光ファイバー制御の「ダークドローン」にも対応、Honeywellが次世代防衛システムSAMURAI公開

[更新]2025年11月12日

光ファイバー制御の「ダークドローン」にも対応、Honeywellが次世代防衛システムSAMURAI公開 - innovaTopia - (イノベトピア)

HoneywellはSAMURAI(Stationary and Mobile UAS Reveal and Intercept)と呼ばれる移動中のドローン防衛システムを軍事サービスに提供している。

同社ビジネス開発担当副社長Tom Konickiが2025年Air & Space Force Association Annual Symposiumの場で、Warrior誌のインタビューに応え明らかにした。

SAMURAIは時速70マイルで走行しながら資産を保護でき、センサーフュージョンモジュールを使用してガトリング砲、レーザー誘導ロケット、迎撃ミサイル、電子戦などのエフェクターと接続する。電子戦技術によるジャミングやサイバー乗っ取りでドローンを制御可能だ。

GPSやRFを使用しないダークドローンには音響技術でプロペラ音から識別する。AI搭載システムによりセンサーからシューターまでの時間を数秒・ミリ秒に短縮できる。ペンタゴンはCounter-Drone Task Forceを立ち上げ、陸軍はオクラホマ州Fort SillにC-UAS Universityを運営している。

From: 文献リンクHoneywell Offers SAMURAI: New On-the-Move Drone Defense Weapon

【編集部解説】

HoneywellのSAMURAIは、ウクライナ戦争が露わにしたドローン脅威の進化に対する、産業界からの一つの回答です。このシステムが注目される理由は、単なる技術的先進性ではなく、現実の戦場で直面している課題への実践的な対応にあります。

特に重要なのが「移動中の防衛」という概念です。従来の対ドローンシステムは固定拠点の防衛を想定していましたが、SAMURAIは時速70マイル(約112km/h)で移動しながら防衛できる設計になっています。これは核兵器輸送車両のような高価値資産を移動中に守る必要性から生まれた要求仕様でした。

もう一つの技術的ハイライトは「ダークドローン」への対応能力です。ウクライナとロシアの双方は、電波妨害を回避するため光ファイバーケーブルで制御されるFPVドローンを実戦投入しており、その到達距離は40kmに達しています。従来のRF検知や電子戦では無力化できないこれらの脅威に対し、SAMURAIは音響センサーを活用してプロペラ音から機種を特定する手法を採用しています。

システムアーキテクチャにおいては、MOSA(Modular Open Systems Approach)規格に準拠した設計が鍵となっています。これにより、異なるメーカーのセンサーやエフェクターを統合できるため、脅威の進化に応じて柔軟にアップグレード可能です。Blue Halo、Leonardo DRS、Pierce Aerospaceなど複数の防衛企業の技術を組み合わせられる点は、調達コストの最適化にも寄与します。

AIによる「センサーからシューターまでの時間短縮」も見逃せません。従来は数分かかっていた脅威判定から迎撃までのプロセスを、ミリ秒単位に圧縮できる可能性があります。これはドローンスウォーム(群れ攻撃)に対抗する上で決定的に重要な能力です。

長期的視点では、ペンタゴンのGolden Dome構想との統合が示唆されています。同構想は衛星ベースの探知層と3つの地上層から成る4層防衛システムで、2028年までの完成を目指し約1,750億ドルの予算が見込まれています。SAMURAIのような近接防衛システムと、上層の長距離迎撃システムが統合されれば、包括的な空域防衛アーキテクチャが実現します。

ただし、課題も存在します。高出力のRF妨害装置やマイクロ波兵器は民間エリアでの使用に規制上の制約があり、運用には高度な訓練が必要です。また、音響検知は環境ノイズの影響を受けやすく、都市部での精度維持には継続的なアルゴリズム改善が求められます。

それでも、SAMURAIが示すアプローチ——モジュール設計、マルチセンサー統合、AI活用、移動防衛——は、今後の対ドローン技術の方向性を示すものと言えるでしょう。

【用語解説】

C-UAS(Counter-UAS)
無人航空機システムに対抗するための防衛技術の総称である。検知、識別、無力化のための幅広い技術と戦術を含み、電子戦、運動エネルギー兵器、レーザー、高出力マイクロ波などが該当する。

SAMURAI
Stationary and Mobile UAS Reveal and Interceptの略称で、Honeywellが開発した移動式ドローン防衛システムである。固定拠点と移動中の両方で運用可能な設計が特徴となっている。

ダークドローン
GPSやRF(無線周波数)信号を使用せずに動作するドローンの俗称である。光ファイバーケーブルによる有線制御や、慣性航法システムなどを用いることで、従来の電子戦による妨害を回避できる。

MOSA(Modular Open Systems Approach)
モジュラー・オープン・システムズ・アプローチの略で、米国防総省が推進する調達・設計戦略である。標準化されたインターフェースを用いることで、異なるベンダーのコンポーネントを統合でき、システムのライフサイクル全体でコスト削減と柔軟性向上を実現する。

センサーフュージョン
複数の異なるセンサーからのデータを統合・処理し、単一のセンサーでは得られない包括的な状況認識を生成する技術である。SAMURAIではレーダー、光学カメラ、音響センサーなどのデータを統合している。

Golden Dome
トランプ前政権時に構想された統合ミサイル防衛システム。衛星ベースの探知層と3つの地上層から成る4層構造で、予算規模は約1,750億ドルに達するとされた。

エフェクター
対ドローンシステムにおいて、実際に脅威を無力化・破壊する装置や兵器を指す。ジャミング装置、レーザー、ミサイル、機関砲などが含まれる。

【参考リンク】

Honeywell Aerospace Technologies(外部)
航空宇宙防衛企業で年間約150億ドルの売上を持ち、SAMURAIなどの対ドローンシステムを開発している。

Rafael Advanced Defense Systems – Iron Dome(外部)
イスラエルの防衛企業RafaelによるIron Domeシステムの公式サイト。90%以上の迎撃成功率を誇る。

米国防総省 Modular Open Systems Approach (MOSA)(外部)
米国防総省のMOSA公式情報サイト。標準化されたオープンアーキテクチャによる兵器システムの調達戦略を提供。

【参考記事】

Honeywell Demos SAMURAI Drone-Swarm Defense From Tethered Aerostats(外部)
2025年9月のSAMURAIデモンストレーションを報じ、マルチベンダー統合の成功事例を紹介。

Honeywell demonstrates counter swarm drone technology with partners(外部)
SAMURAIシステムの技術的詳細とパートナー企業との協力体制について、AUSA 2025の展示情報とともに解説。

Pentagon Golden Dome to have 4-layer defense system, slides show(外部)
ペンタゴンのGolden Dome計画の詳細を初報道。4層構造、約1,750億ドルの予算、2028年完成目標を明示。

Fibre-optic drones reshape Ukraine’s technological war(外部)
ウクライナとロシアが使用する光ファイバー制御ドローンの実態を詳述し、到達距離40kmなど具体的数値を提示。

Of fiber-optics and FPVs – 6 questions with a Ukrainian drone expert(外部)
ウクライナのドローン専門家へのインタビューを通じて光ファイバードローンの技術的特性と運用課題を分析。

Russian Fiber-Optic Drones Are Now Reaching Into Ukraine(外部)
ロシア軍の光ファイバー制御ドローンの戦術的運用を分析し、従来の電子戦では無力化できない新型脅威を報告。

AUSA 2025: Honeywell Debuts SAMURAI Counter-UAS Follows US Army Doctrine(外部)
AUSA 2025でのSAMURAI初公開を報じ、米陸軍のドクトリンに準拠した設計思想と統合火器管制システムへの適合性を解説。


【編集部後記】

ドローン防衛というテーマは、遠い戦場の話のように思えるかもしれません。でも、光ファイバーで制御されるダークドローンや、AIによる自律攻撃といった技術は、すでに現実のものとなっています。

これらは軍事だけでなく、民間の空域管理やインフラ防護にも関わる課題です。みなさんは、自宅の上空をドローンが飛ぶ未来に、どんな安全対策が必要だと思いますか?私たち一人ひとりが、テクノロジーと安全のバランスについて考える時期に来ているのかもしれません。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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