Last Updated on 2025-08-04 18:24 by まお
Appleが「ChatGPT」に対抗する独自のAI検索エンジン開発を目的とした新チーム「AKI」を結成したと、2025年8月3日(インド標準時、日本時間8月4日)にTechlusiveが報じた。
ブルームバーグのマーク・ガーマン氏の報告によると、Appleは今年初めに「Answers, Knowledge, and Information(AKI)」と呼ばれる新たな内部チームを静かに結成している。このチームは「アンサーエンジン」と表現されるAI搭載検索ツールの開発に取り組んでおり、ウェブを巡回して一般知識のクエリに回答するシステムの構築を進めている。同プロジェクトは元Siri幹部のロビー・ウォーカー氏が率いており、彼はSiri開発の遅延を受けて再編成された際に現在のポジションに就任している。
Appleはこれまで独自のチャットボット構築を避け、代わりにOpenAIのChatGPT統合に依存してきたが、AI搭載検索ツールがメインストリームとなりユーザーがより良い対話体験を期待する中で方針を転換している。AKIチームはスタンドアロンアプリの検討を行っており、将来的にはSiri、スポットライト、Safariの動作改善も目標としている。
この動きの背景には、Googleとの長年にわたる検索エンジン契約が米国独占禁止法調査により危険にさらされている状況がある。Googleは既定の検索エンジンとしてAppleデバイスに残るために年間推定200億ドルをAppleに支払っているが、この契約が失効した場合、Appleは独自の強力な検索ソリューションが必要となる可能性が高い。
現在このプロジェクトは初期段階にあるものの、AppleがAI競争において傍観者的立場から積極的参加へと転換していることは明らかである。
from:Apple Forms New AI Team To Build ChatGPT-Like Search Engine: Report | Techlusive
【編集部解説】
今回のAKIチーム結成は、Appleがついに「待ちの戦略」から転換点を迎えたことを示す重要なサインです。これまでAppleは「他がやってから」という慎重な姿勢を貫いてきましたが、AI検索という新たな戦場では、そのアプローチが通用しなくなっています。
Appleの戦略的転換の証拠
AKIチーム結成の本気度は、公式求人サイトでの積極的な人材採用からも確認できます。現在、Apple公式サイトには「機械学習エンジニア」「ソフトウェアエンジニア」など複数のAKI関連ポジションが掲載されており、特にカリフォルニア州サンタクララを中心とした採用が進んでいます。求人内容から判断すると、検索アルゴリズム、大規模言語モデル(LLM)、強化学習など最先端のAI技術を駆使したプロジェクトであることが分かります。
さらに決定的なのは、GoogleとAppleの年間200億ドルの検索契約が独占禁止法調査により危険に晒されていることです。Eddy Cue氏は法廷証言で「Safari上の検索量が初めて減少した」と証言しており、これはユーザーがAI検索ツールに移行していることを意味します。
複数の選択肢を検討する現実的アプローチ
注目すべきは、AppleがAKIチームでの自社開発と並行して、Perplexity AIの140億ドル規模での買収も検討していることです。これは単なる憶測ではなく、AppleのM&A責任者エイドリアン・ペリカ氏とサービス担当副社長エディ・キュー氏が具体的に協議していることがReuters やBloombergによって報じられています。
この二股戦略は、Appleの現実的な判断を示しています。自社開発には時間がかかり、技術的リスクも高い一方で、Perplexityのような実績のあるスタートアップを買収すれば即座に競争力のある技術を獲得できます。140億ドルという金額は、2014年のBeats買収(30億ドル)を大幅に上回るApple史上最大の買収となりますが、同社の現金保有高約1,330億ドルから見れば十分実現可能な範囲です。
技術的な可能性と残る課題
AKIチームが開発する「アンサーエンジン」は、従来の検索エンジンとは根本的に異なるアプローチを取ります。公式求人情報によると、単なるリンク集ではなく、LLMや強化学習を活用してユーザーの質問に直接的で文脈に応じた回答を提供する仕組みです。これはPerplexityやChatGPTなどが先行している分野ですが、Appleのエコシステム全体に統合されれば、よりパーソナライズされた体験を実現できる可能性があります。
しかし技術的な課題も山積しています。Apple内部では現在、Perplexity AIの買収も検討されており、これは自社開発だけでは困難であることを示唆しています。事実、Apple Intelligence の遅延は、同社のAI開発能力に根本的な問題があることを露呈しています。
プライバシーとビジネスモデルの両立
Appleにとって最大の課題は、プライバシー重視の姿勢とAI検索の両立です。現在のAI検索エンジンの多くはクラウド処理に依存していますが、Appleはオンデバイス処理を重視しています。求人情報からも「プライバシーを最前線に」という文言が確認でき、この理念を維持しながらAI検索を実現する技術的難易度は相当高いと予想されます。
また、Googleからの年間200億ドルの収入を失った場合の代替収益源も課題です。Apple自身がAI検索から広告収入を得る必要がありますが、これは同社の「プライバシー第一」の理念と矛盾する可能性があります。
長期的な業界への影響
このAKIチームの取り組みと並行するPerplexity買収検討は、検索エンジン業界全体に大きな変革をもたらす可能性があります。Appleが独自のAI検索エンジンを成功させれば、Googleの検索独占に風穴を開けることになります。これは消費者にとってはより多くの選択肢を意味し、イノベーションの促進にもつながります。
現在のプロジェクトは初期段階ですが、積極的な人材採用と並行する買収検討により、Appleが本格的にAI競争に参入する意志を示したことは確実です。ただし、技術的な実現可能性と市場での競争力を獲得するまでには、まだ相当な時間がかかると予想されます。
【用語解説】
アンサーエンジン:従来の検索エンジンが関連リンクを表示するのに対し、AI技術を使って質問に対する直接的な回答を生成するシステム。ユーザーが情報を探し回る必要がなくなる。
AKI(Answers, Knowledge, and Information):Appleが2025年初頭に新設したAI検索エンジン開発チーム。回答、知識、情報の頭文字を取った略称で、チャットボットライクなAI検索体験の構築を目指している。
【参考リンク】
Apple公式サイト(外部)iPhoneからMacまでApple製品の購入、サポート、最新情報を提供する公式ポータルサイト。企業情報や開発者向け情報も掲載。
Apple Jobs – AKI Team(外部)AppleのAKIチーム関連職種の公式求人情報。機械学習エンジニアやソフトウェアエンジニアのポジションを多数掲載。
【参考記事】
Apple now looking to rival ChatGPT with a new in-house ‘Answers’ team: report | 9to5MacAppleの内部チーム「Answers」結成について詳細に報じており、ロビー・ウォーカー氏がプロジェクトを率いていることや、スタンドアロンアプリ開発の可能性について解説している。
Apple reportedly has a ‘stripped-down’ AI chatbot to compete with ChatGPT in the works | EngadgetAppleのAI検索エンジンが「簡素化されたChatGPT体験」を目指していることを報じ、既存のSiri統合から独立したアプローチに転換していることを分析。
Apple’s new ‘Answers’ team is developing a stripped down ChatGPT experience | MashableAKIチームの設立背景にあるAppleのAI戦略の転換点について詳しく解説し、Googleとの検索契約への影響も含めて包括的に報道している。
Apple might be building its own AI ‘answer engine’ | TechCrunchAppleのAI検索エンジン開発について技術的側面を重視した分析を提供し、既存の検索エンジンとの差別化ポイントについて考察している。
【編集部後記】
AppleがAI検索に本腰を入れるのは、Googleからの年間200億ドルが揺らぎ、生成AIの波に出遅れた焦りが重なっているためです。Perplexity買収の検討は時間を買う保険で、オンデバイスLLMと並行してリスクを抑えたいのでしょう。
次のiPhoneが推論専用NPUを積めば、検索はリンク列挙ではなく即答型へと動きます。ユーザーが得られるのはスピードだけでなく文脈に沿った回答で、SafariやSiriの使い方も変わるでしょう。私たちメディアもSEOだけでなく、AIが読み取りやすい意味設計を考える必要があります。開発者も検索トラフィックの流れを見直す時期に来ています。