サムスンは、モバイルウェブブラウザ「Samsung Internet」のPC版を2025年10月30日に発表した。
Samsung Internet for PCは現在、限定的なベータプログラムで利用可能であり、ユーザーは登録することでアクセスできる。StatCounterのデータによると、モバイル市場におけるSamsung Internetのシェアは4%未満である。新しいPC版ブラウザはWindows 11およびWindows 10(バージョン1809以降)を搭載したPCで利用でき、Chromeなどと同様にブックマーク、パスワード、その他のデータをデバイス間で同期する機能を備えている。
セキュリティ面では、サードパーティのウェブトラッカーをブロックするスマート反トラッキング機能と、プライバシーダッシュボードが搭載される。ベータ版には、Galaxy AIの機能として、ウェブページの翻訳・要約を行うBrowsing Assistも含まれている。
ベータプログラムはアメリカと韓国のユーザーが対象であり、その後、より広範なロールアウトが計画されている。
From:
Samsung’s Mobile Web Browser Is Getting the PC Treatment
【編集部解説】
サムスンがSamsung Internet for PCのベータローンチを発表したことは、単なるブラウザの拡張ではなく、同社のデバイス統合戦略における重要な転換点を示しています。StatCounterのデータによると、モバイルにおけるSamsung Internetのシェアは4%未満です。この数字は企業の実績というよりも、むしろ完成度を高める道程にあることを意味しています。
このブラウザの最大の特徴は、ブックマーク、閲覧履歴、Samsung Passの認証情報をシームレスに同期することで、ユーザーがスマートフォンとPCの間を自由に行き来できる点です。Samsung公式発表によると、「Continue apps on other devices」機能を使用するには、両デバイスが同じSamsungアカウントにサインインしており、Wi-FiおよびBluetooth機能が有効になっていること、そしてこの機能がオンになっていることが条件となります。一つのデバイスで始めたタスクを別のデバイスで継続する体験は、Apple、Google、Mozillaなどの競合も実現しており、今や業界標準に近づいています。
Samsung Internet for PCに搭載されるBrowsing Assistは、ウェブページの自動要約・翻訳機能を提供します。これはローカル処理によるプライバシー保護と、ユーザーの検索効率化の両立を狙ったものです。サムスンが「ambient AI」と表現する次世代型AI統合の考え方は、ユーザーの行動を予測し、事前に支援を行うシステムを目指しています。将来的には、ブラウザが「ユーザーの入力を待つツール」から「ユーザーを理解し、個人データを保護しながら支援する統合プラットフォーム」へと進化していく可能性が考えられます。
スマート反トラッキング機能とプライバシーダッシュボードの搭載は、ユーザーのプライバシー意識の高まりへの対応です。第三者トラッカーのブロック、データの可視化機能により、ユーザーが自身の情報がどのように扱われているかを理解しやすくなります。ただし、これらの機能の実効性は、実装の正確さと継続的なアップデートに依存する点を認識する必要があります。
ベータプログラムが米国と韓国に限定されていることは、興味深い選択です。サムスンの本拠地である韓国、そして世界最大のPC市場である米国を優先することで、ユーザーフィードバックの質とボリュームを確保しつつ、グローバル展開への準備を進める意図が見えます。対象OSはWindows 11およびWindows 10(バージョン1809以降)となっています。
サムスンはスマートフォン(Galaxy S)、タブレット(Galaxy Tab)、ノートPC(Galaxy Book)という主要デバイスを製造しており、PC向けブラウザの登場はこれらの統合体験を完成させるピースとなります。競合のApple(Safari)やGoogle(Chrome)と異なり、サムスンは自社製ハードウェアの多様性を活かす必要があり、このブラウザはその戦略を具現化するものです。
ブラウザ市場ではChromeの支配が圧倒的であり、新規参入は高い障壁を抱えています。しかし、サムスンのエコシステム内でのシェア獲得、Galaxy AIの継続的な進化、そしてプライバシー重視のユーザーニーズへの対応は、ニッチながら有力なポジション確保の可能性を秘めています。
【用語解説】
Browsing Assist
Galaxy AIの一機能。ウェブページの自動要約と翻訳をリアルタイムで行うツール。ユーザーが複数言語のコンテンツを素早く理解する際に活用される。
Smart Anti-tracking
サードパーティのウェブトラッカーによる個人データ収集を防止する機能。ユーザーの行動をオンライン広告業者などが追跡することをブロックする。
Privacy Dashboard
ブラウザのセキュリティ設定とプライバシー保護状況をリアルタイムで表示・管理するインターフェース。ユーザーが自分のデータ保護状況を一目で把握できる。
Samsung Pass
サムスンが提供する認証管理サービス。パスワード、生体認証情報などを安全に管理し、複数デバイス間で同期する。
Ambient AI
ユーザーの行動を予測し、背後で自動的に支援を行うAI技術。ユーザーの入力や指示を待つのではなく、必要な支援を先回りして提供する概念。
Continue apps on other devices
サムスンのクロスデバイス機能。スマートフォンで開始したアプリやタスクをPC上で継続できる。使用には同じSamsungアカウントでのサインイン、Wi-FiおよびBluetooth有効化が条件。
StatCounter
ウェブ技術の市場シェアデータを提供する分析企業。ブラウザ、OS、デバイスなどのマーケットシェア統計を公開している。
【参考リンク】
Samsung Internet for PC ベータプログラム(外部)
PC版ブラウザのベータプログラム登録ページ。Windows 10/11で利用可能。
Samsung ニュースルーム(外部)
公式プレスリリース。Continue apps機能や条件など詳細情報を確認。
StatCounter(外部)
ブラウザマーケットシェアデータを提供。世界的な利用統計を参照可能。
【参考動画】
【参考記事】
Samsung’s internet browser is headed to PC(外部)
The Vergeによる分析。Samsung Internet for PCをGalaxy生態系戦略の一環として位置づけ、クロスデバイス統合とAI戦略を解説。
Samsung is finally making a PC version of its Android browser(外部)
Android Authority。モバイルブラウザのシェア拡大困難性と戦略的な独自開発継続の意義を分析。
Samsung Internet Browser Lands on Windows With Galaxy Ecosystem Sync(外部)
CyberInsider。Smart Anti-trackingとPrivacy Dashboardをセキュリティ・プライバシー重視戦略から解説。
Samsung expands Internet browser to PC with Galaxy AI(外部)
Moneycontrol。Galaxy AI統合によるUX進化とプライバシーツール装備の市場的意義を報道。
Samsung Internet soars into a beta on PC(外部)
Android Central。デバイス統合とエコシステム戦略の観点からモバイル・デスクトップ展開の連携を解説。
Samsung announces Samsung Internet browser for Windows PCs(外部)
SamMobile。ベータプログラムの詳細な仕様とアクセス方法を詳述した初報道記事。
Samsung’s web browser arrives on Windows(外部)
Engadget。AI統合がブラウザの将来にどのような影響を与えるかについて戦略的に分析。
【編集部後記】
皆さんは、スマートフォンとPCの間で、思考や行動の断絶を感じたことはありませんか?パソコンとスマートフォンなどのデバイスをまたいでも、スムーズに作業を続けられる――。そんな技術があれば、皆さんもぜひ取り入れたいと思うのではないでしょうか。
Samsung Internet for PCは、その断絶を埋める一つの試みです。ただのブラウザ乗り換えではなく、わたしたちの「ふだんの使い方」がどう変わっていくのか。一度、試してみてはいかがでしょうか。
























