GACグループ、中国初の大容量全固体電池生産ラインを完成。航続距離1,000km超のEV実現へ

[更新]2025年11月23日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国の国有自動車メーカーGACグループは、初の大容量全固体電池生産ラインを完成させた。この生産ラインは現在小規模バッチ試験生産を行っており、自動車用として60アンペア時以上の容量を持つ固体電池を製造できる国内初の設備である。

全固体電池は従来のリチウムイオン電池の液体電解質を固体材料に置き換えることで、火災リスクを低減しエネルギー密度を向上させる。GACの先進プラットフォーム技術研究所で新エネルギーパワーR&D責任者を務める祁宏忠氏によると、開発中の固体電池のエネルギー密度は既存リチウムイオン電池のほぼ2倍で、航続距離500キロメートル超の車両が1,000キロメートル以上に達する可能性がある。

GACは2026年に小規模車両搭載テストを開始し、2027年から2030年の間に量産化に移行する計画である。

From: 文献リンクChina builds first high-capacity all-solid-state battery line

【編集部解説】

中国の自動車産業における電池技術開発が、また一つ重要な節目を迎えました。GACグループが中国初となる大容量全固体電池の生産ラインを完成させたことは、単なる技術的達成を超えて、電気自動車の未来を左右する競争における重要な一歩と言えるでしょう。

全固体電池とは、従来のリチウムイオン電池で液体として使われていた電解質を固体に置き換えた次世代電池です。この変更は一見小さな違いに思えますが、電池の性能と安全性に革命的な変化をもたらします。液体電解質は可燃性の有機溶媒を含むため、液漏れや発火のリスクがありましたが、固体電解質ではこれらの危険性が大幅に低減されます。

今回の発表で特に注目すべきは、GACが60アンペア時以上の容量を持つ電池の製造が可能な生産ラインを完成させた点です。既存のリチウムイオン電池と比較してエネルギー密度がほぼ2倍になることで、航続距離500キロメートルの車両が1,000キロメートル以上走行できる可能性が示されています。これは現在のEVが抱える「航続距離不安」という最大の課題を解決する鍵となります。

全固体電池のもう一つの大きな利点は、急速充電への対応です。固体電解質は高温に強いため、従来のリチウムイオン電池では充電時の発熱により制限されていた充電速度を大幅に向上させることができます。一部の研究では10分で80%まで充電できる可能性も示されています。

さらに、全固体電池は劣化しにくいという特徴も持ちます。液体電解質では副反応により容量が低下していきましたが、固体電解質ではイオンのみが移動するため、副反応が起こりにくく、長期間安定した性能を維持できます。トヨタの研究では40年以上の寿命も視野に入れられています。

この分野における国際競争は激化しています。トヨタは2027年から2028年にかけて全固体電池搭載車の市場投入を目指し、Idemitsu Kosanとの協力で硫化物系電解質の量産体制を構築中です。日産は2028年の量産を計画し、Samsung SDIも2027年の量産開始を予定しています。こうした中で、GACが生産ラインを完成させたことは、中国勢が日本や韓国の企業と対等に競争できる技術力を獲得したことを示しています。

ただし、全固体電池の実用化には依然として課題が残されています。最大の課題は電極と電解質の界面抵抗です。固体同士の接触では液体ほどスムーズにイオンが移動できず、出力を上げにくいという問題があります。また、充放電を繰り返すと電極と電解質の間にクラックが生じ、性能が劣化するという耐久性の問題も指摘されています。

製造コストも大きな課題です。全固体電池の製造には高度な技術と高価な材料が必要で、現在の試算では従来のリチウムイオン電池の4倍から25倍のコストがかかるとされています。量産技術の確立と材料コストの削減が、普及に向けた重要な鍵となります。

GACは2026年に小規模な車両搭載テストを開始し、2027年から2030年にかけて段階的に量産化を進める計画です。この慎重なアプローチは、技術的課題を一つずつクリアしながら確実に実用化を目指す戦略と言えます。

中国は既に世界最大のEV市場であり、電池製造能力でも世界をリードしています。GACの今回の発表は、中国が次世代電池技術でも主導権を握ろうとする野心を示すものです。2027年から2030年にかけて、全固体電池を搭載したEVが実際に市場に登場し始めることで、電気自動車の性能と利便性が飛躍的に向上し、ガソリン車からの移行が一層加速する可能性があります。

【用語解説】

全固体電池(All-Solid-State Battery)
電解質を含むすべての構成要素が固体の二次電池。従来のリチウムイオン電池が液体電解質を使用するのに対し、固体電解質を採用することで、高い安全性、高エネルギー密度、急速充電対応、長寿命などの特徴を持つ。

エネルギー密度(Energy Density)
単位体積または単位質量あたりに蓄えられるエネルギー量を示す指標。Wh/kg(質量エネルギー密度)やWh/L(体積エネルギー密度)で表される。エネルギー密度が高いほど、同じ大きさ・重さでより多くの電力を蓄えられる。

アンペア時(Ampere-hour, Ah)
電池の容量を表す単位。1アンペアの電流を1時間流せる電気量を1Ahとする。数値が大きいほど蓄電容量が大きい。

硫化物系固体電解質
硫黄を含む化合物を用いた固体電解質。高いイオン伝導性を持つが、空気中の水分と反応しやすいため製造環境の管理が必要。

酸化物系固体電解質
酸化物を用いた固体電解質。化学的に安定しているが、硫化物系と比べてイオン伝導性がやや低い傾向がある。

リチウムイオン電池(Lithium-ion Battery)
リチウムイオンの移動により充放電を行う二次電池。現在、スマートフォンや電気自動車など幅広く使用されている。液体電解質を使用するため、全固体電池と区別される。

【参考リンク】

GAC Group(広州汽車集団)(外部)
中国の国有自動車メーカー。新エネルギー車ブランドAIONを展開し、全固体電池などの次世代技術開発に注力している。

GAC AION(外部)
GACグループの電気自動車ブランド。プレミアムEVブランドHyperも展開し、先進的な電池技術の搭載を計画している。

Toyota Solid-State Battery Development(外部)
トヨタ自動車の全固体電池開発に関する公式情報。2027-2028年の実用化を目指し、出光興産と協力して量産技術を開発中。

Nissan All-Solid-State Battery(外部)
日産自動車の全固体電池開発プロジェクト。2028年の量産開始を目標に、神奈川県の研究センターでプロトタイプ生産施設を運営している。

【参考記事】

GAC plans to equip Hyper-branded EVs with all-solid-state batteries in 2026, offering over 1,000 km range(外部)
GACが2024年4月に発表した全固体電池技術の詳細。エネルギー密度400Wh/kg超を達成し、2026年にHyperブランドのEVへ搭載予定。

Solid-state batteries: Auto giants double down on production timelines(外部)
2025年7月時点での全固体電池開発競争の状況。トヨタ、日産、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BYDなど主要自動車メーカーが2027-2028年の商業生産を目標に開発を加速。

Top 10: Solid State EV Battery Manufacturers(外部)
全固体電池開発をリードする主要メーカーの動向。Samsung SDIは2023年に世界最大のパイロット生産ライン「S-Line」を完成し2027年量産計画を発表。

Toyota’s solid-state EV battery dreams might actually come true(外部)
トヨタの全固体電池開発の最新状況。2025年10月の東京モーターショーで、2028年までの市場投入スケジュールを堅持すると確認。

China’s GAC declares a breakthrough in solid-state EV battery(外部)
GACの全固体電池開発における技術的詳細。高負荷シリコンアノードを採用し、電気化学反応中のアノードの体積膨張と収縮を抑制。

Toyota’s new solid-state EV batteries promise 40 years of power(外部)
トヨタの全固体電池が実現する長寿命性能。電池寿命が車両寿命を超える可能性があり、バッテリー交換により複数台の車両で使用可能。

Solid-State Battery Commercialization: Mass Production Taking Off(外部)
全固体電池の商業化と量産体制の現状。ProLogium Technologyは台湾桃園に世界初のギガファクトリーを稼働し、2024年から自動車メーカーへの供給を開始。

【編集部後記】

全固体電池の実用化が目前に迫る中、私たちの移動手段は根本から変わろうとしています。航続距離1,000キロメートル超、充電時間10分、そして40年以上の寿命――これらが実現すれば、EVはガソリン車を完全に超える存在になるでしょう。みなさんは、2027年から2030年にかけて市場に登場するこの次世代電池搭載車に、どのような期待を抱いていますか?技術の進化が私たちのライフスタイルをどう変えていくのか、一緒に見守っていきたいと思います。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…