Warner Music GroupとSunoがAI音楽で提携──アーティストの声とライクネスをどう守り、どう稼ぐか

Warner Music GroupとSunoがAI音楽で提携──アーティストの声とライクネスをどう守り、どう稼ぐか - innovaTopia - (イノベトピア)

Warner Music Group(WMG)は、AI音楽生成プラットフォームSunoとライセンス契約を結び、参加アーティストの声や名前、ライクネス、楽曲を用いた生成コンテンツを正式に認める枠組みを整えた。

WMGは同時に、Sunoに対して提起していた著作権訴訟を和解・取り下げており、UdioやKlayとの合意と合わせて、メジャーレーベルが訴訟からライセンスモデルへと軸足を移しつつあることが浮き彫りになっている。

SunoはWMGのライセンス音源を用いて既存のv5を超える次世代モデルの開発を進める計画で、今後は有料アカウントに楽曲ダウンロードを限定する方針も示している。

From: 文献リンクWarner Music Group partners with Suno to offer AI likenesses of its artists

【編集部解説】

今回のWMGとSunoの提携は、AI音楽と著作権をめぐる「対立の時代」から「条件付き共存の時代」への転換点と言える動きです。訴訟で激しく争っていた相手と、アーティストの声や名前、ライクネスを含むデータを公式にライセンスする枠組みを組み直したことが象徴的です。

重要なのは、これが単発のディールではなく、Udioとの和解やKlayとのライセンス契約と連動した「エコシステム設計」の一部になっている点です。メジャー3社が複数のAI音楽プラットフォームと相次いで合意したことで、無許可スクレイピングから、権利処理済みデータを前提としたビジネスモデルへと、産業全体の潮目が変わりつつあります。

技術的には、SunoがWMGのライセンス音源を使い、既存のv5を超える次世代モデルを構築すると表明している点がポイントです。これは単なる精度向上だけでなく、「誰のデータがどのように使われ、どのように収益に結びついているか」を説明しやすいクリーンな訓練データセットへのシフトとも言えます。

一方で、「アーティストがフルコントロールできる」とされている部分は、今後の運用設計次第で評価が変わる領域です。どの程度細かく利用条件を設定できるのか、二次利用や配信、商用利用をどう制御するのかといった具体的なメカニズムは、現時点の公開情報だけでは読み取れず、実装次第では新たな摩擦を生むリスクも残ります。

「訴訟で圧力をかけつつ、最終的にライセンスで合意する」という今回の構図は、画像、動画、ゲームなど他のクリエイティブ領域にも波及しうるプロトタイプです。包括ライセンスとオプトイン/オプトアウトを組み合わせたモデルが業界標準になると、後発のAIスタートアップは早期から権利処理を組み込まざるを得ず、ビジネス設計においても「法務・レーベル連携」が前提条件になっていくでしょう。

この動きは「AIが音楽を奪うかどうか」の議論から、「どの条件ならAIと共創できるか」というデザインのフェーズに入ったことを示しています。ファンはお気に入りのアーティストの声やスタイルを素材に、個人レベルで高度なリミックスや二次創作体験を得られる可能性がある一方で、アーティスト側には新しい収益源とブランディングの機会が生まれます。

とはいえ、訓練データの透明性、レベニューシェアの算定方法、同意の範囲、ディープフェイク的な悪用との線引きなど、クリアすべき論点は多く残ります。AIを前提にした音楽産業の再設計は、ここから数年かけて「どこまでを許容し、どこからを規制するか」というルールメイキングのフェーズに入り、その結果次第で、音楽制作の裾野の広がり方やアーティストの職能も大きく変わっていくはずです。

【用語解説】

ライセンス契約(licensing deal)
著作権や肖像権などの権利者が、定められた条件のもとで利用を許諾する契約形態であり、対価や利用範囲、期間などが明文化される。

ライクネス(likeness)
人物の声、顔、名前、シルエットなど、その人物を識別可能にする特徴全般を指す概念であり、AI生成によるボイスクローンやアバター利用の文脈で重視されている。

【参考リンク】

Warner Music Group(外部)
米国の大手音楽企業で、多数のレーベルとアーティストのカタログを保有し、音源と権利ビジネスをグローバルに展開している。

Suno(外部)
ブラウザ上でテキストから楽曲を生成できるAI音楽プラットフォームで、高品質なボーカル生成機能とシンプルなUIを提供している。

Udio(外部)
テキストプロンプトからオリジナル楽曲を生成するAIサービスを展開し、メジャーレーベルとのライセンス合意を通じて商用利用対応を進めている。

Klay(外部)
「ethical AI music」を掲げるAI音楽ストリーミング/生成プラットフォームで、UMGやSony、WMGとライセンス契約を結び、権利処理済みコンテンツを扱っている。

【参考動画】

【参考記事】

Warner Music signs deal with AI music startup Suno, settles lawsuit(外部)
WMGとSunoの和解とライセンス契約の概要を整理し、訴訟の経緯とUdioとの合意との関係、メジャー3社によるAI音楽戦略の転換点として位置付けている。

Warner Music Group settles copyright case with Suno for licensed AI music(外部)
WMGがSunoとの著作権訴訟を和解し、ライセンス付きAI音楽生成の合意に至った事実関係を簡潔に示し、訓練データや権利処理のあり方が業界標準に影響しうると指摘している。

Warner Music settles copyright lawsuit with Udio, signs deal for AI music platform(外部)
WMGとUdioの著作権訴訟の和解とライセンス契約について、争点と合意内容を整理し、Sunoとの提携を含む一連のAI音楽ディールの文脈を説明している。

AI Music Platform KLAY Signs Deals With Universal, Sony and Warner(外部)
KlayがUMG、Sony、WMGとライセンス契約を締結した事実を報じ、メジャー3社がAI音楽プラットフォームと包括的な提携関係を築き始めた構造変化を示している。

Sony, Warner and Universal sign AI music licensing deals with startup Klay(外部)
Klayとメジャー3社のライセンス契約を国際的視点から取り上げ、アーティスト保護とAI活用のバランス、政策・規制面のインパクトに焦点を当てている。

Warner Music Settles Lawsuit With AI Music Startup Suno(外部)
BloombergがWMGとSunoの和解をビジネス面から分析し、レーベルの収益モデルやAI企業の評価、投資家の見方を含めた経済的インパクトを解説している。

Warner Music drops lawsuit against AI music platform Suno in exchange for licensing deal(外部)
WMGがSunoへの訴訟を取り下げる代わりにライセンス契約を結んだ経緯を紹介し、AI音楽企業との関係が対立から協業へ移っていることを示している

【編集部後記】

AI音楽まわりのニュースを追っていると、「クリエイターの仕事が奪われるのでは」という不安と、「自分でも曲が作れてしまう」というワクワクが常に同時に立ち上がります。今回のWMGとSunoの件は、その両方をどう整えるかを、現実の契約とプロダクトで試し始めた最初の大きな実験のように感じました。

個人的には、「ライクネスをどう扱うか」がこれからの鍵になると見ています。声や顔、名前をAIに預けることは、アーティストにとって単なる追加収入ではなく、自分の「分身」をどこまで社会に送り出すかの選択でもあります。読者のみなさんは、この新しい選択肢が自分の推しや、自分自身にとってどんな未来を開きうるのか、ぜひ想像しながらニュースを追いかけてみてください。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…