
Ray-Ban Display
Metaが開発中のディスプレイ搭載スマートグラス。右レンズにスクリーンを埋め込み、2027年の発売が予定されている。
専用チップ
特定の用途に最適化された半導体。Appleはスマートグラス向けに低消費電力で高性能なカスタムチップを開発している。
【参考リンク】
Apple Vision Pro 公式サイト(外部)
Appleの空間コンピューティングデバイスVision Proの製品情報、技術仕様、アプリケーション、価格などを掲載。最新のソフトウェアアップデート情報も提供されている。
Meta Ray-Ban Stories 公式サイト(外部)
MetaとRay-Banが共同開発したスマートグラスの製品ページ。カメラ、音声機能、AI機能の詳細、価格、デザインバリエーションを紹介している。
Bloomberg Technology(外部)
今回のニュースの元ソースとなったBloombergのテクノロジーセクション。Apple、Meta、テック業界の最新動向を専門的に報道している。
【参考記事】
Apple Shelves Vision Headset Revamp to Prioritize Meta-Like AI Smart Glasses(外部)
Bloombergによる詳細レポート。Appleが軽量版Vision Proの開発を中断し、AI搭載スマートグラスに注力する戦略転換について、社内情報をもとに報じている。
Apple halts Vision Pro overhaul to focus on AI glasses(外部)
Reutersによるニュース配信。Appleの戦略変更の背景にあるVision Pro販売不振と、Meta製品との競争状況について分析している。
Apple Stops Work on Lighter Vision Pro to Fast-Track AI Smart Glasses(外部)
Apple専門メディアによる詳細解説。Vision Proの生産削減状況、スマートグラス開発の技術的詳細、発売時期の見通しをまとめている。
Apple shifts priorities from lighter Apple Vision Pro to smart glasses(外部)
Appleの製品戦略の変遷を分析。軽量版開発の中止がAppleのXR戦略全体に与える影響について考察している。
Apple Prioritizes AR Glasses Development Over Vision Pro Successors(外部)
MetaとAppleのスマートグラス競争について、市場動向と技術トレンドの観点から詳しく解説している。
【編集部後記】
Appleが3,499ドルのヘッドセットから299ドルのスマートグラスへと舵を切った背景には、何があるのでしょうか。Vision Proは技術的な完成度が高いものの、日常的に装着するには重すぎ、価格も高すぎました。一方Metaのスマートグラスは、すでに100万台以上を販売し、消費者が求める「日常使い」の解像度を捉えています。スマートフォンを取り出さずに通知を確認したり、翻訳したりする未来は、重厚なヘッドセットではなく軽量なグラスから始まるのかもしれません。ただ、常時カメラを装着する社会的受容性や、バッテリー寿命の制約など課題は多くあります。Appleがこの分野でどのような独自性を打ち出すのか、今後の展開が注目されます。