2025年8月7日、マイクロソフトのVisual Studio Code(VS Code)チームはバージョン1.103を公開し、GitHub Copilotのchat checkpoints(チャット・チェックポイント)をプレビューとして追加した。
開発者はRestore Checkpoint(チェックポイント復元)で作成時点のチャットとワークスペースを戻せ、Redo(やり直し)も可能である。チェックポイントは重要なチャット時点で自動生成され、終了時に変更ファイル一覧も表示される。
他のAI関連更新にはMCPサーバーツールピッカー刷新、OpenAI GPT-5対応、MCPツール128個制限回避、エージェントモードのタスクリスト、KaTeXによる数式描画、AI統計機能の追加がある。
非AI更新としてGit worktrees対応、TypeScript 5.9サポート、IntelliSenseの型情報UI改善が含まれる。Stack Overflow調査ではVS Codeの利用率は75.9%で、Visual Studioが29.7%、IntelliJ IDEAが28.4%、Zedが7.5%だった。
From: VS Code previews chat checkpoints for unpicking careless talk
【編集部解説】
本件は、Visual Studio Code(VS Code)1.103が「chat checkpoints(チャット・チェックポイント)」を含む一連のAI機能と、Git worktrees対応などの開発体験に直結する基盤強化を同時に進めたアップデートです。
チャット・チェックポイントの本質は、AI支援で生じがちなマルチファイル変更を「いつでも巻き戻せる」安全装置として組み込んだ点にあります。チェックポイントはチャットの重要ポイントで自動生成され、Restore Checkpoint(チェックポイント復元)でワークスペースとチャット履歴を当該時点に戻し、Redo(やり直し)も可能です。変更ファイルの一覧表示も設定で可視化できます。この導線は、エージェントやツール呼び出しを前提にした編集ワークフローを「可逆化」し、試行錯誤の心理的コストを下げます。
MCP(Model Context Protocol)まわりでは、ツールピッカーの再設計と「128ツール制限」の回避策が導入され、エージェントが扱うツール面でのスケーラビリティが増しました。加えてOpenAI GPT-5の選択肢がチャットで利用可能となり、モデル選択の幅と将来の推論最適化の余地が広がります。エージェントモードではタスクリスト表示(experimental)が追加され、長手タスクの進行がチャットパネルで追跡可能になりました。
表示面ではKaTeX(カテックス)による数式レンダリングがプレビューで有効化可能となり、アルゴリズム説明や数式ベースの設計議論をチャット内で自足できます。既定はオフで、設定から切り替える方式です。さらにAI statistics(AI統計)がプレビューで導入され、AIによる文字挿入割合を記録します。粗いながらもチームや個人のAI依存傾向を測る出発点として有用です。
非AI領域では、長年の要望だったGit worktreesが正式サポートとなりました。複数ブランチを同時にチェックアウトし、ソース管理ビューでワークツリーの作成・削除・オープンが可能です。設定で検出のオン/オフも制御できます。TypeScript 5.9のサポートや、IntelliSenseの型情報UIの段階的展開(基本→プラス記号で詳細)は、日常の読み書き負荷を抑えます。
このニュースの影響範囲としては、まず「AI前提の編集」を安全に実運用へ進める転換点だと捉えています。chat checkpointsは、Cursorなど他エディタで評価された「大きな変更をワンストップで戻す」体験をVS Codeの標準ワークフローへ取り込み、Copilotのエージェント機能やMCPツール群との組み合わせで、試行の速度と安心感を両立させます。また、Git worktrees対応はチームの並行開発やレビュー分散を後押しし、AI主導のブランチ横断編集とも噛み合います。
一方で潜在的なリスクも看過できません。チェックポイントは「戻れる」前提があるため、大規模変更の試行が増えるとコンテキスト逸脱や見落としが起きやすくなります。AI statisticsは可視化ゆえの逆効果、例えば単純な「AI使用率の高低」で評価が歪む恐れがあります。KaTeXの数式表示は誤解を減らしますが、記述された計算根拠自体の正しさは別問題です。これらの点はチーム運用ルールやレビュー基準の更新が求められます。
規制・ガバナンス観点では、エージェントの自律実行とツール群の拡張は、ソース改変の責任所在や監査ログの整備を強く要請します。VS Codeが提供するチェックポイント復元・変更ファイル可視化は監査補助になりますが、最終的な変更承認プロセスやモデル選択の根拠管理はプロジェクト側の設計領域です。
長期的には、エージェントが「指示→分解→実行→振り返り」を自走し、開発者はCheckpointsとタスクリストで「軌道修正」と「品質保証」にフォーカスする役割分担が進むと見ています。MCPの制限回避やツールピッカー刷新は、その運用規模を現実的に支える基盤整備です。VS Codeがこの路線を強化する限り、IDEは「コードを書く場所」から「AIと協調して設計・検証するオーケストレーション環境」へと位置づけが深まっていくでしょう。
最後に、同様の報道や公式情報も整合的です。公式リリースノートはチェックポイント、GPT-5、ワークツリー、タスクリストなどを主要ハイライトとして明記し、Copilot側のアナウンスでもチェックポイントやツールピッカー刷新、エージェント連携の強化が示されています。実装背景としてのドキュメントには設定項目や復元・Redoの動作、変更ファイルの一覧化まで手順レベルで説明があり、誇張の疑いは低いと判断します。コミュニティでも1.103到来とともにチェックポイントやワークツリー対応が話題化しており、実用観点の期待がうかがえます。
【用語解説】
chat checkpoints(チャット・チェックポイント)
チャット経由の編集前後に自動で作成されるスナップショットで、ワークスペースとチャット履歴を当該時点へ復元できる機能である。
Restore Checkpoint(チェックポイント復元)
選択したチェックポイント時点にワークスペースとチャット履歴を戻す操作である。
Redo(やり直し)
復元後に取り消された変更を再適用する操作である。
KaTeX
ウェブ向けの数式レンダリングライブラリで、VS Codeのチャットで数式表示に使われる。
agent mode(エージェントモード)
Copilotが高レベル指示を分解してツールやタスクを自動実行するモードである。
task list(タスクリスト)
エージェントモードで進行中の手順をチャットパネルに表示する実験的機能である。
MCP(Model Context Protocol)
AIクライアントと外部ツールを標準化インターフェースで接続するプロトコルである。
MCPツール128個制限
1回のリクエストで扱えるツール数の上限に関する制約で、VS Codeでは回避策やグルーピングで対応する。
Git worktrees
1つのリポジトリから複数ブランチを同時にチェックアウトできるGit機能である。
IntelliSense
エディタ内で型情報や補完を提供する機能群で、型情報UIが段階的表示に改善された。
TypeScript 5.9
VS Code 1.103でサポート対象のTypeScriptのバージョンである。
Chat Debug view
各チャット要求のシステム/ユーザープロンプトやツール応答の詳細を確認できる専用ビューである。
Voice dictation(音声入力)
ターミナルで音声入力を有効にする機能である。
【参考リンク】
Visual Studio Code(外部)
クロスプラットフォームのコードエディタで拡張機能、Git、AI支援を備えたマイクロソフト製品の公式サイト
VS Code Updates: July 2025(version 1.103)(外部)
VS Code 1.103の公式リリースノートでチェックポイント、MCP、Git worktreesなどの詳細を掲載
Use chat in VS Code(Copilot Chatドキュメント)(外部)
チャット・チェックポイントの有効化、復元、Redo、変更ファイル表示の手順を解説する公式ドキュメント
Use agent mode in VS Code(外部)
エージェントモードの使い方とチェックポイントの概要、指示ファイルなどを説明するドキュメント
Use MCP servers in VS Code(外部)
MCPの概要、サーバー設定、ツールの発見・呼び出しの仕組みを説明する公式ガイド
GitHub Copilot in VS Code July release (v1.103)(外部)
Copilot側のv1.103ハイライトでチェックポイント、ツールピッカー刷新、タスクリスト等を要約
Microsoft Reactor: VS Code Live 1.103(外部)
1.103の主要アップデートとCopilot機能をライブで紹介するイベント情報
【参考動画】
【参考記事】
July 2025 (version 1.103) Release Notes(外部)
公式リリースノートで、チェックポイントの導入、MCP関連の拡張、Git worktrees対応、チャットとエージェントの改善、ターミナル機能の強化、TypeScript 5.9対応などを詳細に記載
Use chat in VS Code(Copilot Chat)(外部)
チェックポイントの有効化、復元、Redo、変更ファイル一覧の表示方法を手順で解説し、チャット内デバッグビューなど関連機能も説明
GitHub Copilot in VS Code July release (v1.103)(外部)
チャット・チェックポイント、ツールピッカーのUI改善、エージェントモードのタスクリスト、ツールグルーピングなどの実験的・プレビュー機能を公式に整理
test: checkpoints and edits in chat(GitHub issue)(外部)
1.103周期のテスト項目としてチェックポイントの仕様と操作(復元とRedo、キーボード操作)を明示し、実装の意図を補足
Use MCP servers in VS Code(外部)
MCPの概念とクライアント/サーバー構成、ツール発見・呼び出しの仕組み、エージェントモードとの関係を解説し、拡張性の文脈を提供
【編集部後記】
VS Codeのチェックポイント機能は、AI時代の開発スタイルを大きく変える可能性を秘めています。みなさんは普段、AIコーディング支援をどの程度活用されているでしょうか?
「失敗を恐れずに試せる」環境があることで、これまで躊躇していた大胆なリファクタリングや新しいライブラリの導入にもチャレンジしやすくなりそうです。一方で、簡単に戻せるがゆえに、かえって慎重さを欠いてしまうリスクも気になるところです。
innovaTopia編集部としても、この「可逆性」がもたらす開発体験の変化を注視していきたいと思います。実際にお使いになった際の率直なご感想や、チーム開発での運用事例などがあれば、ぜひお聞かせください。