Last Updated on 2025-05-08 17:38 by admin
現代のAI技術を使用すれば、第二次世界大戦中にナチスドイツが使用した「エニグマ」暗号を短時間で解読できることが専門家によって明らかにされた。2025年5月7日付のThe Guardian紙の記事によると、かつてアラン・チューリングと彼のチームが膨大な時間と労力をかけて解読した暗号が、現代のコンピューティング技術では「瞬時に」解読可能だという。
オックスフォード大学のマイケル・ウールドリッジ教授は「エニグマは現代のコンピューティングと統計学には太刀打ちできない」と述べている。エニグマ装置は3つの回転子(それぞれ26の可能なポジション)、反射板、プラグボードを備えた電気機械式マシンで、同じキーを押しても毎回異なる文字が生成される仕組みだった。可能な組み合わせは151兆通りに達していた。
2017年には、研究者たちがグリム童話で訓練されたAIシステムと2,000台の仮想サーバーを使用して、エニグマ暗号を13分で解読することに成功している。一方、1943年当時のチューリングのチームが開発した「爆弾(Bombes)」と呼ばれる機械は、1分間に2つのメッセージを解読するのが限界だった。
マンチェスター大学のムスタファ・A・ムスタファ博士は、エニグマ解読の歴史的意義について「戦争の期間内にこれを行うことができたことは大きなことだった。もしエニグマを時間内に解読していなかったら、何が起こっていたか神のみぞ知るところだ」と述べている。エニグマ暗号の解読は第二次世界大戦を最大2年短縮したと評価されている。
References:Today’s AI can crack second world war Enigma code ‘in short order’, experts say
【編集部解説】
読者の皆様、今回のニュースは第二次世界大戦の暗号解読技術と現代のAI技術の驚くべき対比を示しています。複数の情報源を確認したところ、実際にAIを使ったエニグマ暗号解読の実験は2017年に行われ、13分(一部の情報源では「10分強」)で成功したことが確認できました。
エニグマ暗号の複雑さについて少し補足しますと、ナチスドイツが使用していたエニグマ機は、単なる暗号装置ではなく、当時としては最先端の暗号技術の結晶でした。3つの回転子(海軍版では4つ)、反射板、プラグボードを組み合わせることで、可能な組み合わせは天文学的数字の151兆通りに達していました。
チューリングと彼のチームがこの暗号を解読できた背景には、エニグマ機の設計上の弱点を巧みに利用したことがありました。例えば「同じ文字が同じ文字として暗号化されない」という特性や、ドイツ軍の通信に頻繁に現れる定型文(「eins(1)」という単語が90%のメッセージに含まれていたなど)を手がかりにしたのです。
現代のAI技術による解読アプローチは、チューリングのものとは異なります。2017年の実験では、グリム童話でドイツ語を学習したAIが「ドイツ語らしさ」を判断基準として使用されました。これは単なる暗号解読というより、言語モデルの応用と言えるでしょう。
この技術進化が示唆するのは、現代の暗号技術の脆弱性です。RSA暗号のような現代の暗号は依然として安全とされていますが、量子コンピューティングの発展により、その安全性も脅かされる可能性があります。
私たちの日常生活においても、この事例は重要な意味を持ちます。記事によれば、同様の技術を使えば20文字のパスワードでさえ20分以内に解読される可能性があるとのこと。これは私たちのデジタルセキュリティの考え方に根本的な再考を促すものです。
長期的には、生体認証などの新たな認証方法への移行が加速する可能性があります。暗号技術と解読技術の間の「軍拡競争」は今後も続くでしょうが、AIの発展によってその均衡が崩れる可能性も考慮する必要があるでしょう。
歴史的な視点から見ると、チューリングらの功績は依然として偉大です。当時の限られた技術で「解読不可能」と思われていた暗号を解読し、戦争の行方を変えたことは、人間の創造性と粘り強さの証明と言えるでしょう。
テクノロジーの進化は加速し続けています。今日の「解読不可能」な暗号が明日には解読される世界で、私たちはどのようにデータを守っていくべきなのか。この問いかけこそが、今回のニュースが私たちに投げかける最も重要なメッセージかもしれません。
【用語解説】
エニグマ暗号機:
第二次世界大戦中にナチスドイツが使用した電気機械式暗号装置。タイプライターに似た外観で、内部の回転子(ローター)が文字を複雑に置換する仕組み。名称はギリシャ語で「謎」を意味する。
ブルートフォース攻撃:
総当たり攻撃とも呼ばれ、可能なすべての組み合わせを試すことで暗号を解読する方法。現代のコンピューティングパワーを使えば、かつては天文学的な時間がかかると思われた計算も短時間で実行可能になった。
RSA暗号:
1977年に開発された、大きな素数の掛け算とその逆操作(因数分解)の難しさを利用した暗号方式。現代のインターネットセキュリティの基盤となっている。
Enigma Pattern:
2017年3月30日にポーランドのウッチで設立されたAI企業。エニグマ暗号解読実験を行ったことで知られる。カスタマイズされたAIソリューションを提供している。
爆弾(Bombes):
チューリングらが開発した電気機械式の計算機。エニグマの設定を自動的に試行するために設計された。1943年までには1分間に2つのメッセージを解読できるようになった。
【参考リンク】
The Imperial War Museum(外部)
2017年にEnigma Patternによるエニグマ解読実験が行われた博物館。
Bletchley Park(外部)
チューリングらが実際にエニグマ解読に取り組んだ英国の施設。現在は博物館。
【参考動画】
【編集部後記】
第二次世界大戦の暗号解読技術から現代のAIまで、テクノロジーの進化は私たちの想像を超えるスピードで進んでいます。皆さんは普段使用しているパスワードやセキュリティ対策について、どのように考えていますか? 「解読不可能」と思われていた暗号が、わずか13分で解かれる時代。この記事をきっかけに、デジタルセキュリティについて一緒に考えてみませんか? SNSでぜひ皆さんの見解をシェアしていただければ嬉しいです。