ドミノ・ピザがxMoneyと提携、法定通貨とクリプトのハイブリッド決済を欧州展開へ

[更新]2025年11月22日

ドミノ・ピザがxMoneyと提携、法定通貨とクリプトのハイブリッド決済を欧州展開へ - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年11月11日、リヒテンシュタインのファドゥーツにて、決済企業xMoneyはドミノ・ピザとの提携を発表しました。

本提携はドミノ・ピザ・キプロスから開始され、ウェブおよびモバイルアプリにおいて、クレジットカードやApple Pay、Google Payを用いた法定通貨決済が可能となります。

xMoneyの埋め込み型チェックアウト技術により、リダイレクト不要の決済処理を実現します。さらにWeb3対応として、Suiブロックチェーン上のUSDCなど処理速度の速い通貨を優先した暗号資産決済ソリューションへのアクセスも提供されます。

ドミノ・ピザ・キプロスのCEOであるAlister Leech氏は、この技術が欧州全域の店舗へ拡大する計画を示唆しました。xMoneyのCEOであるGregorios Siourounis氏は、本技術によりセキュリティとチェックアウト速度が向上すると述べています。

From: 文献リンクDomino’s Pizza partners with xMoney for fiat and crypto payments

【編集部解説】

今回のドミノ・ピザとxMoneyの提携は、単なる「ピザ屋でビットコインが使えるようになる」というニュース以上の意味を持っています。テクノロジーと社会実装の観点から、この提携の裏側にある戦略的意図と、私たちが注目すべきポイントを解説します。

「見えない」クリプト決済の社会実装

まず注目すべきは、この提携が「法定通貨(Fiat)とクリプトのハイブリッド」である点です。プレスリリースでも強調されていますが、初期段階ではApple PayやGoogle Payといった既存のデジタル決済の最適化が主軸に置かれています。これは、消費者に「ブロックチェーンを使っている」と意識させずに、裏側の決済レールを徐々にWeb3技術へ置き換えていく「インビジブル(不可視化)な普及戦略」と言えます。いきなり暗号資産決済を前面に出すのではなく、まずは利便性でユーザーを掴むという、非常に現実的かつ賢明なアプローチです。

xMoneyとイーロン・マスク氏の「X」は別物

ここで一つ、重要な事実関係の補足をします。「xMoney」という名称から、イーロン・マスク氏率いるX社(旧Twitter)の決済部門を連想される読者もいるかもしれませんが、これは全く別のプロジェクトです。今回のxMoneyは、元々「Elrond」として知られ、現在は「MultiversX」とリブランディングしたブロックチェーン・エコシステム傘下の決済ソリューションです(旧UtrustとTwispayが統合)。この区別は投資や技術評価において極めて重要です。

なぜ「Suiブロックチェーン」なのか?

技術的な観点で非常に興味深いのは、MultiversXのプロダクトでありながら、決済通貨の具体例として「Suiブロックチェーン上のUSDC」を挙げている点です。これは、自社チェーンへの固執よりも「決済の即時性(ファイナリティ)」というユーザー体験(UX)を最優先した結果と推察されます。Suiはその並列処理能力により極めて高速なトランザクションを実現できるため、ピザの注文のような「待ったなし」の決済シーンには適しています。この「チェーン・アグノスティック(特定のチェーンに縛られない)」な姿勢こそが、実需を生む鍵になるでしょう。

キプロスからの「実験」が持つ意味

キプロスでの先行導入という点も理にかなっています。キプロスは金融サービスやFX、クリプト関連企業が多く集まる地域であり、住民の金融リテラシーも比較的高いため、テストベッドとして最適です。ここで成功事例を作り、規制の枠組みが整いつつあるEU全域へ展開するというロードマップは、欧州発のWeb3プロジェクトとして王道の勝ち筋と言えます。

未来への視座

かつてビットコインでピザが買われた「ビットコイン・ピザ・デー」は、クリプトの交換価値を証明した歴史的瞬間でした。そして2025年、今度は「意識せずにクリプト技術でピザを買う」時代が始まろうとしています。このプロジェクトが示唆するのは、Web3技術が「投機」から「インフラ」へと静かに、しかし確実に浸透し始めているという未来です。

【用語解説】

xMoney (旧Utrust / Twispay)
MultiversX(旧Elrond)ブロックチェーン・エコシステム傘下の決済ソリューションプロバイダー。暗号資産決済ゲートウェイのUtrustと、電子マネー機関であるTwispayが統合・リブランディングされて誕生した。法定通貨と暗号資産の双方に対応する決済インフラを提供する。

Web3(ウェブスリー)
ブロックチェーン技術を基盤とした、分散型インターネットの概念。巨大IT企業による中央集権的な管理から脱却し、ユーザー自身がデータや資産を所有・管理できる次世代のウェブ構造を指す。

Sui(スイ)
Meta(旧Facebook)のDiemプロジェクト出身者が開発したレイヤー1ブロックチェーン。オブジェクト中心のデータモデルを採用し、並列処理による極めて高いトランザクション処理能力と低い遅延を特徴とする。

USDC (USD Coin)
Circle社が発行する、米ドルと1:1で価値が連動するように設計されたステーブルコイン。裏付け資産として米ドル現金や米国債を保有しており、高い透明性と安定性を持つとされる。

【参考リンク】

Domino’s Pizza Cyprus(外部)
キプロスのドミノ・ピザ公式サイト。xMoney統合により、法定通貨と暗号資産の両方で支払いが可能になる次世代型プラットフォーム。

xMoney(外部)
MultiversX傘下の決済プラットフォーム。法定通貨と暗号資産を統合し、従来の金融とDeFiの架け橋となるソリューションを提供する。

MultiversX(外部)
高速処理と低コストを実現するシャーディング技術を搭載したブロックチェーン。メタバースやWeb3アプリの基盤としてエコシステムを拡大中。

【参考記事】

Domino’s Pizza Partners with xMoney for Fiat and Crypto Payments(外部)
本件の一次情報に近い記事。キプロスでの展開詳細やSuiチェーン活用、両社CEOのコメントなど事実関係の基礎となった重要な情報源。

xMoney Partners with Domino’s to Bring Payments That Deliver(外部)
xMoney公式ブログ。提携のビジョン、埋め込み型チェックアウトの技術的利点、および将来的な欧州展開計画について詳細に記述されている。

Romanian blockchain platform Elrond rebrands as MultiversX as it shifts focus to metaverse(外部)
ElrondからMultiversXへのリブランディング背景を解説。イーロン・マスク氏のX社とは異なる文脈であることを理解する為の資料。

【編集部後記】

ピザが届くのを待つあのワクワク感を、今度は「決済」で感じてみませんか?

今回のドミノ・ピザとxMoneyの提携は、一見すると海外のニュースに過ぎないかもしれません。しかし、これは私たちの日常的な買い物体験が「見えない技術」によって劇的にスムーズになる未来への第一歩です。

みなさんが普段使っているそのスマートフォンが、世界中どこでも、どんな通貨でも瞬時に支払いができる「魔法の財布」になる日は、もうすぐそこまで来ています。

もしキプロスへ旅行に行く機会があれば、ぜひ最先端の「ピザ体験」を味わってみてください。そして、日本のお店でこの技術が当たり前に使える日が来たら、最初に何を注文したいですか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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