中国の狩猟ドローン、法規制の空白地帯で誤用拡大──SNS拡散が招く新たな課題

中国の狩猟ドローン、法規制の空白地帯で誤用拡大──SNS拡散が招く新たな課題 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国では2023年に野生の猪が保護種のリストから削除され、2024年2月には100以上の猪狩猟チームが全国に派遣された。

サーモグラフィーと金属製矢を装備したドローンが効率的な狩猟ツールとして登場し、陝西省では地元林業部門が2025年5月から10月の間に200頭の猪を殺すためドローンパイロットに1頭あたり1,500元の報奨金を提供した。

狩猟ドローンの費用は約40,000元で、60センチメートルの金属製矢を搭載し、夜間40メートルの高さから標的を射撃できる。

しかしDouyinでドローン狩猟動画がバイラル化するにつれ、誤用が急速に拡大した。2024年後半以降、ドローンが保護野生動物や家畜を標的にした事例が中国全土で発生している。

湖南省では9月に保護種のホエジカが金属製矢で狩猟され、11月には3人がネット発射ドローンで31匹の保護動物を捕獲した。現行の野生動物保護法は1988年制定で2022年に改訂されたが、禁止ツールは銃や毒などの伝統的武器を指し、ドローンは含まれていない。

湖南省瀏陽市のみがドローンによる矢の投下を禁止狩猟方法として明示している。

From: 文献リンクChina’s Boar-Hunting Drones Fly Into a Legal Vacuum

【編集部解説】

今回のニュースは、テクノロジーの「民主化」が新たな規制課題を生み出す典型例として注目すべき事例です。中国では従来、政府が認可した専門チームだけが使用していた狩猟用ドローンが、SNSでの拡散をきっかけに一般市民にも広がりました。特にDouyinでの動画のバイラル化が誤用の加速要因となった点は、テクノロジーの普及速度と法整備の間に生じる時間差を象徴しています。

このドローンの技術的特徴にも触れておきましょう。サーモグラフィー搭載により夜間でも熱源を検知でき、40メートル上空から60センチメートルの金属製矢を正確に射出できる能力を持ちます。本来は農作物被害を防ぐという公益目的で開発されたツールですが、改造パーツがわずか100元からオンラインで入手できるという参入障壁の低さが、問題をより複雑にしています。

法的な空白地帯が生まれた背景には、既存の野生動物保護法が1988年制定という古い枠組みであることが影響しています。禁止狩猟具として列挙されているのは銃や毒、罠といった伝統的武器のみで、ドローンのような新技術は想定されていませんでした。このギャップを埋めるため、湖南省瀏陽市が先駆的にドローンによる矢の投下を明示的に禁止しましたが、全国的な規制にはまだ時間がかかりそうです。

注目すべきは、弁護士Han Xiaoが提案する「改ざん防止機能付き飛行データレコーダー」の義務化という解決策です。これはドローンの正当な用途を妨げることなく、違法行為の証拠確保を可能にするアプローチで、テクノロジー規制における「技術による技術の監視」という新しいパラダイムを示しています。

この事例から見えてくるのは、AI・ロボティクス時代における規制設計の難しさです。同じ技術が農業や地図作成では有益でも、狩猟では違法になり得るという「用途による善悪の分岐」をどう法的に定義するか。中国だけでなく、世界中のドローン規制当局が直面している課題と言えるでしょう。

【用語解説】

サーモグラフィー(熱画像技術)
物体が放射する赤外線を検知し、温度分布を可視化する技術。夜間や視界不良時でも生物の体温を検知できるため、野生動物の追跡や捜索活動に広く利用されている。狩猟用ドローンでは、この技術により夜間でも猪などの熱源を正確に特定できる。

Douyin(抖音)
中国国内向けの短編動画共有プラットフォームで、TikTokの中国版。ByteDance社が運営し、中国国内で最も人気のあるSNSの一つ。本事例では、ドローン狩猟動画がこのプラットフォームでバイラル化したことが、技術の急速な拡散と誤用を招いた。

野生動物保護法
1988年に中国で制定された野生動物の保護と管理に関する基本法。2022年に最終改訂されたが、禁止狩猟具として列挙されているのは銃、毒、罠、電気ネットなど伝統的な武器に限られ、ドローンのような新技術は想定されていない。

瀏陽市
湖南省に位置する県級市。2025年現在、中国で唯一ドローンを使った矢の投下を明示的に禁止狩猟方法として規定している自治体である。

【参考リンク】

Taobao(淘宝網)(外部)
Alibaba集団運営の中国最大のオンラインショッピングプラットフォーム。ドローン改造パーツが100元から購入可能。

Beijing Kangda Law Firm(北京康達律師事務所)(外部)
中国の大手法律事務所。弁護士Han Xiaoがドローン規制とフライトデータレコーダー義務化を提案。

【参考記事】

Bounty hunting wild boars in China: The once-protected species is now a growing public menace(外部)
CNNが報じた中国の野生猪問題。2023年保護種除外後の農作物被害と人間への攻撃の深刻化を詳述。

China Moves to Tackle a Growing Menace: Rampaging Boars(外部)
Sixth Toneによる野生猪と人間の衝突問題の詳細記事。都市部侵入事例や地方政府の補償費用を報告。

Dogs and drones hunt down wild boars(外部)
China Dailyが2024年10月に報じた陝西省でのドローン狩猟実施状況と従来の犬狩猟との効率比較。

China’s boar hunters attract fame and concern(外部)
台湾Taipei Timesの報道。ドローン猪狩猟が注目を集める一方で安全性への懸念も高まっている状況を伝える。

【編集部後記】

ドローン技術の進化が、思いもよらない形で社会課題を生み出す──この事例は、私たちが日常的に使うテクノロジーが持つ「両面性」を改めて考えさせてくれます。

便利なツールがSNSで拡散されると、本来の用途を超えて広がっていく。この現象は中国だけの話ではなく、日本でも起こりうることかもしれません。皆さんは、新しい技術が「民主化」されていく過程で、どのような規制やガイドラインが必要だと思いますか?法律が追いつくまでの空白期間をどう埋めるべきか、一緒に考えてみたいですね。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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