2025年10月1日の現地時間午前10時頃(米国東部標準時午後1時)、アマゾンのPrime Air配送ドローン2機がアリゾナ州トールソンでクレーンに衝突する事故が発生した。
事故はフェニックスの西に位置するトールソンの商業地域で起き、2機のMK30ドローンが、アマゾン倉庫から数マイル離れた場所にあった静止状態の建設用クレーンのブームに衝突し、両機とも重大な損傷を受けた。
トールソン警察のエリック・メンデス巡査部長によると、1名が煙の吸引の可能性について現場で評価を受けた。連邦航空局(FAA)と国家運輸安全委員会(NTSB)が調査を開始し、アマゾンは同地域でのドローン配送を一時停止した。
同社は2030年末までにドローンで年間5億個のパッケージを配送する目標を掲げている。
From: Amazon faces FAA, NTSB probe after two delivery drones crashed into crane in Arizona
【編集部解説】
今回の事故で注目すべきは、アマゾンが搭載を謳う「感知回避システム」の限界が露呈した点です。このシステムは空中と地上の障害物を検知して回避する機能を持ち、目視観測者なしでの長距離運用を可能にするはずでした。しかし、静止状態のクレーンという明確な障害物を2機のドローンが相次いで衝突したという事実は、現行技術の信頼性に疑問を投げかけています。
事故の詳細を見ると、2025年10月1日の現地時間午前10時頃に発生し、2機のMK30ドローンがクレーンのブームに衝突後、1機が地上で出火したとFAAが報告しています。特に懸念されるのは、これが2025年に入って2度目の重大インシデントである点です。
2024年12月にはオレゴン州ペンドルトンのテスト施設で2件の墜落事故が発生し、それを受けた2025年1月にアマゾンはトールソンとテキサス州カレッジステーションでの配送を一時停止しました。3月にソフトウェアの問題を解決したとして再開したばかりでの再発は、根本的な技術課題が残されている可能性を示唆します。
アマゾンは内部調査を完了し「ドローンや技術に問題はなかった」と結論づけましたが、追加措置として「クレーンのような移動する障害物をより良く監視するための視覚的景観検査の強化」を導入するとしています。この対応は、既存システムの不十分さを間接的に認めたものとも解釈できます。
規制面では、FAAとNTSBの調査結果が今後の商用ドローン配送の認可基準に影響を与える可能性が高いです。特に都市部での運用拡大を目指す事業者にとって、より厳格な安全基準や飛行制限が課される可能性があります。
アマゾンが掲げる2030年までに年間5億個の配送という目標は、現在のPrime Airが米国内の一部都市でしか展開されていない現状を考えると、極めて野心的です。今回の事故により、この目標達成には技術革新だけでなく、社会的信頼の獲得というさらに高いハードルが立ちはだかっています。
【用語解説】
FAA(Federal Aviation Administration)
米国連邦航空局。航空機の安全基準や航空交通管制を管轄する米国運輸省の機関である。商用ドローンの飛行許可や運用規則の策定も担当している。
NTSB(National Transportation Safety Board)
米国国家運輸安全委員会。航空機、鉄道、船舶などの重大事故を調査する独立した連邦政府機関である。事故原因を究明し、安全性向上のための勧告を行う。
MK30ドローン
アマゾンが開発した配送用ドローンで、2023年にFAAから飛行認可を受けた。6つのプロペラを搭載し、最大5ポンド(約2.3kg)の荷物を運搬可能である。感知回避システムを搭載し、目視外飛行が認められている。
感知回避システム(Sense-and-Avoid System)
ドローンが飛行中に周囲の障害物をセンサーで検知し、自律的に回避する技術である。アマゾンによると、機械学習アルゴリズムを用いて人間、動物、障害物、他の航空機を識別するとされている。
目視外飛行(Beyond Visual Line of Sight, BVLOS)
操縦者が直接目視できない範囲でドローンを飛行させる運用方法である。商用配送の実用化には不可欠だが、安全性確保のため厳格な規制がある。
【参考リンク】
Amazon Prime Air公式サイト(外部)
アマゾンのドローン配送サービスPrime Airの公式情報ページ。技術仕様、安全機能、配送可能エリアなどの詳細情報が掲載されている。
Federal Aviation Administration (FAA)(外部)
米国連邦航空局の公式サイト。ドローンの運用規則、飛行許可申請、安全ガイドラインなどの情報を提供している。
National Transportation Safety Board (NTSB)(外部)
米国国家運輸安全委員会の公式サイト。過去の事故調査報告書や安全勧告を検索・閲覧できる。
【参考動画】
Amazon Prime Air: First Customer Delivery
アマゾン公式チャンネルによる、Prime Airの初めての顧客配送を記録した動画。ドローンの飛行から配送完了までのプロセスが確認できる。
【参考記事】
Two Amazon delivery drones crash into crane in Arizona, investigations underway(外部)
CNNによる事故報道。事故発生時刻が午前10時頃であることや、80ポンド超のドローンの残骸が地面に散らばった映像について報じている。
FAA Probes Amazon Drone Crashes Near Phoenix(外部)
Transport Topicsによる詳細報道。事故発生時刻を現地時間午前10時と特定し、1機が地上で出火したことをFAAの予備報告として伝えている。
Amazon to resume drone delivery following crash in Arizona(外部)
TechCrunchによる続報。アマゾンが金曜日に配送を再開する計画と、内部調査で技術的問題はなかったとする同社の見解を報じている。
Amazon grounds drone deliveries in Arizona after crash(外部)
The Registerによる技術的分析。MK30ドローンの仕様や機械学習アルゴリズムによる物体識別機能について詳しく解説している。
【編集部後記】
ドローン配送が実現する未来は、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めています。しかし今回の事故は、その実現に向けてまだ越えなければならない壁がいくつもあることを示しています。特に興味深いのは、アマゾンが「技術に問題はなかった」としながらも、追加の監視体制を導入すると発表した点です。
これは技術の完璧性と現実の複雑さとのギャップを物語っているのではないでしょうか。空を飛ぶドローンと、私たちの日常生活が交わる未来。その実現には、技術革新だけでなく、社会全体での信頼構築が不可欠です。みなさんは、自宅の上空を荷物を運ぶドローンが飛ぶ日常を、どう感じますか。