Fergani Space、トルコ最大民間衛星FGN-100-D2打ち上げ成功

[更新]2025年11月11日

Fergani Space、トルコ最大民間衛星FGN-100-D2打ち上げ成功 - innovaTopia - (イノベトピア)

トルコの民間宇宙企業Fergani Spaceは2025年11月2日午前8時09分(トルコ時間)、ケープカナベラルSLC-40基地からFGN-100-D2衛星の打ち上げに成功した。

重量104kgで、トルコ最大の民間衛星となる。SpaceXのBandwagon-4ミッションに相乗りし、発射から約74分後に分離、午前9時23分に目標軌道へ到達した。同社が進める測位コンステレーション衛星プロジェクトの2基目で、1基目のFGN-100-D1は102kgで2025年1月14日にVandenberg宇宙軍基地から打ち上げられた。

CEOのセルチュク・バイラクタル氏は、5年以内に100基以上の衛星を打ち上げ、Uluğ Beyグローバル測位システムを構築する目標を示した。FGN-100-D2は高度約510kmの低軌道で秒速7.6kmで周回し、1日約15周する。ミッション期間は5~7年を想定している。2022年設立の同社は現在135人のチームで、主要技術を国産化した衛星開発を行っている。

From: 文献リンクFGN-100-D2: Türkiye’s largest private-sector satellite successfully launched by Fergani Space

【編集部解説】

このニュースで注目すべきは、トルコが単に衛星を打ち上げたという事実以上に、民間主導で測位システムの自立を目指している点です。

Fergani Spaceが開発を進める「Uluğ Beyグローバル測位システム」は、アメリカのGPS、ロシアのGLONASS、中国の北斗といった既存の測位システムに対抗する独自インフラの構築を目的としています。現在トルコ政府は「地域測位タイミングシステム(BKZS)」という国家プロジェクトも並行して進めており、2030年代初頭には地域カバレッジを実現し、2040年代には24~30基の衛星による全地球規模のシステム展開を計画しています。

今回打ち上げられたFGN-100-D2は、あくまで測位技術を検証するための試験衛星という位置づけです。しかし、5年で100基以上という野心的な目標は、単なる技術実証の域を超えた本格的な衛星コンステレーション構築への意思を示しています。

さらに興味深いのは、Fergani Spaceが軌道間移動機(OTV)の開発を進めている点でしょう。衛星打ち上げサービスは通常、ロケットが決められた軌道に複数の衛星をまとめて投入する相乗り方式が主流ですが、各衛星が望む最適軌道は異なります。OTVがあれば、いったん投入された衛星を目的の軌道へ個別に移動させることができ、運用の柔軟性とコスト削減が実現できます。

トルコはさらに自国のロケット開発も進めており、これが実現すれば「打ち上げから軌道投入、運用まで」を一貫して自国で完結できる体制が整います。トルコ政府は宇宙・航空分野全体の2025年予算として50.5億トルコリラ(当時のレートで約1億4000万ドル)を計上しており、2024年比で約30%の増額となっています。さらに、2025年10月に提出された2026年度予算案では、同分野の予算が過去最高の87.3億トルコリラ(約2億1400万ドル)に増額されるなど、国家的な投資が加速しています。

ただし、全地球規模の測位システム構築には膨大な資金と技術が必要です。既存のGPSは30基以上の衛星で運用されており、精度と信頼性を確保するには長期的な開発と維持管理が求められます。民間企業主導でどこまで国家プロジェクト級の規模を実現できるのか、今後注視していく必要があります。

【用語解説】

測位コンステレーション衛星
複数の衛星を連携させて地球上の位置を測定するシステムである。GPS、GLONASS、北斗などが代表例で、通常20~30基以上の衛星を配置して全地球をカバーする。衛星からの電波到達時間差を利用して三次元座標を算出する仕組みだ。

低軌道(LEO:Low Earth Orbit)
地上から約160~2000kmの高度を指す。国際宇宙ステーションや地球観測衛星が多く運用される領域で、静止軌道(約36000km)と比べて通信遅延が少なく、打ち上げコストも低い。

軌道間移動機(OTV:Orbital Transfer Vehicle)
衛星を異なる軌道間で移動させる宇宙機である。ロケットが投入した軌道から目的の軌道へ衛星を運ぶことで、相乗り打ち上げの柔軟性を高め、各衛星の運用効率を向上させる。

テレメトリ
衛星から地上管制局へ送信される状態監視データのこと。温度、電力、姿勢制御など機体の健全性を示す情報が含まれる。

Uluğ Bey(ウルグ・ベク)
15世紀ティムール朝の君主で、サマルカンドに天文台を建設した天文学者である。精密な星表を作成し、中世イスラム科学の発展に貢献した人物として知られる。

【参考リンク】

Fergani Space(外部)
2022年設立のトルコ宇宙企業。商用衛星、衛星コンポーネント、軌道間移動機開発を手がける。

SpaceX Rideshare Program(外部)
複数の小型衛星を低コストで軌道投入できるSpaceXの相乗り打ち上げサービス。

【参考記事】

Turkish domestic satellite Fergani FGN-100-D2 begins its space journey(外部)
FGN-100-D2の宇宙への旅立ちを伝える速報

Indigenous Satellite Fergani FGN-100-D2 In Space(外部)
FGN-100-D2の打ち上げ成功と国産技術の詳細紹介

【編集部後記】

私たちが毎日何気なく使っているスマートフォンの地図アプリやカーナビ。その背後には、アメリカのGPSをはじめとする測位衛星システムが支えています。もしこれらが使えなくなったらどうなるでしょうか。

トルコが独自の測位システム構築に挑む背景には、デジタル社会における「インフラの自立」という重要なテーマがあります。日本も準天頂衛星「みちびき」で独自性を追求していますが、測位システムが国家戦略としてどう位置づけられるべきか、皆さんはどう考えますか。宇宙開発が一部の大国だけのものではなくなりつつある今、技術の民主化がもたらす可能性とリスクについて、一緒に考えていければと思います。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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