宇宙が戦場に。ロシア・中国による衛星スパイ活動、ドイツが350億ユーロの防衛投資を発表

[更新]2025年11月12日

宇宙が戦場に。ロシア・中国による衛星スパイ活動、ドイツが350億ユーロの防衛投資を発表 - innovaTopia - (イノベトピア)

ドイツと英国が2025年11月、ロシアと中国による衛星への脅威について改めて警告を発した。

2025年9月、ドイツのボリス・ピストリウス国防相はベルリンでの会議で、2機のロシア偵察衛星がドイツ軍と同盟国が使用する2機のIntelSat衛星を追跡していると警告した。

また、英国宇宙司令部のポール・テッドマン少将も、ロシアの衛星が毎週のように英国の衛星へ不審な接近を繰り返していると指摘している。ロシアと中国は衛星の通信妨害、機能停止、物理的破壊といった能力を急速に拡大させている。

この種の脅威は新しいものではなく、米国防総省は2015年の時点でロシア軍事衛星によるIntelSat衛星への近接行動を報告していた。こうした状況を受け、ドイツは軍のデジタル化を推進する大規模予算の一環として、宇宙防衛プロジェクトへの大型投資を行うと発表した。

NATOは2019年に宇宙を作戦領域と宣言し、第5条が宇宙にも適用されると発表した。

From: 文献リンクUK and Germany have accused Russia of threatening their satellites. Here’s what that means | CNN

【編集部解説】

このニュースは、宇宙空間が新たな安全保障の最前線となっている現実を浮き彫りにしています。特に注目すべきは、衛星への脅威が「物理的破壊」だけでなく、「電子戦」という形で日常的に行われている点です。

ロシアが実施している衛星妨害(ジャミング)は、地上の設備から電波を発信し、衛星との通信を遮断する技術です。この攻撃の特徴は、物理的な破壊を伴わず、電波の発信を止めれば元に戻る「可逆的」な手段であることにあります。しかし、その影響は甚大で、軍事通信だけでなく、民間のブロードバンド通信や航空機のナビゲーションシステムにも波及する可能性があります。

さらに深刻なのは、ロシアの偵察衛星が他国の衛星に「張り付く」ように近接飛行し、信号を傍受している実態です。専門家は、これらの衛星を「スリーパーセル(潜伏細胞)」に例えています。平時は監視活動に徹しながら、有事の際には即座に攻撃態勢に移行できる状態で待機しているという見方です。

中国の宇宙能力も見逃せません。ロボットアームで他国の衛星を別の軌道に移動させる実験や、高速かつ精密な衛星操縦技術は、西側諸国に大きな懸念を与えています。中国の宇宙開発への投資規模はロシアを大きく上回っており、長期的にはより大きな脅威となる可能性があります。

興味深いのは、NATOが2019年に宇宙を「作戦領域」と宣言し、宇宙空間での攻撃に対しても集団防衛条項である第5条が適用されると明言したことです。これは、衛星への攻撃が加盟国への武力攻撃とみなされ、全加盟国による反撃の対象となることを意味します。

一方で、記事が指摘するロシアの技術的な矛盾も注目に値します。ウクライナで撃墜されたロシア戦闘機に商業用GPSがテープで固定されていた事例は、ロシアが自国の衛星システムに十分な信頼を置いていない証左です。宇宙での威嚇行動と実際の運用能力の間には、大きなギャップが存在する可能性があります。

ドイツは軍のデジタル化を推進する大規模な予算計画の一環として、今後数年間で宇宙関連プロジェクトにも数十億ユーロ規模の投資を行うと発表したのは、欧州が宇宙安全保障を真剣に捉え始めた証です。しかし、専門家が指摘するように、宇宙競争にゴールはありません。技術革新のスピードを考えれば、継続的な投資と国際協力が不可欠となるでしょう。

【用語解説】

衛星妨害(ジャミング)
地上から電波を発信して、衛星との通信を遮断する電子戦の手法である。物理的な破壊を伴わず、妨害電波の発信を停止すれば通信が復旧する可逆的な攻撃手段だが、軍事通信や民間通信システムに深刻な影響を与える。

IntelSat(インテルサット)
世界最大級の商業衛星通信サービス事業者である。静止軌道に約50機の衛星を運用し、米国政府や欧州各国の軍事通信、5億世帯へのテレビ・ラジオ配信、航空機の機内インターネット接続などを提供している。

NATO第5条
北大西洋条約第5条は「加盟国への武力攻撃は全加盟国への攻撃とみなす」という集団防衛の原則を定めている。2019年に宇宙が作戦領域と宣言されて以降、宇宙空間での攻撃もこの条項の対象となることが明確化された。

宇宙領域認識(Space Domain Awareness)
宇宙空間で何が起きているかを把握し、適切に対応する能力を指す。衛星の位置追跡、異常な動きの検知、潜在的脅威の特定などが含まれる。民間・軍事双方の宇宙活動の基盤となる重要な能力である。

電子戦(Electronic Warfare)
電磁波を利用して敵の通信・レーダー・ナビゲーションシステムを妨害したり、逆に自軍のシステムを防護したりする戦闘手法である。宇宙空間では衛星通信の傍受や妨害が主な手段となる。

【参考リンク】

IntelSat公式サイト(外部)
世界最大級の商業衛星通信事業者。50機以上の衛星を運用し政府・企業に衛星通信サービスを提供。米国政府最大の衛星容量プロバイダー。

NATO Space Centre of Excellence(外部)
2023年7月認定のNATO宇宙専門機関。宇宙領域認識や指揮統制に関する知識を提供しNATO加盟国の宇宙専門知識共有を促進。

【参考記事】

Germany Commits €35 Billion to Space-Related Defence Projects(外部)
ドイツの今後5年間で350億ユーロの宇宙防衛投資計画の詳細。2025年調達額19億ユーロで今後大幅増加予定。

Russia is tracking two satellites used by Germany’s military, defense minister warns(外部)
2機のロシア偵察衛星がドイツ軍のIntelSat衛星を追跡。ピストリウス国防相の警告とロシア・中国の宇宙戦能力拡大を報道。

Collective Defence in the Space Domain(外部)
NATO第5条が宇宙領域に適用される意味と課題を分析。宇宙での攻撃による集団防衛発動と加盟国協力体制を論考。

【編集部後記】

宇宙空間での緊張は、もはや遠い世界の話ではありません。私たちが毎日使っているGPS、天気予報、衛星放送、そして災害時の緊急通信まで、すべて宇宙の衛星に依存しています。もし明日、これらのサービスが突然使えなくなったら、どんな影響があるか想像してみてください。実は今、その「もしも」が現実になりかねない状況が静かに進行しているのです。皆さんは、日本の宇宙安全保障がどこまで進んでいるか、ご存知ですか?日常の便利さの裏側にある脆弱性について、一緒に考えてみませんか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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