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Spotify、死去アーティストのAI偽装楽曲問題──Blaze Foley事件で露呈した配信システムの脆弱性

Spotify、死去アーティストのAI偽装楽曲問題──Blaze Foley事件で露呈した配信システムの脆弱性 - innovaTopia - (イノベトピア)

先月7月4日にinnovaTopiaでお伝えした「Spotify・DeezerでAI音楽が急拡散、月間410万リスナー獲得の実態と業界への影響」では、The Velvet Sundownなどの合法的AI音楽が月間85万リスナーを獲得する現象を報じました。しかし、AI音楽を巡る状況はより深刻な方向へと発展しています。

2025年7月下旬、今度は死去したアーティストの名前を悪用した偽装事件が発覚しました。1989年に殺害された故カントリーシンガーBlaze Foleyの公式プロフィールに、AI生成楽曲「Together」が無許可でアップロードされていたのです。

前回の記事では「AI音楽の急拡散」という現象面を扱いましたが、今回は音楽業界が直面する「アーティスト偽装」という犯罪レベルの問題に焦点を当てます。単なる技術的進歩を超えて、死者の人格権侵害や配信プラットフォームのセキュリティ問題まで浮上した、AI音楽問題の新たな局面をお伝えします。

From:文献リンクSpotify Takes Down Fake AI Song Credited to Famous Country Singer Who’s Been Dead for Years

【編集部解説】

今回のSpotifyでのAI楽曲偽装事件は、先月のinnovaTopia記事で予見されていた問題が、ついに犯罪レベルまで発展したことを示す象徴的な事件です。7月4日の記事では合法的なAI音楽の拡散現象を扱いましたが、わずか3週間後に死去したアーティストの人格権を侵害する事件が発生したことで、AI音楽問題の深刻さが改めて浮き彫りになりました。

AI音楽偽装の手口が巧妙化

前回記事で取り上げたThe Velvet Sundownは、架空のバンドとして一定の透明性を保っていました。しかし今回のBlaze Foley事件では、実在する故アーティストの公式プロフィールを直接乗っ取る手法が使われています。

「Syntax Error」という謎の主体が、TikTok傘下のSoundOnを経由してSpotifyに楽曲をアップロードしたこの手口は、配信システムの多層構造を悪用した巧妙な犯罪です。Lost Art RecordsのCraig McDonald氏が「Spotifyが承認なしに楽曲を追加できることを知らなかった」と証言していることからも、正規の権利者でさえプラットフォームの仕組みを完全に把握していない現状が浮かび上がります。

前回記事から見えてきた予兆

7月4日の記事で報じたDeezerの検出データ(1日のアップロード楽曲の18%がAI生成)は、まさにこうした偽装事件の温床となる環境を示していました。月間60万曲ものAI楽曲が流入する中で、今回のような悪質な偽装を完全に防ぐことは技術的に困難な状況にあります。

また、前回記事で言及したストリーミング詐欺の手法が、今回は死者の名前を使うという倫理的により問題のある形で応用されています。BannedVinylCollectionの制作者が月収200ドルを得ていた事例は「創作活動の民主化」として捉えることもできましたが、今回の事件は明確な犯罪行為です。

プラットフォーム対応の限界露呈

前回記事でDeezerの積極的なAI検出システムとSpotifyの消極的対応の格差を指摘しましたが、今回の事件でSpotifyの対応の限界がより明確になりました。「偽装コンテンツポリシー違反」として削除は行ったものの、根本的な予防策は示されていません。

Guy Clarkでも同様の事例が発生していることから、これは単発の事件ではなく、システマティックな攻撃の可能性が高いと考えられます。

法的枠組みの再構築が急務

前回記事で触れたSunoとUdioに対する著作権侵害訴訟は、AI学習データの権利問題を扱っていました。しかし今回の事件は、死去したアーティストの人格権侵害、商標権の悪用、消費者詐欺という複合的な法的問題を提起しています。

特に注目すべきは、Blaze Foleyが1989年に死去していることです。死後36年経った今でも、その名前と音楽的遺産が悪用される可能性があることは、音楽業界の法的保護制度の根本的な見直しを迫るものと言えるでしょう。

技術的対策の方向性

前回記事では、AI検出アルゴリズムによる対策を紹介しましたが、今回の事件を受けて、より包括的なアーティスト認証システムの必要性が明確になりました。ブロックチェーンを活用した楽曲の出自証明システムや、権利者による事前承認システムの導入が現実的な解決策として浮上しています。

音楽文化の真正性をどう守るか

前回記事では「創作活動の民主化」というAI音楽のポジティブな側面も紹介しましたが、今回の事件は文化的価値の保護という観点から、より慎重なアプローチが必要であることを示しています。

Blaze Foleyのようなアウトロー・カントリーの伝説的アーティストの名前が悪用されることは、単なる経済的損失を超えて、音楽文化そのものの毀損につながる深刻な問題です。

今後の業界動向

前回記事から3週間という短期間でこれほど深刻な事件が発生したことは、AI音楽問題の進展速度の速さを物語っています。The Velvet Sundownのような「グレーゾーン」の事例から、今回のような明確な犯罪行為まで、問題の性質は急速に悪化しています。

innovaTopiaが継続的に追跡しているこの問題は、今後も音楽業界の根幹を揺るがす重要なテクノロジー課題として注視していく必要があります。AI技術の「人類の進歩への貢献」という理想と、現実に発生している悪用事例のギャップを埋めるための業界全体での取り組みが、いまこそ求められています。

【用語解説】

AI音楽生成技術
テキストプロンプトや音声サンプルを基に、人工知能が自動的に楽曲を作成する技術。SunoやUdioなどのプラットフォームが代表的である。

ストリーミングプラットフォーム
インターネット経由で音楽を配信するサービス。ユーザーは楽曲をダウンロードせずに、リアルタイムで音楽を再生できる。

音楽配信業者(ディストリビューター)
アーティストの楽曲を各種ストリーミングサービスに代理配信する企業。CD Baby、DistroKid、TuneCoreなどが存在する。

偽装コンテンツポリシー
プラットフォームが設定する規約で、他者になりすましたり、誤解を招く形での楽曲配信を禁止する内容。

アウトロー・カントリー
1970年代に登場したカントリーミュージックのサブジャンル。既存の商業的カントリーに反発し、より自由で反骨精神に満ちた音楽性を特徴とする。

人格権
個人の名誉や氏名、肖像などの人格的利益を保護する権利。死後も一定期間保護される場合がある。

【参考リンク】

Spotify(外部)
世界最大級の音楽ストリーミングサービス。月間アクティブユーザー数は5億人を超え、楽曲数は1億曲以上を誇る。

SoundOn(外部)
TikTokが2022年に開始した音楽配信・マーケティングプラットフォーム。アーティストが直接TikTokや他のストリーミングサービスに楽曲をアップロードできる。

Lost Art Records(外部)
テキサス州オースティンを拠点とするレコードレーベル。故Blaze Foleyの楽曲カタログを管理している。

404 Media(外部)
技術とメディアの交差点に焦点を当てた独立系ニュースサイト。今回のSpotify AI楽曲問題を最初に報道した。

【参考記事】

Spotify Publishes AI-Generated Songs From Dead Artists Without Permission(外部)
Blaze FoleyとGuy Clarkの両方のケースを分析し、Lost Art RecordsのCraig McDonald氏のコメントを含む包括的な報道。

The Velvet Sundown: Inside the bizarre truth about ‘popular’ band(外部)
人気のAIバンドThe Velvet SundownがAI生成であることを公式に認めた経緯と、音楽業界への影響について報じた記事。

【編集部後記】

先月「AI音楽が月間410万リスナーを獲得」という現象をお伝えした時、正直なところ「技術の進歩がもたらす新しい可能性」として、どこか楽観的に捉えていた部分がありました。新しい技術が子供たちの未来にどんな創造性をもたらすのかと、期待する気持ちもあったからです。

しかし、わずか3週間後に死去したアーティストの名前を悪用する事件が発生したことで、AI技術の「影」の部分を改めて深く考えさせられています。Blaze Foleyという、1989年に39歳という若さで命を落としたアーティストの音楽的遺産が、このような形で汚されることに強い憤りを感じます。

私たち親世代が子供たちに残したいのは、本物の音楽体験、本物の感動です。「これは人間が作ったのか、AIが作ったのか」を常に疑わなければならない世界を、果たして次世代に託してよいのでしょうか。

一方で、AI技術そのものを否定するつもりはありません。適切に活用されれば、確実に私たちの創造性を拡張してくれる素晴らしいツールだからです。大切なのは、技術の進歩と倫理的な使用のバランスを見極めることだと思います。

皆さんはお子さんや身近な方に、どのようにこの変化を説明されますか?「便利になったね」だけでは済まされない、もっと根深い問題がここにはあるような気がしています。

一緒に考え続けていきましょう。音楽が持つ本来の力、人の心を動かす真の創造性を大切にしながら、新しい時代を歩んでいければと思います。

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TaTsu
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