英国政府が開発したAIツール「Consult」が、スコットランド政府による非外科的美容処置規制に関するパブリックコンサルテーション(2025年1月から3月に実施)で初めて実運用された。Consultは、政府AIスイート「Humphrey」の一部として、2,000件を超える一般市民や専門家からの自由記述回答を自動で分析し、主要なテーマを抽出した。
科学・イノベーション・技術省(DSIT)の発表によれば、Consultは6つの設問ごとに人間専門家の分析とほぼ同等の結果を示し、F1スコアは0.76に達した。これにより、従来年間75,000人日かかっていた分析作業を最大97%短縮し、年間2,000万ポンド(約39億円)のコスト削減が期待されている。現在、英国政府では年間約500件のコンサルテーションが実施されており、今後は他省庁やイングランド全域への展開も計画されている。
科学技術相ピーター・カイルは「AIが迅速かつ正確に遂行できる業務に人的リソースを割くべきではない」と述べ、スコットランド政府のジェニー・ミント公衆衛生相も「政策立案に必要な洞察に集中できるようになった」と評価した。
Consultの運用は、専門家による監督とダッシュボードでの最終確認を組み合わせており、AIによるバイアスや誤判定のリスクにも配慮している。今後数週間以内にイングランド各省庁での本格運用開始が予定されている。
References:
Government-built AI tool reviews consultation responses for first time | BBC News
Scottish Government debuts AI in public consultations | Think Digital Partners
Consult, the UK’s Government AI, Validated by a First Successful Test | Actu IA
Latest – Digital | Scottish Government
Government-built “Humphrey” AI tool reviews responses to consultation for first time, in bid to save millions | GOV.UK
【編集部解説】
英国政府が開発したAIツール「Consult」の初運用は、行政のデジタル変革における新たな一歩です。今回スコットランド政府が非外科的美容処置規制のパブリックコンサルテーションで導入したことで、2,000件を超える市民や専門家の自由記述回答をAIが自動で分類・分析し、政策形成の基礎となる主要テーマを迅速に抽出できることが実証されました。F1スコア0.76という精度は、AIが人間専門家の分析にかなり近い水準に到達していることを示しています。
行政効率化の観点からは、従来人手で行っていた膨大な意見集約作業がAIによって大幅に短縮され、年間75,000人日分の作業を最大97%削減できるとされています。これにより年間2,000万ポンド(約39億円)のコスト削減が期待されており、今後イングランドを含む他省庁への展開も計画されています。行政サービスの迅速化とコスト効率化は、今後の公共政策運営において極めて大きな意味を持つでしょう。
一方で、AI特有のバイアスやハルシネーション(事実と異なる情報の生成)に対する懸念も根強く残っています。Consultの運用では、AIの分析結果を専門家がダッシュボードで監督・修正する体制を整えていますが、完全な自動化にはリスクが伴います。英国ではAI規制についてイノベーション促進を重視する一方で、アルゴリズムの透明性やデータの公平性、倫理的枠組みの整備が今後の課題です。特に公共分野でAIを活用する場合、市民の信頼を得るためには、意思決定のプロセスやAIの判断根拠を明確に示すことが不可欠です。
また、英国のAI政策はEUの厳格な規制路線とは異なり、業界の自主規制や柔軟な運用を重視しています。これにより技術革新のスピードは維持されますが、社会的な合意形成や権利保護とのバランスが問われています。AIによる行政効率化の恩恵を最大化するためには、技術と倫理、透明性の三位一体で進めることが重要です。
【用語解説】
Consult:
英国政府が開発したAIベースのデジタルアシスタントで、パブリックコンサルテーションで集まった自由記述回答を自動で分析・分類するツール。従来人手で行っていた膨大な意見集約作業を効率化し、政策立案の迅速化に寄与する。専門家による監督とダッシュボードでの最終確認が組み合わされている。
Humphrey:
Consultを含む英国政府のAIツール群の総称。公的業務の効率化やコスト削減を目的に開発され、議事録分析や文書要約、法律調査支援など複数の機能を持つ。
F1スコア:
AIモデルの精度を評価する指標の一つで、適合率(Precision)と再現率(Recall)の調和平均。1に近いほど人間の分析とAIの結果が一致していることを示す。
パブリックコンサルテーション:
政府や自治体が新たな政策や規制を検討する際、広く市民や専門家から意見を募集する手続き。英国では年間約500件実施されている。
ハルシネーション:
AIが事実と異なる内容や誤った情報を生成してしまう現象。特に生成AIや自然言語処理分野で問題視されている。
バイアス:
AIが学習データの偏りを反映し、特定の意見や属性に有利・不利な結果を出すこと。公平性や透明性の観点から重要な課題となっている。
【参考リンク】
Consult(英国政府公式)(外部)
英国政府のAI開発組織i.AIによるConsultの公式プロジェクトページ。Consultの概要や目的、開発状況などが掲載されている。
Humphrey(英国政府公式)(外部)
Humphreyスイート全体とConsultの初運用について解説する公式リリース。導入背景や効果、今後の展望も記載。
科学・イノベーション・技術省(DSIT)(外部)
英国政府の科学・イノベーション・技術省の公式ページ。AI政策やデジタル戦略に関する最新情報が掲載されている。
スコットランド政府 公衆衛生・女性の健康担当大臣(外部)
スコットランド政府の公衆衛生・女性の健康担当大臣の公式ページ。政策や担当者の情報が分かる。
GDS(Government Digital Service)(外部)
英国政府のデジタル化を推進する専門機関GDSの公式ページ。政府のDX戦略やデジタルサービスについて解説。