Terra Drone株式会社は、子会社でベルギーに拠点を置く運航管理システムプロバイダーのUnifly NVが、欧州防衛庁主導のプロジェクト「MIL-UAS-SPECIFIC 3」に参画したと発表した。
本プロジェクトは、防衛・安全保障領域におけるドローンの飛行前リスク評価の基準を欧州全体で共通化し、安全性・相互運用性・効率性の向上を目指すものである。
ユニフライは2025年4月29日にEuroUSC Italia S.r.l.を完全子会社化しており、同社を通じて本プロジェクトに参画する。EuroUSC ItaliaはEU諸国、英国、カナダ、オーストラリア、アラブ首長国連邦など約40ヶ国以上で採用されるSORAに基づくリスクアセスメント支援を提供している。
本プロジェクトでユニフライは、要件定義の深化、オンラインツールの改良、欧州連合宇宙計画庁が持つ地理データとの連携強化、検証のための演習やワークショップ開催の主導を予定している。
From: 【PRTIMES】テラドローン子会社ユニフライ、欧州防衛庁主導のプロジェクトに参画

【編集部解説】
このニュースの本質は、ドローン産業における「標準化」の流れが、民間領域から防衛・安全保障領域へと拡大している点にあります。欧州では各国が独自のリスク評価基準を運用しており、国境を越えた防衛協力や災害対応において大きな障壁となっていました。
SORAという民間向けリスク評価フレームワークは、すでにEU諸国を含む40ヶ国以上で採用されています。このフレームワークは10段階のステップでドローンの飛行リスクを定量化し、目視外飛行や人口密集地での運用に必要な安全対策を明確化する仕組みです。今回のプロジェクトは、このSORAを防衛用途に適応させ、欧州全域で統一基準を構築する試みと言えます。
テラドローンの子会社ユニフライがこのプロジェクトで中心的役割を担う背景には、2025年4月29日に完全子会社化したEuroUSC Italiaの存在があります。同社は過去にEDAとの複数のプロジェクトで、軍事用ドローンのリスク評価モデルやオンラインツールのプロトタイプ開発を手掛けてきました。この実績が評価され、MIL-UAS-SPECIFIC 3における実装フェーズを主導する立場を獲得しています。
注目すべきは、欧州連合宇宙計画庁(EUSPA)が持つ人口密度データとの連携強化が計画されている点です。宇宙インフラから得られる地理情報とドローンの運航管理システムを統合することで、リアルタイムなリスク評価が可能になります。これは、民生技術と防衛技術の融合、いわゆる「デュアルユース」の典型例と言えるでしょう。
テラドローンは2024年に世界的なドローン市場調査機関Drone Industry Insightsのランキングで世界1位を獲得しており、運航管理システム(UTM)は世界8カ国で導入実績があります。同社が掲げる「低空域経済圏のグローバルプラットフォーマー」というビジョンは、中国が国家戦略として推進する低空域経済と同様の概念です。
このプロジェクトの成功は、欧州域内での防衛協力を円滑化するだけでなく、民間のドローン物流や都市型エアモビリティ(UAM)の発展にも波及効果をもたらす可能性があります。標準化された安全基準は、保険会社のリスク評価を容易にし、ドローンビジネスへの投資を促進する要因となるためです。
一方で、防衛領域での標準化には慎重な議論も必要です。統一基準が各国の主権や安全保障上の独自要件と衝突する可能性もあります。また、リスク評価ツールが集約する飛行データの管理やサイバーセキュリティも重要な課題となるでしょう。
【用語解説】
UTM (Unmanned Aircraft System Traffic Management / 運航管理システム)
ドローンや空飛ぶクルマの飛行を安全かつ効率的に管理するシステムである。飛行計画の承認、リアルタイム監視、他の航空機との衝突回避、飛行禁止区域の管理などを担う。有人航空機を管理する従来の航空管制(ATM)とは異なり、自律飛行する無人機を前提とした管理体系となっている。
SORA (Specific Operations Risk Assessment / 特定運用リスク評価)
目視外飛行や人口密集地でのドローン運用など、リスクの高い飛行を評価するための10段階のフレームワークである。地上リスク(GRC)と空中リスク(ARC)を評価し、その結果からSAIL(特定保証完全性レベル)を決定する。EASAが開発し、EU諸国を含む40ヶ国以上で採用されている。
EDA (European Defence Agency / 欧州防衛庁)
2004年に設立されたEUの専門機関で、加盟27カ国の防衛能力向上と軍事協力を支援する。防衛装備の共同開発、研究技術の促進、軍事能力の向上を目的とし、約180名のスタッフがブリュッセルに拠点を置く。
EUSPA (European Union Agency for the Space Programme / 欧州連合宇宙計画庁)
EUの宇宙プログラム(Galileo衛星測位システムなど)の運用と利用促進を担う機関である。本プロジェクトでは、人口密度データなどの地理情報をドローンのリスク評価に提供する役割を果たす。
MIL-UAS-SPECIFIC 3
欧州防衛庁が主導する、防衛・安全保障領域でのドローン飛行前リスク評価基準を欧州全体で共通化するプロジェクトである。前段階のプロジェクトではMUSRA(Military UAS Specific Risk Assessment)という軍事用リスク評価手法が開発された。
低空域経済圏
地上から数百メートルの低高度空域を活用した新たな経済圏の概念である。ドローン物流、空飛ぶクルマ、インフラ点検などのビジネスが含まれる。中国が国家戦略として推進しており、日本や欧米でも注目されている。
デュアルユース
民生用と軍事用の両方に利用可能な技術や製品を指す。本プロジェクトでは、民間ドローン向けに開発されたSORAフレームワークを防衛領域に適応させる取り組みがこれに該当する。
【参考リンク】
Terra Drone株式会社(外部)
2024年に世界ランキング1位を獲得したドローンソリューションおよび運航管理システムを提供する日本企業の公式サイト。
Unifly NV(外部)
ベルギーに本社を置くUTMテクノロジープロバイダー。欧米8カ国で国全体へのUTM導入実績がある。
Unifly Consulting (旧EuroUSC Italia)(外部)
SORA準拠のリスク評価支援ソフトウェアを開発し、40ヶ国以上でドローン規制のアドバイザリー業務を提供。
European Defence Agency (EDA)(外部)
EU加盟27カ国の防衛能力向上を支援する欧州防衛庁の公式サイト。防衛装備の共同開発プロジェクト情報を掲載。
EASA – Specific Operations Risk Assessment (SORA)(外部)
欧州航空安全機関が提供するSORAに関する公式情報ページ。10段階のリスク評価プロセスを詳細解説。
【参考記事】
Terra Drone’s Group Company Unifly Joins European Defence Agency-Led Project(外部)
ユニフライがEDAのMIL-UAS-SPECIFIC 3プロジェクトに参画し、要件定義やツール拡張で中核的役割を担うとテラドローンが公式発表。
EuroUSC continues drive to adapt civil UAS operations standards to military applications(外部)
EuroUSC ItaliaがEDAとの複数プロジェクトで軍事用ドローンのリスク評価モデル開発実績を持つことを報じる記事。
当社連結子会社によるEuroUSC Italia S.r.l.の株式の取得(連結孫会社化)に関するお知らせ(外部)
2025年4月29日のEuroUSC Italia完全子会社化を発表。飛行前評価から運航管理までの一気通貫プラットフォーム構築を目指す。
Terra Drone Secures Top Spot in Global Drone Service Provider Rankings for 2024(外部)
テラドローンが2024年のドローンサービス企業世界ランキングで1位を獲得。2019年以降連続トップ2入り。
The European SORA Framework(外部)
SORAの10段階プロセスで地上リスクと空中リスクを評価し、特定保証完全性レベルを決定する仕組みを詳細解説。
【編集部後記】
このニュースは、ドローンが「空の道具」から「空のインフラ」へと進化していく過程を示しています。皆さんの街でも、物流や点検、災害対応などでドローンを目にする機会が増えているのではないでしょうか。
今後、日本でもレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が本格化し、リスク評価の重要性がさらに高まります。欧州で進む標準化の動きは、日本の制度設計にも影響を与える可能性があります。この分野の進展を、皆さんと一緒に追いかけていきたいと思います。