innovaTopiaでは先月、Microsoft EdgeのCopilot Mode導入について「AIがタブ横断・予約代行を支援」する新機能として詳しくお伝えしました。その後、海外テクノロジーメディアから実用性を評価する声が上がっています。
今回注目したいのは、ブラウザにおけるAI統合の実用的な進展です。Microsoft EdgeのCopilot Modeについて、実際の利用体験を基にした詳細な分析記事がDigital Trendsで2025年8月1日に公開されました。前回お伝えした基本機能が、実際のワークフローでどのような効果を発揮するかが明らかになったのです。
MicrosoftはEdgeブラウザに「Copilot Mode」と呼ばれるAI機能を2025年7月28日に発表し、これによりブラウザでのAI活用に新たな可能性が示されています。Copilot Modeは開いているタブのコンテンツを認識し、複数タブ間の情報を統合処理する「マルチタブ認識」機能を持ちます。
具体的な活用例として、研究論文の要約、複数サイトでの商品比較、音声・テキストでの複数ステップ処理を自動化する「Actions」機能が挙げられます。記事執筆者のNadeem Sarwar氏は、DiaやCometなどのAIブラウザを数ヶ月間利用した経験を基に、EdgeのAI統合がSafariの従来機能を上回る実用性を示していると評価しました。
これは、従来のタブベースブラウジングから、AIアシスタントと協働するタスクベースブラウジングへの着実な進化を表しています。まだ実験的機能の段階ですが、ブラウザでのAI活用における重要な先例として、アーリーアダプターの皆様に注目していただきたい動向です。
From: 
Is Microsoft Edge now a better browser than Apple’s Safari? Yes, really
【編集部解説】
今回MicrosoftがEdgeブラウザに実装したCopilot Modeは、単なるAI機能の追加ではありません。これは「ブラウザの概念そのものを再定義する試み」と捉えるべきでしょう。従来のタブベースのブラウジングから、タスクベースのブラウジングへの根本的なパラダイムシフトを示しています。
技術的に注目すべきは「マルチタブ認識」機能です。これまでのブラウザでは、各タブは独立した存在でした。しかしCopilot Modeでは、ユーザーの許可を得て全開きタブの内容を統合的に理解し、横断的な情報処理を実行します。例えば複数のECサイトで商品を比較している際、それぞれのタブを手動で確認することなく、「8月3日までに配送可能な商品」といった条件で全タブを一括検索できるのです。
この技術が与える影響は多岐に渡ります。まず、情報収集の効率性が劇的に向上することで、リサーチ作業や意思決定プロセスが加速されます。特に研究論文の読解や複数情報源の比較において、従来数時間かかっていた作業が数分に短縮される可能性があります。
一方で、潜在的なリスクも存在します。AIが全タブの内容にアクセスできるということは、プライバシーの観点から慎重な検討が必要な領域です。Microsoftはこの機能を完全オプトイン制とし、ユーザーがプライバシー設定で制御可能な設計としています。
競合他社への影響も看過できません。GoogleやAppleは従来、ブラウザをプラットフォーム戦略の一部として位置づけてきました。しかし、このAI統合によってブラウザ自体が「インテリジェントなワークツール」へと進化したことで、競争の軸が根本的に変化しています。特にAppleのSafariは、AI機能の実装で明らかに後手に回っており、macOSやiOSとの統合という従来の強みだけでは競争力を維持できない状況となっています。
規制面では、EUのデジタル市場法（DMA）やAI法といった新しい法的枠組みがブラウザベンダーにも影響を与えています。AIを搭載したブラウザは、より厳格なデータ処理の透明性や説明責任が求められる可能性があります。
長期的な視点では、この変化は「Web3.0の真の到来」を示唆しているかもしれません。ユーザーがWebサイトを「閲覧する」のではなく、AIアシスタントと「協働してタスクを完了する」という新しいインターネット体験の始まりです。
今後数年間で、ブラウザは単なる情報アクセスツールから、パーソナルAIアシスタントを内蔵した統合ワークスペースへと進化していくでしょう。この変化に適応できるかどうかが、各ブラウザベンダーの競争力を決定する重要な要素となりそうです。
【用語解説】
Copilot Mode
Microsoft EdgeブラウザのAI統合機能。開いているタブのコンテンツを認識し、ユーザーとの対話を通じてウェブブラウジングの効率化を図る実験的機能である。2025年7月28日に発表された。
マルチタブ認識
複数のタブで開かれているウェブページの内容を統合的に理解し、タブを跨いだ情報処理を可能にする技術である。ユーザーが複数サイトの比較や統合分析を一度に実行できる。
Actions機能
音声やテキストでワークフローを指示することで、複数ステップの作業を自動化する機能。コワーキングスペース検索や旅行予約などの複雑なタスクを段階的に処理する。
AI-firstブラウザ
AI機能を中心に設計されたウェブブラウザの総称。従来のタブベース閲覧からタスクベース閲覧への転換を目指す新しいブラウザ概念である。
縦タブシステム
従来の水平配置に対し、タブを画面左側に縦方向に配置する表示方式。多数のタブを開く際の視認性向上を目的とする。
【参考リンク】
Microsoft Edge公式サイト（外部）
Chromiumベースで高速性とセキュリティを両立するMicrosoftのブラウザ
Digital Trends（外部）
テクノロジー分野の最新ニュース配信アメリカの大手メディア
Microsoft Support – Collections機能（外部）
Edgeでウェブページや画像を整理して保存する方法を詳説
【参考動画】
【参考記事】
Introducing Copilot Mode in Edge: A new way to browse the web（外部）
Microsoft公式ブログによるCopilot Mode発表記事
Edge の Copilot Mode のご紹介：新しいウェブ閲覧体験（外部）
Microsoft日本法人による公式発表記事
Microsoft launches AI-based Copilot Mode in Edge browser（外部）
Reuters通信による客観的な報道記事とAI搭載ブラウザ競争の分析
【編集部後記】
この記事では、Microsoft EdgeのCopilot Modeという新機能について詳しく解説いたしました。
しかし、ここで一つの重要な問いかけをしたいと思います。AIに依存するブラウザは、本当に私たちにとって良いものなのでしょうか？
EdgeのCopilot Modeが示すAI統合の効率性は確かに魅力的です。一方で、DuckDuckGoのように「AIから意図的に距離を置く」ことを売りにするサービスも注目を集めています。彼らは「データを収集しない」「トラッキングしない」ことで、ユーザーの自律性を最大限に尊重するアプローチを取っています。
果たして私たちは、効率性と引き換えにデジタル上での自律性を手放しているのでしょうか？ AIがブラウジングを「最適化」してくれる未来は便利ですが、同時に私たち自身の思考プロセスや情報探索能力の退化を招く可能性もあります。
アーリーアダプターの皆様には、この技術的進歩を体験していただきながらも、常に批判的な視点を忘れずにいていただきたいのです。便利さの裏側にあるトレードオフを意識し、時にはAIに頼らない「素の状態」でのブラウジングも試してみてください。
テクノロジーは道具です。私たちがそれをコントロールするのか、それとも知らず知らずのうちにコントロールされるのか——この選択は、まさに今この瞬間の私たちの手に委ねられています。
