2025年の世界インターネット会議が中国の古都烏鎮で木曜日から日曜日まで開催され、130以上の国と地域から1,600人以上が参加した。
会議テーマは「デジタルインテリジェンスのオープンで協力的、安全で包括的な未来を築く」で、開会式と24のサブフォーラムが行われた。
JD.com会長の劉強東、Alibaba CEOのEddie Wu、Sohu会長の張朝陽らが講演し、杭州発のスタートアップ群「Six Little Dragons」のパネルではUnitreeヒューマノイドロボット、『Black Myth: Wukong』、AIモデルDeepSeekの開発者が注目された。
Light of Internet Expoでは600以上の企業が1,000以上のAI技術製品を展示し、Alibaba、Huawei、Tencent、Microsoft、Kasperskyが出展した。Kasperskyは2024年に8,500万以上の悪意あるサイバーリンクをブロックした実績を紹介した。
Nasdaq上場のAurora MobileはEngageLabプラットフォームを出展し、累積契約額が前年比265%増加、顧客基盤は45カ国・地域の1,058クライアントに拡大した。
同社の新製品GPTBotsは第2四半期末までに約70,000人の登録ユーザーを獲得し、90%以上が中国国外からである。
From:
World Internet Conference 2025 Convenes: Focus on AI, Security and Global Cooperation
【編集部解説】
2025年の世界インターネット会議は、単なる技術展示会ではなく、グローバルなサイバースペースの未来を議論する重要な外交的プラットフォームとなっています。中国が提唱する「サイバースペースにおける共有された未来のコミュニティ」という理念は、技術覇権を巡る米中対立の文脈の中で、中国独自の多国間協力のビジョンを示すものと言えます。
今回の会議で特に注目すべきは「Six Little Dragons(六小龍)」と呼ばれる杭州発のスタートアップ群に焦点が当てられたことです。これらの企業は、Unitreeのヒューマノイドロボット、世界的ヒットゲーム『Black Myth: Wukong』を開発したGame Science、そして低コストで高性能なAIモデルDeepSeekを含みます。DeepSeekは2025年1月に発表されたR1モデルで、OpenAIのo1に匹敵する性能を達成しながら、はるかに低コストで開発されたとして世界の注目を集めました。
杭州がこうした革新的スタートアップの集積地となった背景には、同市の独特なビジネス環境があります。「必要がなければ干渉せず、必要なときには迅速に対応する」という方針のもと、地方政府は企業に柔軟な支援を提供してきました。例えばGame Scienceが『Black Myth: Wukong』の7年間の開発期間中、市は建物を3年間空けたまま確保し、ライセンス申請の支援から社員食堂への食事配達まで行いました。Unitreeが知的財産権の保護を必要とした際には、迅速な特許審査サービスを導入しました。
こうした杭州の「Six Little Dragons」は、中国のテクノロジーエコシステムが新たな段階に入ったことを象徴しています。従来の大手テクノロジー企業主導のモデルから、市場のニーズに迅速に対応する小規模で機動力のあるスタートアップが台頭する時代への転換です。
一方、会議のもう一つの重要なテーマはAI時代のサイバーセキュリティです。Kasperskyが示した2024年の統計は、サイバー脅威の深刻さを物語っています。同社は8,500万以上の悪意あるURLを検出し、8億9,300万件のフィッシング攻撃を阻止しました。これは前年比26%の増加です。Deepfakeなどの新しい脅威も登場し、AI技術の発展がサイバー攻撃の高度化を加速させています。
Aurora Mobileの事例は、中国企業の国際展開戦略を示しています。同社のEngageLabプラットフォームは累積契約額が前年比265%増と急成長し、45カ国・地域に1,058のクライアントを持つまでに拡大しました。新製品GPTBotsのユーザーの90%以上が中国国外からという数字は、中国のAI技術が国際市場で受け入れられつつあることを示唆しています。特に東南アジア、日本、ヨーロッパ市場への注力は、同社の成長戦略の中核となっています。
本会議では『中国インターネット発展報告2025』と『世界インターネット発展報告2025』も発表されました。これらの報告書は、中国がAI特許の世界シェア60%を保有していることや、AIモデルの推論能力が著しく進歩していることを強調しています。同時に、AIガバナンスと規制がグローバルなサイバースペースガバナンスの中心的課題であることも指摘しています。
また、会議前日にはMicrosoftのGitHub Copilot、AlibabaのQwen、中国の北斗衛星航法システムなど17のプロジェクトが「世界インターネット会議先駆的科学技術賞」を受賞しました。これらは、AIモデル、スマートIoT、embodied intelligence(身体化知能)、量子コンピューティングなどの最先端分野における突破口として評価されています。
この会議は、技術革新とセキュリティ、国際協力と競争、開放性と規制のバランスを模索する場となっています。AI技術の急速な発展が生産性向上をもたらす一方で、新たなリスクも生み出しているという現実に、世界がどう対処していくかが問われています。
【用語解説】
世界インターネット会議(WIC)
2014年に開始された中国主催の年次国際会議。2022年7月12日に国際機関として正式に設立され、本部は北京に置かれている。浙江省烏鎮で毎年開催され、インターネットガバナンス、デジタル経済、AI技術などグローバルなサイバースペースの課題を議論するプラットフォームである。
Six Little Dragons(六小龍)
杭州を拠点とする6つの新興テクノロジー企業の総称。DeepSeek(AI)、Game Science(ゲーム開発)、Unitree Robotics(ロボティクス)、Deep Robotics(ロボティクス)、BrainCo(ブレイン・マシン・インターフェース)、Manycore Tech(3D設計プラットフォーム)を指す。2025年初頭に注目を集め、中国の新世代テクノロジー企業の象徴となっている。
DeepSeek
2023年7月に設立された中国のAIスタートアップ。ヘッジファンドHigh-Flyerのスピンオフとして誕生。2025年1月にリリースしたDeepSeek-R1モデルは、OpenAIのo1に匹敵する性能を低コストで実現したとして世界的な注目を集めた。オープンソースモデルを提供し、AlibabaやTencentなど大手企業がプラットフォームに統合している。
Embodied Intelligence(身体化知能)
AIが物理的な身体(ロボットなど)を通じて現実世界と相互作用する能力。センサーで環境を認識し、アクチュエーターで動作を実行することで、製造業や医療などの分野で実用化が進んでいる。従来のソフトウェアベースのAIと異なり、物理世界での実践的な知能を重視する。
Deepfake
AI技術を用いて作成された、本物と見分けがつかないほど精巧な偽の画像、音声、動画。特にディープラーニング技術を活用して人物の顔や声を合成する。詐欺、偽情報拡散、なりすましなどの悪用が懸念されており、サイバーセキュリティの新たな脅威となっている。
【参考リンク】
World Internet Conference (WIC)(外部)
世界インターネット会議の公式サイト。サミット情報や報告書を掲載。
Aurora Mobile (極光)(外部)
中国の顧客エンゲージメント技術サービスプロバイダー、NASDAQ上場。
EngageLab(外部)
AI駆動型オムニチャネル顧客エンゲージメントプラットフォーム。
GPTBots.ai(外部)
企業向けAIエージェントプラットフォーム、カスタマーサポート支援。
Kaspersky(外部)
1997年設立のグローバルサイバーセキュリティ企業。
Unitree Robotics(外部)
2016年設立の中国ロボティクス企業、四足歩行・ヒューマノイド製造。
DeepSeek(外部)
杭州拠点のAI研究企業、オープンソース大規模言語モデル開発。
【参考記事】
2025 World Internet Conference Wuzhen Summit concludes with major achievements(外部)
CGTNによる会議成果のまとめ。中国のAI特許世界シェア60%を報告。
China Focus: World Internet Conference Wuzhen Summit eyes open, inclusive digital future(外部)
新華社による会議全体像と17プロジェクト受賞の詳細レポート。
Meet China’s ‘Six Little Dragons’(外部)
Sixth Toneによる杭州スタートアップ群の詳細分析と背景解説。
Aurora Mobile Brings EngageLab and GPTBots.ai to DXPO Fukuoka 2025(外部)
GlobeNewswireによるAurora Mobileの日本市場展開レポート。
Kaspersky reports nearly 900 million phishing attempts in 2024(外部)
Kaspersky公式による2024年サイバー脅威統計の詳細データ。
Four Chinese firms look to shake up tech world in DeepSeek’s wake(外部)
Asia TimesによるDeepSeek後の中国テック企業の戦略分析。
DeepSeek, Unitree, and the Six Dragons: Hangzhou’s Plan to Shape Technology’s Future(外部)
Jamestown Foundationによる杭州市の政策支援プログラム詳細。
【編集部後記】
中国の古都烏鎮で開かれた世界インターネット会議は、AI時代のサイバースペースをめぐる国際協力と技術革新の最前線を映し出しています。特に「Six Little Dragons」と呼ばれる杭州発のスタートアップ群は、大手企業とは異なる機動力と創造性で世界市場に挑戦しています。
DeepSeekの低コスト高性能AIモデル、Unitreeの手頃な価格のヒューマノイドロボット、Game Scienceの『Black Myth: Wukong』の世界的成功。これらは単なる個別の成功事例ではなく、地方政府の柔軟な支援と起業家精神が融合した新しいイノベーションモデルの現れかもしれません。一方で、Kasperskyが報告する8億9,300万件のフィッシング攻撃という数字は、技術の進化が同時に新たな脅威も生み出していることを示しています。
みなさんは、こうした中国発のテクノロジー企業の台頭を、グローバルなイノベーション競争の中でどのように捉えますか。そして、AI技術の発展とサイバーセキュリティのバランスをどう考えますか。私たち編集部も、読者のみなさんと一緒にこの問いを考え続けていきたいと思います。

























