フェラーリは2025年10月9日、イタリア・マラネロ本社で初の電気自動車「エレットリカ」の技術を公開した。
創業78年を迎える同社は、ハイブリッドおよびガソリンエンジンモデルにバッテリー駆動を追加する。公開されたのは生産準備が整ったシャシーで、バッテリーパックと電気モーターを搭載するが、ホイールや外装シェルは未装着である。
完成車は2026年に世界初公開される予定で、最高速度は時速310キロメートル、航続距離は少なくとも530キロメートルとなる。4ドア、4プラスシートの車両には、パワートレインの振動を増幅して電気フェラーリ独自のサウンドを生み出す専用サウンドシステムが搭載される。シャシーとボディは75%の再生アルミニウムで製造され、60以上の特許技術が統合される。価格は少なくとも50万ユーロ(58万400ドル)と見込まれる。
CEOのベネデット・ヴィーニャは「EVは追加であり、移行ではない」と述べ、既存モデルを補完するものだと強調した。フェラーリは2030年までにモデルラインナップの20%を完全電動化する目標を掲げており、これは3年前に設定した40%の目標を下回る。
From: Ferrari lifts the hood on EV tech in maiden electric car
【編集部解説】
フェラーリがついに電動化の扉を開きました。ただし、CEOのヴィーニャ氏が「追加であり、移行ではない」と明言したように、これはブランドの根幹を成すエンジンサウンドや走行フィーリングを放棄するものではありません。
注目すべきは、2030年のEV比率目標を40%から20%へと大幅に引き下げた点です。これは単なる方針転換ではなく、高級スポーツカー市場における顧客ニーズの現実を反映しています。ポルシェが中国市場と欧米市場の板挟みで苦戦し、ランボルギーニが初のEVを2029年まで延期したことからも、この分野の電動化には慎重さが求められることが分かります。
興味深いのは、フェラーリが開発した専用サウンドシステムです。単なるエンジン音の模倣ではなく、パワートレインの実際の振動を増幅して「電気フェラーリ独自のサウンド」を生み出すという試みは、EVの新たな価値創造として注目に値します。
元アストンマーティンCEOのパーマー氏が指摘した「EVを超えるEV」という表現は核心を突いています。3万ユーロのBYDでも瞬時の加速は得られる時代に、50万ユーロ以上のフェラーリEVが提供すべき価値とは何か。75%の再生アルミニウム使用や60以上の特許技術の統合は、その答えの一部と言えるでしょう。
フェラーリは2035年のEU化石燃料車販売禁止に対しても、合成e-fuel燃料という選択肢を持っています。富裕層顧客が負担できる高コスト燃料で内燃エンジンを延命できる余地があることは、同社の戦略的優位性です。
しかし、次世代の富裕層は環境意識が高く、EVを求める傾向があります。エレットリカは、伝統と革新のバランスを取りながら、新たな顧客層を開拓する試金石となるでしょう。
【用語解説】
エレットリカ(Elettrica)
フェラーリ初の完全電気自動車の名称。イタリア語で「電気の」を意味する。2026年に正式発表予定で、4ドア・4シート仕様、最高速度310km/h、航続距離530km以上のスペックを持つ。
パワートレイン
エンジンやモーターから車輪に動力を伝達するシステム全体を指す。電気自動車では、バッテリー、モーター、インバーター、トランスミッションなどで構成される。
合成e-fuel(イーフューエル)
再生可能エネルギーを使って生成される合成燃料。CO2と水素から製造され、既存の内燃エンジンで使用できる。製造コストが高いため、富裕層向けの車両に適している。
キャピタル・マーケッツ・デイ
企業が投資家や金融アナリストに対して、中長期的な経営戦略や財務目標を説明するイベント。フェラーリは2025年10月9日にこのイベントでエレットリカの技術を公開した。
【参考リンク】
Ferrari 公式サイト – Elettrica(外部)
フェラーリ初の完全電気自動車エレットリカの公式ページ。技術仕様、イノベーション、デザインコンセプトなどの情報が掲載されている。
Reuters – 自動車セクション(外部)
国際通信社ロイターの自動車産業に関するニュースセクション。世界の自動車メーカーの最新動向や業界トレンドを報じている。
Grant Thornton Stax(外部)
本記事でフェラーリEVについてコメントしたフィル・ダン氏が所属するグローバルコンサルティング企業。M&Aアドバイザリーや企業戦略立案を専門とする。
【参考記事】
Ferrari reveals the specs of its first all-electric car: Elettrica(外部)
エレットリカの詳細なスペックを報じる記事。4つの電気モーターによる1000馬力以上の出力、105kWhバッテリー、急速充電対応などの技術仕様を解説している。
Ferrari Offers Glimpse of First EV as It Trims Broader Plan(外部)
ブルームバーグによる報道。フェラーリが2030年のEV比率目標を40%から20%に引き下げたことを中心に、電動化戦略の変更について分析している。
Ferrari Elettrica EV: 4 Doors, 329 Miles of Range, and More(外部)
エレットリカの4ドア構成、329マイル(約530km)の航続距離、独自のサウンドシステムなど、実用性とフェラーリらしさの両立について詳述している。
Ferrari share stumble spoils electric vehicle tech launch(外部)
エレットリカ発表後のフェラーリ株価の下落を報じる記事。投資家が2030年の売上高目標に失望したことが株価に影響を与えた経緯を説明している。
Everything we know about Ferrari’s first electric vehicle(外部)
エレットリカに関する包括的な情報をまとめた記事。技術仕様、価格予想、市場戦略、競合他社との比較などを多角的に分析している。
【編集部後記】
フェラーリという象徴的なブランドが電動化に舵を切りつつも、内燃エンジンの比率を高めるという一見矛盾した戦略を取っている点に、皆さんはどんな未来を感じますか。高級スポーツカーにとって「速さ」以上に大切なものは何か、エレットリカの独自サウンドシステムはその答えの一つかもしれません。
EVが当たり前になる時代に、50万ユーロという価格に見合う「体験」とは何なのか。テスラやBYDとは異なる価値を、フェラーリはどう定義していくのでしょう。2026年の正式発表まで、この問いを一緒に考えてみませんか。