Last Updated on 2025-03-18 19:03 by admin
ベルリンを拠点とするゲーム開発会社Klang Gamesは、2025年3月中旬、Google Cloudとの提携を発表した。この提携により、AI駆動のシミュレーションゲーム「Seed」の開発を進める。
Seedは、プレイヤーが仮想世界で数千のAI駆動キャラクター「Seedling」とやり取りできる持続的シミュレーションゲームである。Google Cloudの生成AIやその他のクラウドテクノロジーを活用し、以下の機能を実現する:
- 自然言語によるキャラクター作成とカスタマイズ
- プレイヤーの選択に基づくダイナミックなストーリーテリング
- AIによる多様でリアルな環境、オブジェクト、キャラクターの生成
- 自然言語を用いたAI駆動キャラクターとのコミュニケーション
Klang GamesのCEO、Mundi Vondi氏は、この提携がゲーム開発の境界を押し広げ、比類のない没入感と相互作用性をプレイヤーに提供すると述べている。
GoogleのシニアバイスプレジデントおよびチーフビジネスオフィサーであるPhilipp Schindler氏も、この協力関係がゲームにおけるAIの変革的可能性を示すと評価している。
Klang Gamesは2013年に設立されたスタートアップで、これまでに約4,100万ドル(約61億円)の資金調達を行っている。Seedの正式リリース日は未定だが、2025年中のベータ版公開を目指している。
from Klang Games partners with Google Cloud on AI-driven simulation game Seed
【編集部解説】
2025年3月17日、ベルリンを拠点とするゲーム開発スタジオKlang Gamesは、Google Cloudとの戦略的パートナーシップを発表しました。この提携により、AI駆動の大規模シミュレーションゲーム「Seed」の開発が加速します。この出来事は、単なるビジネス提携を超えた、ゲーム産業の未来を示す重要な転換点と言えるでしょう。
「生きた世界」を創造するテクノロジー
Seedは従来のMMO(Massively Multiplayer Online)の概念を根本から覆す野心的なプロジェクトです。Google CloudのVertex AI、Gemini 2.0モデル、Google Kubernetes Engine(GKE)を活用し、「Seedling」と呼ばれる数十万の自律型AI人間が住む持続的な仮想世界を構築しています。
最も革新的な点は、プレイヤーがオフラインの間も、Seedlingたちが生活し、相互作用し、進化し続けることです。Klang GamesのCEO、Mundi Vondi氏は「前例のない詳細レベルで人類の未来の最大規模のシミュレーションを構築している」と述べています。
これは、Google CloudのグローバルゲームディレクターであるJack Buser氏が予測していた「リビングゲーム(生きたゲーム)」の概念が現実になりつつある証拠です。Buser氏は「これは業界の方向性を示す多くの指標があり、今日、そのモメンタムが現実になりつつある」と語っています。
AIがもたらすゲーム体験の変革
2025年のゲーム業界では、AIの活用が急速に進んでいます。調査によれば、60%以上のスタジオがワークフローの効率化やアイデア創出にAIを活用しており、ゲーム市場は2029年までに5416億ポンド(約97.5兆円)に達すると予測されています。
Seedの場合、生成AIの登場がゲーム開発の転換点となりました。以前は、Seedlingとプレイヤー間の本格的な会話は不可能でしたが、現在では各Seedlingに個性、ニーズ、歴史、願望などの独自のコンテキストを与え、意味のある対話を可能にしています。Vondi氏は「ニヒリストのSeedlingにテレビを見るよう頼むと、『テレビは見るけど、楽しむとは思わないで』と返答するかもしれない」と例を挙げています。
クラウドとAIの融合がもたらす可能性と課題
Google Cloudのインフラストラクチャは、Seedの複雑なエコシステムに必要なスケーラビリティ、パフォーマンス、信頼性を提供します。特に注目すべきは、マルチリージョンGKEクラスターによるゲームサーバーの迅速な拡張能力で、低レイテンシーとゲーム内エリア間のシームレスな移行を実現しています。
しかし、この技術革新には課題も存在します。大規模なAI処理のスケーリングは依然として制限があり、Vondi氏は「特定のスケール制限で立ち上げるが、進化するにつれて改善される」と述べています。
また、AIワークロードをクラウドとローカルデバイスの間でどう分散させるかという問題もあります。Buser氏は「GKE内にシステムを構築し、どのワークロードがクラウドに最適で、どれがローカルデバイスで優れているかを判断する方法を考えている」と説明しています。
デジタル社会学の実験場としてのSeed
Seedは単なるゲームを超え、デジタル社会学の実験場とも言えます。プレイヤーはSeedlingに対して、教育経路や専門分野の選択など、大まかな戦略的目標を設定します。これにより、Seedlingの将来の職業や個人的な発展が形作られていきます。
さらに、カレンダー機能により重要な人生のマイルストーンを追跡し、過去のイベントや今後の出来事を簡単に確認できるようになります。プレイヤーは自分のSeedlingと直接コミュニケーションを取り、まるで古い友人や家族と近況を語り合うような体験ができるのです。
2025年以降のゲーム産業の展望
Klang GamesとGoogle Cloudの提携は、2025年以降のゲーム産業の方向性を示しています。AIによるプロシージャルコンテンツ生成、適応型難易度調整、AI駆動のストーリーテリングなどの技術が、ゲーム開発の標準になりつつあります。
特に注目すべきは、AIがVRやARの体験を強化し、より現実的な相互作用、環境、NPCの行動を生み出すという予測です。これにより、現実と仮想の境界がさらに曖昧になり、新たなコミュニケーションや経済活動の形が生まれる可能性があります。
Klang Gamesは2013年に設立され、2022年には4100万ドル(約61億円)の資金調達を行いました。100人以上の従業員を抱える現在、2025年末までにアーリーアクセスを開始する計画です。Vondi氏は「現在の状態は非常に良好で、プレイ可能だ。本当にユニークなものを持っていると信じている」と自信を示しています。
私たちは今、ゲームの未来が形作られる重要な転換点に立っています。Seedのような野心的なプロジェクトは、単にエンターテイメントの形を変えるだけでなく、デジタル世界と現実世界の関係性、そして人間とAIの共存の可能性を探る壮大な実験でもあるのです。
【用語解説】
Seedling:
Seedゲーム内のAI駆動キャラクター。プレイヤーがオフラインの間も自律的に活動し、独自の性格や関係性を形成する。例えるなら、24時間365日稼働している仮想の「どうぶつの森」の住人のようなものである。
Vertex AI:
Google Cloudが提供する機械学習プラットフォーム。データの準備から、モデルのトレーニング、デプロイメントまでを一貫して行える。
Google Kubernetes Engine(GKE):
Googleが提供するコンテナオーケストレーションシステム。大規模なアプリケーションの管理や展開を効率的に行うことができる。
【参考リンク】
Klang Games(外部)ベルリンを拠点とするゲーム開発スタジオ。AIを活用した大規模シミュレーションゲーム「Seed」を開発中。
Google Cloud(外部)Googleが提供するクラウドコンピューティングサービス。AIや機械学習、ビッグデータ分析などの技術を提供。