GoogleがAndroid向けにユニバーサルクリップボード機能を開発していることが明らかになった。Android Authorityが発見したAndroid 17の開発ビルドには、UniversalClipboardManagerへの参照が含まれており、android.companion.datatransfer.continuity名前空間の下に配置されている。
この機能は、スマートフォンでコピーしたコンテンツを別のリンクされたデバイスに瞬時に貼り付けることを可能にし、Appleのユニバーサルクリップボードに類似している。
現在の実装はテキスト共有をサポートしており、AndroidのクリップボードリスナーとGoogle Play Servicesを使用してデバイス間でクリップボードデータをブロードキャストする仕組みだ。
Googleはまだ正式発表していないが、Android 17の開発者プレビューとアーリーベータビルドで登場する可能性が高い。
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Android wants to copy Apple’s best copy-paste trick | Digital Trends
【編集部解説】
Googleが長年待ち望まれていたデバイス間のクリップボード同期機能に、ようやく本格的に取り組み始めました。Android 17の開発ビルドから発見されたこの機能は、Appleが2016年にiOS 10で導入したユニバーサルクリップボードから約9年遅れての実装となります。
Android Authorityが発見したコードによれば、android.companion.datatransfer.continuity名前空間の下に配置されたUniversalClipboardManagerが、この機能の中核を担います。これはGoogleが開発中のHandoff機能の一部として位置づけられており、AppleのContinuityフレームワークに相当するクロスデバイス機能群の構築を示唆しています。
技術的な実装としては、Google Play Servicesを通じてクリップボードデータをブロードキャストする仕組みが想定されています。Androidのクリップボードリスナーがバックグラウンドでクリップボードの変更を監視し、接続されたデバイスへコンテンツを送信する設計です。現時点ではテキスト共有が優先されていますが、将来的には画像や動画など他の形式への拡張も期待されます。
この機能が特に注目される理由は、Googleが2025年9月のSnapdragon Summitで発表したAndroid PCプロジェクトとの連携にあります。GoogleはQualcommと協力し、ChromeOSとAndroidを統合した新しいPC向けプラットフォームを2026年に投入する計画を明らかにしています。ユニバーサルクリップボードは、このAndroidエコシステムの統合において基盤技術の一つとなるでしょう。
現在、AndroidユーザーがスマートフォンとPC間でテキストやリンクを共有するには、自分自身にメッセージを送る、メールを使う、あるいはMicrosoft SwiftKeyやサードパーティアプリに頼る必要があります。しかしこれらの解決策はブランドごとに異なり、一貫性がありません。ネイティブな実装により、この問題が解消されることになります。
ただし、セキュリティとプライバシーの課題も存在します。Android 10以降、Googleはクリップボードへのアクセスを段階的に制限してきました。Android 13では、アプリがクリップボードにアクセスすると警告が表示され、一定時間経過後にクリップボードの内容が自動的にクリアされる仕組みが導入されています。これは、パスワードや個人情報などの機密データがクリップボードに保存されることが多いためです。
ユニバーサルクリップボードがこれらのセキュリティ規範を遵守するには、エンドツーエンド暗号化の実装、共有が行われる際の視覚的な通知、自動有効期限の設定などが必要になります。企業向けには、IT管理者がデバイス間のクリップボード同期を制限できる管理機能も求められるでしょう。
StatCounterのデータによれば、Androidは世界のモバイルOS市場の約71%を占め、Windowsはデスクトップ市場の約73%を占めています。ユニバーサルクリップボードが適切に実装されれば、数億人のユーザーの日常的なワークフローに影響を与える可能性があります。
Appleのユニバーサルクリップボードは、同じApple IDでサインインし、BluetoothとWi-Fiが有効な近距離のデバイス間で動作します。Bluetooth Low Energy(BLE)でデバイスを検出し、Wi-Fiでデータを転送する仕組みです。Googleも同様のアプローチを取る可能性が高いですが、Android PCとの連携を重視していることから、より広範なデバイス間での動作も視野に入れている可能性があります。
この機能がAndroid 17で正式にリリースされるかどうかは未確定ですが、開発者プレビューやベータビルドで姿を現す可能性が高いとみられています。Googleがどのデバイスをサポートするのか、ChromebookやWindows PCとの互換性はどうなるのか、といった詳細はまだ明らかになっていません。
【用語解説】
ユニバーサルクリップボード(Universal Clipboard)
異なるデバイス間でクリップボードの内容を同期する機能。あるデバイスでコピーしたテキストや画像を、別のデバイスで即座にペーストできる。Appleが2016年にiOS 10とmacOS Sierraで導入し、iPhone、iPad、Mac間で利用可能となった。
Android 17
Googleが開発中のAndroidオペレーティングシステムの次期バージョン。コードネームは「Cinnamon Bun」で、API level 37として開発が進められている。2026年のリリースが予想されている。
Continuity(コンティニュイティ)
Appleが提供するクロスデバイス機能群の総称。ユニバーサルクリップボード、Handoff、AirDrop、iPhone Cellular Callsなどが含まれる。同じApple IDでサインインした近距離のデバイス間で、シームレスな連携を実現する。
Handoff(ハンドオフ)
あるデバイスで開始した作業を、別のデバイスで継続できる機能。例えば、iPhoneで閲覧していたウェブページを、Macで即座に開いて続きを読むことができる。Appleが提供するContinuity機能の一つ。
Google Play Services
Androidデバイス上で動作するバックグラウンドサービス。Google APIの提供、アプリの自動更新、位置情報サービス、デバイス間の同期など、Androidの基盤機能を担う。
Bluetooth Low Energy (BLE)
従来のBluetoothよりも消費電力を大幅に抑えた無線通信技術。デバイスの検出や近距離通信に使用される。AppleのユニバーサルクリップボードもBLEを利用してデバイス間の接続を確立する。
Snapdragon Summit
Qualcommが毎年開催する技術イベント。最新のSnapdragonプロセッサや関連技術が発表される。2025年のサミットでは、GoogleのAndroid PCプロジェクトが大きく取り上げられた。
【参考リンク】
Android Authority(外部)
Android専門のテクノロジーメディア。最新ニュース、レビュー、ハウツーガイドを提供し、今回のユニバーサルクリップボード機能を最初に報じた。
Google Android Developers(外部)
Googleが提供するAndroid開発者向け公式サイト。APIドキュメント、開発ガイド、リリース情報などを掲載している。
Apple Support – Universal Clipboard(外部)
Appleのユニバーサルクリップボード機能に関する公式サポートページ。設定方法や使用要件、トラブルシューティング情報を提供。
Qualcomm(外部)
モバイルプロセッサやワイヤレス技術を開発する半導体企業。SnapdragonチップはAndroidデバイスで広く採用されている。
Google Play Services(外部)
Google Play Servicesの開発者向けドキュメント。APIの仕様や実装方法について詳細な情報を提供している。
【参考記事】
Copy that: Android 17 may add a ‘Universal Clipboard’ for Android PCs(外部)
Android Authorityによる詳細な技術レポート。UniversalClipboardManagerクラスの発見や名前空間の分析を含む。
Android 17 Readies Universal Clipboard For Android PCs(外部)
Android 10以降のクリップボード制限の歴史やセキュリティ要件について詳述。市場への影響を分析している。
Google’s Android PCs: The Game-Changer Coming in 2025(外部)
Snapdragon SummitでのRick OsterlohとCristiano Amonの発言を詳述。GoogleのAndroid PC戦略を解説している。
Use Universal Clipboard to copy and paste between your Apple devices(外部)
Appleの公式ドキュメント。ユニバーサルクリップボードの技術仕様、必要な設定、デバイス要件について正確な情報を提供。
Android PCs Are Officially Coming in 2026 to Challenge Windows(外部)
GoogleとQualcommのAndroid PC戦略の全体像を解説。ChromeOSとAndroidの統合、2026年のリリース目標について詳述。
How to access and manage your clipboard on Android(外部)
現在のAndroidクリップボード機能の詳細。Android 13以降のビジュアルクリップボード、自動削除機能について解説。
Continuity features and requirements for Apple devices(外部)
AppleのContinuity機能全体の公式ドキュメント。ユニバーサルクリップボード、Handoff、AirDropなどの相互関係を説明。
【編集部後記】
スマートフォンでコピーしたリンクを、自分宛にメッセージで送ったり、メモアプリに一時保存したりした経験は誰しもあるのではないでしょうか。この小さな手間が、もしかしたら近い将来なくなるかもしれません。Appleユーザーが長年享受してきたシームレスな体験を、Androidユーザーもようやく手にできる日が近づいています。
一方で、クリップボードには機密情報も頻繁にコピーされます。この便利さとプライバシー保護のバランスをどう取るべきか、みなさんはどのようにお考えでしょうか。デバイス間の垣根が低くなることで、私たちの働き方や創造的な活動はどう変化していくのか。一緒に見守っていきたいと思います。
























