ケンタッキー大学、ドローン殺菌剤散布の最適化研究を完了──メーカー仕様と実測値にギャップ

[更新]2025年11月12日

ケンタッキー大学、ドローン殺菌剤散布の最適化研究を完了──メーカー仕様と実測値にギャップ - innovaTopia - (イノベトピア)

ケンタッキー大学研究教育センターは、トウモロコシ畑の葉面病害管理を改善するため、ドローンベースの散布システムの最適化を目指している。

植物病理学部と生物システム・農業工学部による2年目の研究が完了し、ケンタッキー・コーン生産者協会の支援を受けて2026年2月26日に農家向けワークショップを開催予定である。

主任研究者のキアステン・ワイズ博士によると、未処理のトウモロコシ葉面病害は、1エーカーあたり最大15ブッシェルの収量損失をもたらす可能性がある。

2019年の研究でドローンによる殺菌剤散布の有効性が確認されたが、ティム・ストンボー博士との共同研究では、実際の散布幅がメーカー仕様と異なる可能性や、時速5マイル以下の風速でも散布パターンがずれることが判明した。

過去2年間の試験では、地上散布機の方が散布範囲は広いが、ドローンの方が葉への付着量が多く、両方法とも病害を減少させた。

From: 文献リンクUsing Drones to Protect Kentucky Corn: UK Researchers Lead Precision Agriculture Study

【編集部解説】

この研究が示すのは、精密農業におけるドローン技術の「実用化」から「最適化」へのフェーズ移行です。ケンタッキー大学の取り組みは、単にドローンが使えるという段階を超え、どのような条件下で最も効果的に機能するかという、より深い問いに答えようとしています。

注目すべきは、メーカーが謳う仕様と実際の散布性能にギャップがあるという指摘です。散布幅や散布パターンは、飛行速度、高度、そして時速5マイル以下という極めて低い風速でさえ影響を受けます。これは、農業ドローンの導入を検討する農家にとって極めて重要な知見と言えるでしょう。

興味深いのは、地上散布機とドローンの比較結果です。地上散布機の方が広い範囲をカバーする一方で、ドローンの方が葉への付着量が多いという結果は、散布の「広さ」と「濃さ」のトレードオフを示唆しています。両方法とも病害を減少させたという事実は、適切な条件下では双方が有効であることを意味します。

精密農業のドローン市場は2025年には60億ドルを超える規模に達するとの予測もあります。この成長を支えるのは技術革新だけではありません。労働力不足、環境規制の強化、そして化学薬品使用の最適化という現実的な課題が、ドローン採用を後押ししています。実際、ドローンによる精密散布は従来の方法と比較して化学薬品の使用量を30〜40%削減できるという報告もあります。

ケンタッキー州では未処理の葉面病害が1エーカーあたり約15ドルの損失をもたらすため、コスト対効果は明確です。しかし、この研究が強調するのは、単にドローンを導入すれば良いわけではなく、各農場の条件に合わせた最適化が必要だという点です。樹木や障害物で有人航空機がアクセスできない小規模農場では、ドローンは特に有用な選択肢となります。

2026年2月のワークショップは、研究成果を実践に橋渡しする重要なステップです。農業技術の進歩において、研究室から農場への知識移転は常に課題となりますが、このような実践的な取り組みこそが、テクノロジーを真に農家のものにする鍵となるでしょう。

【用語解説】

精密農業(Precision Agriculture)
GPS、センサー、データ分析などの技術を用いて、作物の生育状況や土壌の変動を細かく監視・管理する農業手法である。水、肥料、農薬などの投入量を最適化することで、収量向上とコスト削減、環境負荷の低減を実現する。ドローンや衛星データを活用し、リアルタイムでの作物モニタリングが可能となる。

グレー・リーフ・スポット(Gray Leaf Spot)
トウモロコシの葉に発生する真菌性の病害で、Cercospora zeae-maydisCercospora zeinaという2種類の病原菌が原因となる。葉に灰褐色の長方形の壊死病斑が現れ、葉脈に平行に広がる。高温多湿の条件下で急速に拡大し、世界的にトウモロコシの収量を制限する主要な病害の一つとされている。

殺菌剤(Fungicide)
植物の真菌性病害を予防または治療するために使用される化学物質である。トウモロコシの葉面病害管理では、出穂期や絹糸形成期に散布することで効果的に病害の拡大を抑制する。

散布幅(Swath Width)
ドローンや地上散布機が1回のパスでカバーできる散布範囲の幅を指す。メーカー仕様と実際の散布幅には差異が生じる場合があり、飛行速度、高度、風速などの要因に影響される。

【参考リンク】

ケンタッキー大学マーティン・ガットン農業・食品・環境カレッジ(外部)
ケンタッキー州立大学の農学部。植物病理学、農業工学など複数学部を擁し、精密農業研究を行う。

ケンタッキー・コーン生産者協会(外部)
州全域の6,000名以上のトウモロコシ生産者を代表。市場開発、生産研究への資金提供を行う。

ケンタッキー農業訓練学校(外部)
ケンタッキー大学協同普及サービスのプログラム。2026年2月26日にドローン散布ワークショップ開催予定。

【参考記事】

The Future of Smart Farming: Agriculture Drones in 2025(外部)
2025年における農業用ドローンの市場動向と技術トレンド。スマート農業の未来像を展望。

Agriculture Drone Spraying: Benefits & Best Practices(外部)
農業用ドローン散布の利点とベストプラクティス。化学薬品使用量削減効果について解説。

Using drones to protect Kentucky corn: UK researchers lead precision agriculture study(外部)
ケンタッキー大学公式ニュース。ドローン殺菌剤散布の実用性と散布パターン最適化研究を報告。

【編集部後記】

農業の現場では今、「導入できるか」ではなく「どう最適化するか」という段階に入っています。日本でもトウモロコシのドローン防除実演会が各地で開かれ、子実用トウモロコシの栽培拡大とともに技術活用が進んでいます。

興味深いのは、メーカーの仕様値と実際の性能に差があるという指摘です。皆さんの身の回りでも、カタログスペックと実使用での体感が違う製品はありませんか?新しい技術を「使いこなす」ために必要な視点とは何か、この研究から考えてみるのも面白いかもしれません。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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