DJIは2025年11月5日、スマートフォン用ジンバルOsmo Mobile 8を発表した。
本製品はシリーズ初となるApple DockKit対応により、iPhone標準カメラアプリを含む200種類以上のiOSアプリで被写体トラッキングが可能となる。
また、シリーズ初の360°パン回転に対応し、人物に加えて犬や猫もトラッキングできる機能を搭載した。
多機能モジュールにはDJI Mic 3、DJI Mic 2、DJI Mic Miniトランスミッターに対応したマイクレシーバーと、8段階調整可能な補助光を内蔵する。
DJI独自のActiveTrack 7.0を搭載し、第7世代3軸手ブレ補正技術を採用する。重量は370gで、最大10時間の稼働が可能だ。希望小売価格は18,480円で、本日より出荷を開始する。

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DJI、インテリジェントトラッキング機能対応のOsmo Mobile 8を発表
【編集部解説】
DJIが2025年11月5日に発表したOsmo Mobile 8は、スマートフォンジンバル市場において重要な転換点を示す製品です。最大の特徴は、シリーズ初となるApple DockKit対応により、従来の「DJI専用アプリ依存」という制約から解放された点にあります。
Apple DockKitは、Appleが2023年にiOS 17で導入し、iOS 18でさらに強化した被写体トラッキング技術です。この技術により、iPhoneをモーター駆動ジンバルの「頭脳」として機能させることができます。具体的には、iPhone標準カメラアプリをはじめ、TikTok、Instagram、Blackmagic Cameraなど200種類以上のiOSアプリで、アプリを切り替えることなく被写体トラッキングが利用できるようになります。

実はDJIはこの分野で出遅れていました。競合のInsta360は2024年7月にFlow Proで既にDockKit対応を実現しており、BelkinもAuto-Tracking Stand ProでDockKit対応製品を市場投入していました。Osmo Mobile 7Pが2025年2月に発売されたばかりであることを考えると、わずか9ヶ月での後継機投入は異例の速さです。これは、DockKit非対応がいかに大きな競争劣位となっていたかを物語っています。
Osmo Mobile 8のもう一つの革新は360°パン回転です。従来モデルでは回転角度に制限があり、被写体を追跡する際に「ケーブルが絡まる」問題が発生していました。無制限の360°回転により、動き回る被写体を途切れることなく追跡し続けることが可能になります。

ペットトラッキング機能の追加も注目に値します。従来は人物のみが対象でしたが、犬や猫もトラッキング対象に含まれるようになりました。ペット関連のコンテンツ需要が高まる中、この機能はVloggerやペット愛好家にとって大きな魅力となるでしょう。
多機能モジュールの進化も見逃せません。DJI Mic 3、Mic 2、Mic Miniとの連携により、外付けレシーバー不要で高品質な音声収録が可能になります。さらに、8段階調整可能な補助ライトを内蔵し、照明環境の悪い場所でも安定した撮影が行えます。これらの機能がマグネット式で着脱可能な小型モジュールに集約されている点は、携帯性と機能性の両立という点で優れた設計です。

技術面では、DJI独自のActiveTrack 7.0とデュアルレンズブースト機能が注目されます。デュアルレンズブースト機能は、スマートフォンの広角レンズと望遠レンズを同時に使用することで、被写体が高速で動いたり、複雑な環境でも見失わずにトラッキングを継続します。第7世代3軸手ブレ補正技術により、画質を損なうことなく安定した映像が撮影できます。
重量370g、最大10時間の稼働時間という仕様は、長時間の屋外撮影やライブ配信に適しています。

価格面では、希望小売価格18,480円という設定は、欧州での159ユーロ(約26,000円)、オーストラリアでの219豪ドル(約21,000円)と比較すると、日本市場向けに競争力のある価格設定となっています。競合のInsta360 Flow Proが149ドル、Belkin Auto-Tracking Stand Proが179.99ドルであることを考えると、DJIは価格競争力を維持しつつ、機能面での優位性を確保しようとしていることが分かります。
スマートフォンジンバル市場全体を見ると、2024年に5億2400万ドルだった市場規模が、2035年には8億8200万ドルに成長すると予測されています。この成長を牽引しているのは、ソーシャルメディアでの高品質動画コンテンツ需要の増加です。特にVlog、ライブ配信、不動産撮影などの商業利用が急拡大しており、2025年7月には「Vlog用スマートフォンジンバル」の検索ボリュームが急増しました。
主要プレイヤーはDJI、Zhiyun、FeiyuTech、Hohem、Insta360などで、3軸ジンバルが市場の62.4%を占めています。北米が市場シェア35.8%で最大市場ですが、アジア太平洋地域も年率7.1%で成長しています。

Osmo Mobile 8の登場により、DJIは「アプリに縛られないトラッキング」「無制限の360°回転」「ペット対応」という3つの新機軸で競合との差別化を図りました。ただし、Hohem iSteady V3 Ultraが1.22インチタッチスクリーンリモコンを搭載するなど、競合も独自の強みを持っており、市場競争は激化しています。
今後の課題としては、スマートフォン自体の手ブレ補正技術が向上し続けている点が挙げられます。iPhone 16シリーズやGoogle Pixel 9シリーズなど、最新スマートフォンは非常に高度な光学式・電子式手ブレ補正を搭載しています。ジンバルメーカーは、単なる手ブレ補正を超えた付加価値、つまりインテリジェントトラッキング、音声収録、照明などの統合ソリューションを提供することで、存在意義を示していく必要があるでしょう。
【用語解説】
ジンバル
カメラやスマートフォンを安定して保持するための機械式スタビライザーである。通常3つの回転軸(パン、チルト、ロール)にモーターを配置し、手ブレや振動を物理的に補正する。映画撮影やVlog制作など、滑らかな映像が求められる場面で使用される。
Apple DockKit
Appleが開発したiOS向けの被写体トラッキング技術である。iOS 17で導入され、iOS 18で機能が拡張された。iPhoneをモーター駆動スタンドやジンバルの制御装置として機能させ、標準カメラアプリや200種類以上のサードパーティアプリで自動的に被写体を追跡する。
ActiveTrack 7.0
DJI独自の被写体追跡技術である。AI機械学習を活用し、人物、ペット、物体を認識して自動的に追跡する。複数の被写体がいる場合でも選択した対象を見失わずに追跡し続ける能力を持つ。
3軸手ブレ補正
パン(水平回転)、チルト(垂直回転)、ロール(傾き)の3つの軸すべてでカメラの動きを補正する技術である。2軸補正と比較して、より安定した映像を撮影できる。
多機能モジュール(Multifunctional Module)
Osmo Mobile 8に磁力で装着できるアクセサリーである。被写体トラッキング機能、補助ライト、DJI Micシリーズとの接続機能を統合している。標準カメラアプリでもトラッキング機能が使用可能になる。
デュアルレンズブースト
スマートフォンの広角レンズと望遠レンズを同時に使用することで、被写体の動きが速い場合や複雑な環境でも追跡精度を維持する技術である。
【参考リンク】
DJI Osmo Mobile 8 製品ページ(外部)
Osmo Mobile 8の公式製品ページ。技術仕様、機能詳細、購入オプション
DJI公式オンラインストア(外部)
DJI製品の公式オンラインストア。Osmo Mobile 8本体およびアクセサリーを購入可能
Apple DockKit Developer Documentation(外部)
Apple DockKitの開発者向けドキュメント。技術仕様やAPIの使用方法を記載
DJI Care Refresh(外部)
DJI製品向けの包括的保証プラン。故障や損傷時の製品交換サービスを提供
【参考動画】
【参考記事】
DJI’s Osmo Mobile 8 gimbal adds pet tracking and Apple DockKit support(外部)
EngadgetによるOsmo Mobile 8の詳細レビュー記事。Apple DockKit対応の意義を解説
DJI Osmo Mobile 8 Smartphone Gimbal Launches With Apple DockKit Support(外部)
CineDによる技術的詳細と競合製品との比較分析。ActiveTrack 7.0の性能を検証
Osmo Mobile 8: DJI adds Apple DockKit and 360° panning support(外部)
NotebookCheckによる製品仕様とグローバル展開に関する詳細レポート
What is Apple DockKit? iPhone’s camera tracking technology explained(外部)
Trusted ReviewsによるApple DockKit技術の詳細解説記事
Smartphone Gimbal Market to Reach USD 882 Million by 2035(外部)
Fact.MRによるスマートフォンジンバル市場の予測レポート。2035年までの成長見通しを分析
DJI Osmo Mobile 8 Review: How Much Better Can It Get?(外部)
Man of Manyによる実機レビュー。Apple DockKitの設定方法と使用感を詳述
Hands on with the Insta360 Flow Pro gimbal, the first with Apple DockKit(外部)
AppleInsiderによる競合製品Insta360 Flow ProのDockKit対応に関する記事
【編集部後記】
スマートフォンで撮影する映像の品質は年々向上していますが、それでもプロのような滑らかさを実現するには、やはりジンバルの力が必要です。Osmo Mobile 8が示したのは、ハードウェアの進化だけでなく、エコシステム全体での統合の重要性でした。Apple DockKitへの対応は、単なる機能追加ではなく、クリエイターが使い慣れたアプリの中で自由に創作できる環境を整えるという、より本質的な価値を提供しています。
みなさんは、スマートフォンでの動画撮影において、どのような課題を感じていらっしゃいますか。手ブレ補正だけでなく、音声や照明まで統合されたツールの登場は、コンテンツ制作の新たな可能性を開くかもしれません。innovaTopia編集部も、こうした技術がクリエイターの表現をどう変えていくのか、引き続き注視してまいります。
























