Last Updated on 2025-04-25 13:01 by admin
マイクロソフトが2025年4月3日にリリースしたVisual Studio Code用C/C++拡張機能のv1.24.5から、VS CodeumやCursorなどのVS Code派生製品での使用を技術的に制限した。この変更により、これらの派生製品を使用する開発者のC/C++開発ワークフローが中断され、大きな混乱が生じている。
マイクロソフトは2020年9月から自社製品以外での拡張機能使用を禁止するライセンス条項を公開していたが、今回初めて技術的な制限を実装した。この動きは、マイクロソフトが2025年4月7日にリリースした独自のAIエージェント機能「Agent Mode」との競合を避けるための戦略ではないかという見方が強い。
Cursor開発元のAnysphereの共同創業者兼CEOであるMichael Truell氏は、一時的な修正を展開し、より永続的な解決策を計画していると述べた。同氏によれば、マイクロソフトにはRemote Access、Pylance、C/C++、C#などのクローズドソース拡張機能があり、これらが非マイクロソフトエディタで動作しなくなったという。
開発者の間では、Cursorバージョン1.17.62では問題なく動作するが、バージョン1.18.21以降では正常に機能しないため、一時的な回避策として古いバージョンにダウングレードする方法が共有されている。一部の開発者は、マイクロソフトの行為を不公正な競争として米国連邦取引委員会(FTC)に調査を依頼したと報告されている。
from:Devs sound alarm after Microsoft subtracts C/C++ extension from VS Code forks
【編集部解説】
今回のマイクロソフトによるVS Code派生製品からのC/C++拡張機能削除は、オープンソースと商業的利益の境界線に関する重要な議論を投げかけています。複数の情報源を確認したところ、この変更は2025年4月3日にリリースされたv1.24.5で実装され、VS CodeumやCursorなどの派生製品に影響を与えていることが確認できました。
注目すべきは、この制限が突然実装されたわけではないという点です。マイクロソフトは少なくとも2020年9月から、ライセンス条項で自社製品以外での拡張機能使用を禁止していました。実際、VS Code C/C++拡張機能のライセンスファイルには明示的な禁止事項が記載されていました。つまり、今回の変更はライセンス条項の新設ではなく、既存の条項の技術的な実装と言えるでしょう。
この変更のタイミングが興味深いのは、マイクロソフトが2025年4月7日にAgent Modeをすべてのユーザーに提供開始したことと時期が重なる点です。Agent ModeはAIを活用したコーディング支援機能で、CursorのようなAIコードアシスタントと直接競合します。GitHubの議論によれば、この制限はC/C++拡張機能のnativeStrings.jsonファイルの485行目に追加されたコードによって実装されたことが分かっています。
開発者コミュニティ内では、マイクロソフトのこの動きを「自社優遇(self-preferencing)」と見る声も多いです。特に、C/C++拡張機能だけでなく、C#、Pylance、Remote Accessなどの拡張機能も同様の制限が適用されていることから、これはマイクロソフトの一貫した戦略の一部と見ることができます。
この問題の背景には、VS Codeのライセンスモデルの複雑さがあります。VS Codeのコアとなる「Code-OSS」はMITライセンスでオープンソース化されていますが、マイクロソフトが配布する「VS Code」には独自のカスタマイズが加えられ、従来のマイクロソフト製品ライセンスの下で提供されています。この二重構造が、オープンソースの精神と商業的利益のバランスをめぐる議論を複雑にしています。
Cursor側の対応としては、一時的な修正を展開し、オープンソースの代替品への移行を進めていることが報告されています。また、多くの開発者はCursorバージョン1.17.62にロールバックするという対処法を取っているようです。
この事例は、テクノロジー業界における「プラットフォームパワー」の行使と、それに対する開発者コミュニティの反応を示す典型的な例と言えるでしょう。マイクロソフトのような大手企業がエコシステムをコントロールする権利と、オープンソースの自由な利用・改変の精神との間の緊張関係は、今後も続くものと思われます。
【用語解説】
Visual Studio Code (VS Code):
マイクロソフト社が開発した無料のコードエディタ。多くのプログラミング言語に対応し、拡張機能によって機能を追加できる。プログラマーの間で最も人気のあるコードエディタの一つである。
VS Codium:
VS Codeのオープンソース版で、マイクロソフトのテレメトリ(使用状況データの収集)機能を削除したもの。VS Codeと同じ機能を持つが、マイクロソフトにデータを送信しない点が異なる。
Cursor:
VS Codeをベースに構築された商用AIコードアシスタント。AIを活用してコード生成や補完、エラー修正などの機能を提供する。
C/C++拡張機能:
VS Codeで C言語とC++言語のプログラミングをサポートする拡張機能。IntelliSense(コード補完)やデバッグなどの機能を提供する。
Agent Mode:
マイクロソフトが2025年4月7日にリリースした、VS Code内でAIがプログラマーのパートナーとして動作する機能。コードの分析、ファイル編集、ターミナルコマンドの実行などを自律的に行う。
GitHub Copilot:
マイクロソフト傘下のGitHubが提供するAIコード補完ツール。VS CodeやJetBrains IDEと統合され、コードの自動補完を行う。
テレメトリ:
ソフトウェアの使用状況やエラー情報などを自動的に収集し、開発元に送信する仕組み。製品の改善に役立てられるが、プライバシーの観点から懸念を持つユーザーもいる。
【参考リンク】
Visual Studio Code公式サイト(外部)
マイクロソフトが提供する無料のコードエディタの公式サイト。ダウンロードやドキュメント、拡張機能の情報を提供している。
VS Codium公式サイト(外部)
VS CodeからMicrosoftのテレメトリを削除したオープンソース版の公式サイト。バイナリのダウンロードや情報を提供している。
Cursor公式サイト(外部)
AIを活用したコードエディタCursorの公式サイト。機能紹介やダウンロード、料金プランなどの情報を提供している。
【参考動画】
【編集部後記】
開発環境の選択は、プログラマーの皆さんにとって日々のワークフローを左右する重要な決断ですね。VS Codeを使われている方、特にC/C++開発に携わる方は、今回のマイクロソフトの動きをどう受け止められましたか?オープンソースと商用ソフトウェアの境界線が曖昧になる中、皆さんはどのような基準でツールを選んでいますか?もし代替ツールへの移行を検討されているなら、Cursorバージョン1.17.62へのロールバックや、clangdなどのオープンソース代替品への移行について、どのような経験をされていますか?SNSでぜひ皆さんの考えをシェアしていただければ嬉しいです。