ーTech for Human Evolutionー

Spotify・DeezerでAI音楽が急拡散、月間410万リスナー獲得の実態と業界への影響

Spotify・Deezer・SunoでAI音楽が急拡散、月間410万リスナー獲得の実態と業界への影響 - innovaTopia - (イノベトピア)

AI生成音楽がSpotifyやDeezerなどの音楽ストリーミングサービスで急速に拡散している。

TrueAnonポッドキャストのホストBrace Beldenは、Lucinda Williamsのアルバム「Sweet Old World」を聴いた後、SpotifyがBannedVinylCollectionの「Make Love to My Shitter」をキューに入れたと報告した。

BannedVinylCollectionの制作者JBはSpotifyから月収約200ドルを得ているが、主な収益源はPatreonとBandcampである。Music Business Worldwide創設者Tim Inghamは、13のAI生成アーティストが累計410万の月間リスナーを獲得していることを確認した。

フランスのDeezerは、1日のアップロード楽曲の18%(月間約60万曲)をAI楽曲として検出している。2025年6月、Vinh Prayの「A Million Colors」がTikTok Viral 50チャートで44位を記録し、AI生成楽曲として初めて米国チャートに入った。

The Velvet Sundownは数週間で85万人以上の月間リスナーを獲得したが、AI生成バンドとして物議を醸している。AI音声認識専門家Yossi Keshetは同バンドの楽曲を「間違いなくAI生成」と評価した。

From: 文献リンクFrom Sensual Butt Songs to Santa’s Alleged Coke Habit: AI Slop Music Is Getting Harder to Avoid

【編集部解説】

AI音楽生成技術の急速な普及と検出システムの現状

今回のWIRED記事で報告された事例は、AI音楽生成技術が既に実用段階に入り、一般ユーザーが意図せず接触する段階まで普及していることを示しています。特にDeezerが2025年に発表したデータによると、同プラットフォームでは1日のアップロード楽曲の18%(月間約60万曲)をAI生成楽曲として検出しており、この数値は急激に増加傾向にあります。

SunoとUdioが牽引するAI音楽革命

記事中で言及されているAI音楽生成ツール「Suno」は、現在最も影響力のあるプラットフォームの一つです。The Velvet Sundownの事例が示すように、SunoのPersona機能を使用することで、一貫した「ボーカルアバター」を作成し、複数の楽曲で同じ歌声を再現することが可能になっています。

この技術により、従来は専門的な音楽制作スキルや高額な機材が必要だった楽曲制作が、テキストプロンプトの入力だけで実現できるようになりました。

The Velvet Sundown現象の深層分析

The Velvet Sundownの事例は特に注目に値します。2025年6月のデビューから数週間で85万人以上の月間リスナーを獲得し、2枚のアルバムをリリースしました。しかし、バンドメンバーの実在性に疑問が持たれ、DeezerはすべてのトラックをAI生成と判定しています。

さらに興味深いのは、同バンドの楽曲が「Vietnam War Music」プレイリストに26曲、「The OC Soundtrack」プレイリストに22曲も含まれていることです。これらのプレイリストは数十万のセーブ数を持ちながら、運営者の実態が不明という状況にあります。

ストリーミング詐欺の新たな温床

最も深刻な問題は、AI生成音楽がストリーミング詐欺の新たな手段として悪用されていることです。The Velvet Sundownの事例では、謎のキュレーターアカウントが運営する大規模プレイリストを通じて、人為的に再生数を押し上げる手法が確認されています。

BannedVinylCollectionの制作者JBがSpotifyから月収約200ドルを得ているという事例も、この問題の一端を示しています。

プラットフォーム各社の対応格差

現在、各ストリーミングプラットフォームのAI音楽への対応には大きな格差があります。Deezerは業界で最も積極的な対策を講じており、AI生成音楽を検出し、該当楽曲にラベルを付けてアルゴリズム推薦から除外しています。

一方、Spotifyは現在のところAI音楽の開示ルールを設けておらず、ディープフェイクされた既存アーティストの楽曲のみを禁止している状況です。YouTubeは「リアルな」AIコンテンツへのラベル付けを義務化していますが、完全な規制には至っていません。

偽情報とメディア操作の問題

The Velvet Sundown騒動では、偽のスポークスマンAndrew Frelonが「アートホークス」と称してメディアを騙す事件も発生しました。これは単なる音楽の問題を超えて、AI時代における情報の真正性という根本的な課題を浮き彫りにしています。

音楽業界への長期的影響

この現象は音楽業界の構造的変化を予兆しています。従来の音楽制作プロセスが根本的に変わる可能性がある一方で、人間のアーティストの創造性と経済的基盤が脅かされるリスクも存在します。

特に注目すべきは、AI生成音楽の品質向上です。AI音声認識専門家Yossi Keshetが指摘するように、The Velvet Sundownの楽曲は「相対的に品質が本当に良い」レベルに達しており、技術の進歩により人間との区別がますます困難になっています。

規制と著作権法への影響

現在、AI企業による既存楽曲の無断学習に対して、SunoとUdioが2024年にレコード会社から著作権侵害で提訴されるなど、法的な争いが激化しています。この問題は単なる技術的課題を超えて、著作権法の根本的な見直しを迫る可能性があります。

今後の展望と課題

AI音楽技術は確実に進歩を続けており、創作活動の民主化という側面では大きなポテンシャルを秘めています。しかし同時に、音楽の真正性、アーティストの権利保護、そして文化的価値の維持という観点から、業界全体での包括的な対策が急務となっています。

innovaTopiaが注目するのは、この技術革新が人類の創造性をどう進化させるかという点です。AI音楽は単なる「偽物」ではなく、新たな表現手段として位置づけられる可能性もあり、その適切な活用方法を見極めることが今後の鍵となるでしょう。

【用語解説】

AIスロップ(AI Slop)
AI技術によって大量生成される低品質なコンテンツの総称。「Slop」は「低品質な大量生産物」を意味する俗語で、音楽分野では人間のアーティストが制作したかのように装って配信されるAI生成楽曲を指す。

ストリーミング詐欺(Streaming Fraud)
ボットや自動化システムを使用して楽曲の再生回数を人為的に増加させ、不正にロイヤリティを獲得する行為。AI生成音楽の新たな悪用手段として問題視されている。

ディープフェイク音楽
既存のアーティストの声や演奏スタイルをAI技術で模倣して作成された楽曲。著作権侵害や肖像権の問題を引き起こす可能性がある。

Persona機能
AI音楽生成ツールにおいて、一貫した「ボーカルアバター」を作成し、複数の楽曲で同じ歌声を再現する機能。バンドやアーティストの一貫性を演出するために使用される。

TikTok Viral 50チャート
TikTok上で急速に拡散している楽曲をランキング化したチャート。2025年6月、AI生成楽曲として初めて「A Million Colors」が44位にランクインした。

Music Business Worldwide
音楽業界の専門情報を扱う業界誌。創設者Tim Inghamによる AI音楽追跡レポートが業界で注目を集めている。

TrueAnonポッドキャスト
政治系ポッドキャスト番組。ホストのBrace Beldenが AI生成音楽との偶然の遭遇体験を報告し、今回の記事のきっかけとなった。

アートホークス(Art Hoax)
芸術や文化の分野で意図的に行われる偽装行為。The Velvet Sundown騒動では、偽のスポークスマンがメディアを騙す目的で行ったと主張している。

【参考リンク】

Suno AI(外部)
テキストプロンプトから楽曲を自動生成するAI音楽制作プラットフォーム

Deezer(外部)AI検出システムを導入し、AI生成楽曲を除去する業界のパイオニア

BannedVinylCollection(Spotify)(外部)記事で言及されたAI生成音楽アーティスト、月収約200ドルを獲得

Vinh Pray(Spotify)(外部)AI生成楽曲として初めて米国チャートに入った「A Million Colors」

【参考動画】

【参考記事】

An indie band is blowing up on Spotify, but people think its AI(外部)
NBC NewsによるThe Velvet Sundown現象の包括的な分析記事

AI Band The Velvet Sundown Boasts Over 500,000 Spotify Listeners(外部)
The Velvet Sundownが50万人以上のリスナーを獲得した経緯を報告

Velvet Sundown: Viral band success spawns AI claims and hoaxes(外部)
BBCによる偽のスポークスマンによる詐欺行為とAI技術の影響分析

【編集部後記】

皆さんは普段、音楽を聴いているときに「これは人間が作ったのか、AIが作ったのか」を意識されることはありますか?今回取り上げたThe Velvet Sundownのように、85万人ものリスナーが存在しないかもしれないバンドの音楽を聴いているという現実は、私たちが思っている以上に身近な問題かもしれません。

もしかすると、皆さんも既に知らず知らずのうちにAI生成楽曲を耳にしているかもしれません。お気に入りのプレイリストに紛れ込んでいる可能性もあります。

そこで一つご提案があります。今度音楽を聴く際に、「この楽曲の背景にはどんなストーリーがあるのだろう」と少し立ち止まって考えてみませんか?アーティストの創作過程や、楽曲に込められた想いに思いを馳せることで、音楽体験がより豊かになるかもしれません。

皆さんは音楽の「真正性」についてどうお考えでしょうか?AI技術の進歩とともに変化する音楽シーンを、一緒に見守っていければと思います。

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TaTsu
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