Flytrex、ドローン配送の転換点|BVLOS承認取得とUber提携で全米展開

[更新]2025年10月7日07:41

Flytrex、ドローン配送の転換点|BVLOS承認取得とUber提携で全米展開 - innovaTopia - (イノベトピア)

イスラエルを拠点とするドローン配送企業FlytrexのCEO兼創設者であるヤリブ・バッシュ氏は、2026年が米国のドローン配送業界にとって極めて重要な年になると予測している。

FAA(連邦航空局)が第1四半期にBVLOS(目視外飛行)ドローンの全国標準を承認する見込みであることを受け、同社は米国の37の最大都市圏にサービスを拡大し、1億人以上にドローン配送を提供する長期計画を発表した。現在サービスエリアが主にダラス・フォートワース都市圏に限定されているFlytrexは、今後12か月間でこの地域に40のドローン配送サービス拠点を追加する計画である。

2025年5月にFAAはFlytrexと同業のWingに2つのUAV企業が同時に同じ空域を共有しながらBVLOS運用を実施する初の承認を与えた。また、FlytrexはDoorDashとも提携しており、中部時間の午前8時から午後9時30分までの営業時間を実現した。9月中旬にはUber TechnologiesがFlytrexとの提携を発表し、UAV配送サービスをUber Eatsプラットフォームに統合、年末までに米国の特定市場でパイロットサービスを開始する計画を発表した。

From: 文献リンクDrone Delivery Takes Off: Flytrex Prepares for Nationwide Growth

【編集部解説】

今回のニュースが持つ意味を理解するには、ドローン配送業界が長年抱えてきた「2つの壁」について知る必要があります。

第一の壁は規制です。FAAは2025年8月7日にPart 108のNPRM(規則制定通知)を発表し、60日間のパブリックコメント期間を経て、2026年中の施行を目指しています。トランプ大統領が2025年6月6日に発令した行政命令により、BVLOS規則の最終化を240日以内(2026年2月初旬まで)に完了することが義務付けられ、FAAは実際に2025年8月7日にNPRMを発表しました。これまでBVLOS飛行は個別の免除申請が必要でしたが、Part 108では許可証または認証制度による標準化されたプロセスに移行します。

第二の壁は、より本質的な課題である「収益性」です。バッシュCEOが指摘するように、ドローン配送企業は互いに競争するだけでなく、DoorDashやUber Eatsといった地上配送サービスとも競争しています。ブリトー1個を従来より安く配送できるシステム全体を構築しなければ、事業として成立しません。業界では配送1回あたりのコストを2ドル程度まで下げることが目標とされていますが、バッテリーコストや運用人件費の最適化が課題となっています。

Flytrexの承認取得の経緯を見ると、2025年5月にFAAはFlytrexとWingに対して、2つのUAV企業が同時に同じ空域を共有しながらBVLOS運用を実施する史上初の承認を与えました。これはUTM(無人航空機交通管理)システムを活用した画期的な取り組みです。その後、Flytrexは2025年8月13日にFAAから正式な単独BVLOS承認を得て、米国で4社目の企業となり、Wing、Amazon、Ziplineに続く存在となりました。

DFW都市圏が米国最大のドローン配送ハブとなった背景には、複数の要因が重なっています。人口規模が全米4位という市場の大きさに加え、一年を通じた好天候、そして自治体や住民の受容性の高さがあります。さらに重要なのが、ANRA Technologiesが提供するUTMキーサイトの存在です。これは米国初の商用UTM展開であり、複数のドローン配送企業が同じ空域を安全に共有できる交通管理システムを実現しています。

Flytrexの拡大計画は段階的です。今後12か月でDFW地域に40拠点を追加し、その後米国37大都市圏への展開を目指します。これが実現すれば、1億人以上にドローン配送サービスを提供できる計算です。UberやDoorDashとの提携は、既存の配送プラットフォームに組み込まれることで顧客接点を飛躍的に拡大する戦略といえます。

ただし、課題も残されています。Part 108では大規模事業者には認証が与えられますが、多くのBVLOS運用は個別許可制となる可能性があり、業界からは「免除制度の焼き直しではないか」という懸念の声も上がっています。また、Part 108下のドローンはADS-Bを送信しないため、有人航空機との統合が別の課題として浮上しています。

2026年という時期が「極めて重要」とされるのは、規制の標準化と事業モデルの成熟が同時に進む転換点だからです。すでに米国では2023年に26,870件のBVLOS運用承認が出されており、例外扱いから日常的な運用への移行が現実味を帯びています。Flytrexがテキサスとノースカロライナで積み重ねてきた運用実績は、この転換期において重要な意味を持つでしょう。

【用語解説】

BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
目視外飛行のこと。ドローン操縦者が肉眼で機体を確認できない距離での飛行を指す。従来は個別の免除申請が必要だったが、Part 108により標準化された運用プロセスへの移行が進んでいる。

Part 108
FAAが策定を進める新しいドローン規制の枠組み。BVLOS運用を標準化し、商用ドローンの大規模展開を可能にすることを目的とする。2025年8月7日にNPRM(規則制定通知)が発表され、2026年第1四半期に最終規則が公表される見込みである。

UTM(Unmanned Aircraft Systems Traffic Management)
無人航空機交通管理システム。複数のドローンが同じ空域を安全に共有できるよう、飛行計画の調整、リアルタイム監視、衝突回避などを行うシステム。有人航空機の航空管制システムに相当する。

単位経済性(Unit Economics)
1回の配送あたりのコストと収益の関係を示す概念。ドローン配送では、この数値を地上配送と競争できる水準まで下げることが事業化の鍵となる。現在は1回あたり13.50ドル程度だが、2034年までに約2ドルを目指す業界目標がある。

DFW都市圏(Dallas-Fort Worth Metroplex)
テキサス州のダラスとフォートワースを中心とする大都市圏。全米で4番目に大きな都市圏であり、複数のドローン配送企業が集中する米国最大のドローン配送ハブとなっている。

【参考リンク】

Flytrex公式サイト(外部)
イスラエル発のドローン配送企業。2024年8月時点で10万回以上の配送実績を持ち、午前8時から午後9時30分まで営業している。

ANRA Technologies(外部)
UTMシステムの世界的プロバイダー。DFW都市圏のUTMキーサイトを運営し、複数のドローン配送企業の空域共有を実現。

FAA Part 108規則案(外部)
2025年8月7日発表のBVLOS運用標準化規則案。60日間のパブリックコメント期間を経て2026年第1四半期に最終化予定。

Uber Eats × Flytrex パートナーシップ発表(外部)
2025年9月のUber TechnologiesによるFlytrex投資発表。年末までに米国特定市場でパイロットサービスを開始予定。

【参考動画】

【参考記事】

Flytrex Receives FAA Approval for Beyond Visual Line of Sight Operations(外部)
FlytrexがFAAから正式なBVLOS承認を得た米国で4社目の企業となり、全国展開への規制上の障壁を突破したことを報じる2025年8月13日の記事。

Flytrex, Wing Implement Commercial Strategic Flight Coordination(外部)
FlytrexとWingがUTM戦略的調整基準を米国で初めて日常運用に実装した2025年5月28日のプレスリリース。複数のBVLOSドローン事業者による商用運用の初事例。

Flytrex Reaches New Heights: 100,000 Drone Deliveries(外部)
Flytrexが米国で10万回の配送を達成し米国最大のドローンベース食品配送サービスとなったことを報じる2024年8月の記事。

Optimising Unit Economic Costs in Drone Delivery(外部)
ドローン配送の単位経済性を詳細に分析した2025年1月の記事。McKinsey調査での1回あたり13.50ドルから2ドルへの削減目標を解説。

Trump’s Drone Executive Orders: Beyond the Fact Sheets(外部)
トランプ大統領が2025年6月6日に発令した行政命令を詳細に分析。BVLOS規則の最終化を240日以内に完了することを義務付けた内容を解説。

Drone Deliveries: Taking Retail and Logistics to New Heights(外部)
PwCによる2024年9月の分析記事。ドローン配送業界が2034年までに配送1回あたりのコストを約2ドルまで下げる目標を報告。

Parts 108 and 146: Has the FAA kick-started a new era of BVLOS?(外部)
Part 108とPart 146を包括的に分析した2025年9月30日の記事。2023年に米国で26,870件のBVLOS運用承認が出されたことを報告。

【編集部後記】

もし自宅の裏庭にドローンが食事を届けてくれるとしたら、どのように感じるでしょうか。便利さへの期待と、空からの配送に対する漠然とした不安が交錯するかもしれません。今回の記事で取り上げたFlytrexの挑戦は、ドローン配送が「未来の技術」から「日常のサービス」へと移行する転換点を示しています。

規制の壁を越え、収益性という本質的な課題に向き合う姿勢からは、この技術が本当に私たちの生活に溶け込むために何が必要なのかが見えてきます。2026年という近い将来、日本でも同様の光景が広がる可能性について、一緒に考えていければと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…