Last Updated on 2025-08-07 10:26 by 乗杉 海
OpenAIは2025年8月、初のオープンウェイト推論モデル「gpt-oss-120b」と「gpt-oss-20b」を発表した。Apache 2.0ライセンスで提供される2つのモデルは、mixture-of-expertsアーキテクチャを採用している。gpt-oss-120bは総パラメータ数1170億個、アクティブパラメータ数51億個、36層構造で、単一80GB GPUで動作する。
gpt-oss-20bは総パラメータ数210億個、アクティブパラメータ数36億個、24層構造で、16GBメモリで実行可能である。両モデルは最大128kのコンテキスト長をサポートし、回転位置埋め込み(RoPE)を使用する。gpt-oss-120bはコア推論ベンチマークでOpenAI o4-miniと同等の性能を示し、gpt-oss-20bは一般的なベンチマークでOpenAI o3-miniと同様の結果を出した。Hugging Face、Azure、vLLM、Ollama、AWS、NVIDIA、AMD、Groqなどの主要プラットフォームで利用可能である。
From: gpt-oss が登場
【編集部解説】
<速報>GPT-5 今夜発表(8月8日午前2時)│OpenAIの次世代AIがもたらす「推論能力」の進化と未来(2025.08.08 9:27)
OpenAIが2025年8月5日に発表した「gpt-oss」は、単なる新モデルのリリースを超えて、AI業界の戦略地図を大きく塗り替える可能性を秘めています。
Meta社のオープンソース路線転換との対比
この発表で特に注目すべきは、Meta社が同時期にオープンソース戦略の転換を表明している点です。Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は2024年7月に「Open Source AI is the Path Forward」というエッセイでオープンソースAIを強く推進していましたが、2025年7月には「超知能の開発においては何をオープンソース化するかを慎重に選択する必要がある」と方針転換を示唆しています。この背景には、Metaが独自の競争優位性を確保したいという戦略的意図があると考えられます。
一方でOpenAIは、Meta社とは逆のタイミングでオープンソース路線に舵を切りました。これは単なる偶然ではなく、市場ポジショニングの明確な戦略と言えるでしょう。
技術的なブレークスルーと現実的な活用場面
gpt-oss-120b(総パラメータ数1170億個)が単一の80GB GPUで動作し、gpt-oss-20b(総パラメータ数210億個)が16GBメモリで実行可能という仕様は、企業レベルでのAI導入における重要な転換点を意味します。これまで数百万円の投資が必要だった高性能推論モデルが、一般的なワークステーションで運用可能になったのです。
具体的な活用場面として、データセキュリティを重視する金融機関や官公庁での社内デプロイメント、エッジデバイスでのリアルタイム推論、開発段階での迅速なプロトタイピングなどが挙げられます。Apache 2.0ライセンスの採用により、商用利用での法的制約も最小限に抑えられています。
安全性への新しいアプローチとリスク評価
OpenAIは今回、「悪意のあるファインチューニング(MFT)」という新しい評価手法を導入しました。これは攻撃者による悪用を想定し、生物学的脅威やサイバーセキュリティ領域での危険な能力獲得をテストする手法です。評価の結果、最悪の場合でもリスクレベルが「Preparedness High」に達しないことを確認したとしています。
しかし、この評価手法自体がまだ新しく、長期的なリスクについては不確実性が残ります。特に、モデルの思考プロセス(CoT)が完全に透明化されることで、新たな攻撃ベクトルが生まれる可能性も指摘されています。
AI規制への影響と将来展望
このリリースは、各国でのAI規制議論にも重要な影響を与えると考えられます。高性能モデルがオープン化されることで、規制当局は「誰でもアクセス可能な高性能AI」をどう管理するかという新たな課題に直面します。
特に欧州のAI法やアメリカの国家AI政策において、オープンウェイトモデルの取り扱いは重要な論点となるでしょう。OpenAIが50万ドルの懸賞金を設けたRed Teaming Challengeも、業界全体での安全性基準策定への取り組みと言えます。
長期的な視点では、このリリースはAI開発の「民主化」を大きく前進させる一方で、悪用のリスクも高めるという両面性を持っています。
【用語解説】
Apache 2.0ライセンス – オープンソースソフトウェアライセンスの一種で、商用利用、改変、再配布が自由に行える。コピーレフトの制約がなく、企業での利用にも適している。
回転位置埋め込み(RoPE) – Rotary Position Embeddingの略で、Transformerモデルにおいて位置情報を効率的に処理する技術。長い文脈を扱う際の性能向上に寄与する。
CoT(思考の連鎖) – Chain-of-Thoughtの略で、AIが答えを導く際の推論過程を段階的に示す技術。問題解決の透明性を高め、推論の質を向上させる。
Preparedness Framework – OpenAIが開発したAI安全性評価の枠組み。生物学的脅威、サイバーセキュリティ、核安全保障、自律的複製などの潜在的リスクを評価する。
【参考リンク】
OpenAI公式サイト(外部)
gpt-ossモデルの開発元であるOpenAIのメインサイト。同社のAI技術とサービスの総合情報を提供。
Hugging Face(外部)
オープンソースAIモデルの配布プラットフォーム。gpt-ossモデルもこちらからダウンロード可能で、AI開発者の中心的なコミュニティサイト。
NVIDIA(外部)
gpt-oss-120bの推奨実行環境である80GB GPUの製造元。AI計算に特化したハードウェアとソフトウェアソリューションを提供する企業。
vLLM(外部)
高性能なLLM推論エンジンで、gpt-ossモデルの最適化された実行をサポート。大規模言語モデルの効率的な運用を実現するオープンソースプロジェクト。
Together AI(外部)
AI推論プラットフォームの提供企業で、gpt-ossモデルのホスティングサービスを展開。開発者向けのAI推論APIを提供。
【参考記事】
Welcome GPT OSS, the new open-source model family from OpenAI!(外部)
Hugging Face公式ブログによる解説記事。117bパラメータ(gpt-oss-120b)と21bパラメータ(gpt-oss-20b)の正確なモデルサイズ、MXFP4量子化による高速推論、16GBメモリでの実行可能性について技術的詳細を説明している。
Zuckerberg signals Meta won’t open source all of its ‘superintelligence’ AI models(外部)
Meta CEOマーク・ザッカーバーグ氏のオープンソース戦略転換について報じた記事。2024年7月の「Open Source AI is the Path Forward」から2025年7月の「慎重にオープンソース化を選択する」への方針変更を詳述している。
gpt-oss-120b & gpt-oss-20b Model Card(外部)
OpenAI公式のモデルカード。安全性評価、悪意のあるファインチューニング(MFT)テスト結果、Preparedness Frameworkによる評価、50万ドルのRed Teaming Challenge設立などの安全性対策の詳細を記載している。
Run OpenAI’s new GPT-OSS (open-source) model on Northflank(外部)
GPT-OSSの技術的詳細と実装方法を解説。GPT-2以来初のオープンウェイト言語モデル、vLLMによる最適化実行、オンプレミス展開の利点について実用的な観点から分析している。
Meta changes course on open-source AI as China pushes ahead with advanced models(外部)
Meta社の戦略転換の背景分析。中国のAI技術進歩とDeepSeekの影響、Meta Llamaライセンスの制約、オープンソースAI業界への影響について詳細に報告している。
OpenAI’s new open weight (Apache 2) models are really good(外部)
技術専門家による詳細分析記事。gpt-oss-120bのo4-mini並み性能、単一80GB GPU実行、開発者向けの実用的な活用方法について技術的観点から評価している。
【編集部後記】
gpt-ossの登場により、これまで大企業だけが扱えた高性能AIが、私たちの手の届く範囲に降りてきました。皆さんの職場や個人プロジェクトで、このオープンソースAIを活用したアイデアはありますか?データセキュリティを重視する業界では特に注目すべき選択肢となりそうです。一方で、Meta社の戦略転換とOpenAIのオープン化という対照的な動きをどう捉えますか?