ビル・ゲイツが支援するロボティクス・スタートアップField AIが、2回の資金調達ラウンドで4億500万ドルを調達した。最新ラウンドにより、設立2年の同社の企業価値は20億ドルと評価された。
投資家にはNVIDIAのベンチャーキャピタル部門NVentures、Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏のファミリーオフィスBezos Expeditions、Khosla Ventures、テマセク、Canaan Partners、Intel Capitalが含まれる。サムスンとマイクロソフト創設者の投資ファンドGates Frontierは以前から投資していた。
カリフォルニア州アーバインに拠点を置く同社は、元DeepMind、SpaceX、Amazon、Tesla Autopilot、NASA従業員を含む。創設者兼CEOアリ・アガ氏はNASAジェット推進研究所で約10年間勤務し、ロボティクス自律性と物理AIを専門とする。同社は世界中のロボットを制御するモデルを作成し、建設、エネルギー、物流分野で事業を展開する。過去数か月間で100以上のポジションを新設した。
From: Gates, Nvidia-backed robotics firm Field AI hits $2 billion valuation
【編集部解説】
この巨額の資金調達が注目すべきポイントは、投資家の顔ぶれです。Bill Gates、Jeff Bezos、NVIDIAという、それぞれ異なる分野のテクノロジー界の巨人たちが同時に投資していることは偶然ではありません。彼らがロボティクスとAI融合技術の爆発的成長を確信していることを示しています。
Field AIの技術的革新性は「一つのロボットの脳」というコンセプトにあります。従来のロボティクスでは、ロボットの種類や作業環境が変わるたびに個別のプログラミングが必要でした。しかし同社のField Foundation Models(FFM)は、建設現場で働くロボットも、物流センターの自動運搬車も、同じAIモデルで制御することを可能にします。
この汎用性が企業にとって革命的な理由は、導入コストと時間の大幅な削減です。これまで数か月かけていたロボットのカスタマイズ作業が、数日から数週間に短縮される可能性があります。特に労働力不足に悩む建設業界や製造業にとって、この「即戦力ロボット」の存在は非常に大きな価値を持ちます。
一方で、この技術には潜在的なリスクも存在します。汎用AIによるロボット制御の普及は、従来の単純作業に従事する労働者の雇用に深刻な影響を与える可能性があります。また、複数の産業で同一のAIシステムを使用することで、システム障害やサイバー攻撃の際の影響範囲が広範囲に及ぶリスクも考慮する必要があります。
規制面では、汎用ロボットAIの安全基準やプライバシー保護に関する新たなガイドライン策定が急務となるでしょう。特に建設現場や工場といった危険を伴う環境での運用において、従来の個別対応型ロボットとは異なるリスク評価が求められます。
長期的視点では、Field AIのような汎用ロボットAIプラットフォームの成功は、ロボット産業全体の構造変化を促進することになります。ハードウェア製造企業とソフトウェア開発企業の役割分担が明確化され、より効率的な産業エコシステムが形成される可能性があります。これは最終的に、ロボットの普及速度を加速させ、人間とロボットが共存する社会の到来を早めることでしょう。
【用語解説】
Field Foundation Models(FFMs)
FieldAIが開発した汎用ロボット制御AI。従来のロボットが個別にプログラムされていたのに対し、一つのAIモデルで複数の異なるロボットを制御可能にする技術である。
Embodied AI
身体を持つAIの意味。テキストや画像を処理する従来のAIとは異なり、実世界で物理的に動作するロボットを制御するAI技術を指す。
NVentures
NVIDIA Corporation内のベンチャーキャピタル部門。AI、機械学習、ロボティクス分野のスタートアップに投資を行っている。
DARPA Subterranean Challenge
米国防高等研究計画局(DARPA)が主催する地下環境でのロボット競技大会。FieldAI CEOのアリ・アガ氏がNASA JPL在籍時にTeam CoSTARとして優勝した実績を持つ。
【参考リンク】
FieldAI公式サイト(外部)
FieldAIが開発するField Foundation Modelsの詳細や、汎用ロボット自律制御技術について説明している公式サイト。
NVIDIA公式サイト(外部)
AI、GPU技術、ロボティクス分野のリーディングカンパニー。ベンチャーキャピタル部門NVenturesを通じてFieldAIに投資している。
Bezos Expeditions(外部)
Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏のファミリーオフィス兼投資会社。Twitter、Airbnb、Uberなどの有名スタートアップに投資実績を持つ。
【参考動画】
【参考記事】
FieldAI raises $405M to build universal robot brains(外部)
TechCrunchによるFieldAI資金調達報道。Field Foundation Modelsの技術的詳細とEmbodied AIの概念について詳しく解説。
Robotics software startup FieldAI raises $405M in funding(外部)
SiliconANGLEによる報道。3億1500万ドルの最新ラウンドがBezos Expedition、Prysm、テマセック主導で行われたこと、企業価値が昨年の5億ドルから20億ドルに上昇したことを報じる。
Robotics startup FieldAI raises $314 million in new funding, sources say(外部)
Reutersによる報道。3億1400万ドルの最新資金調達ラウンドについて、関係者からの情報として詳細を報じている。
【編集部後記】
想像してみてください。朝、あなたの愛犬型ロボットが「今日は工場でアルバイトしてくるワン!」と言って家を出る未来を。Field AIの汎用ロボット制御技術が実現すれば、こんなSF映画のような光景が現実になるかもしれません。同じAI「脳」を持つロボットが、家庭では癒しのペットとして、工場では精密作業員として、建設現場では力仕事の担い手として活躍する。まさに「ロボットの多重人格」時代の到来です。
もっと面白い可能性もあります。家庭用お掃除ロボットが夜間は警備会社で巡回業務をこなし、週末にはイベント会場で案内係として働く。そんな「ロボット版ギグワーカー」の誕生です。ロボットがスマホアプリで「今日の仕事」を選んで出かけていく。帰宅後は家族に「今日はこんな仕事をしたよ」と報告し、稼いだ「お金」で自分のアップデートや新しいアクセサリーを購入する。まるでロボットが自立した家族の一員として経済活動に参加する世界です。
一方で、これは単なる夢物語ではなく、労働市場の根本的変革も意味します。人間とロボットが同じ職場で協働し、時にはロボット同士が異なる「前職経験」を活かして連携する光景。工場で働いていたロボットが家庭での経験を活かして「人に優しい作業スタイル」を提案したり、建設現場のロボットがペット型ロボットから学んだ「安全第一の行動パターン」を現場に持ち込んだり。
皆さんは、自宅のお掃除ロボットが副業で近所の工事現場で働いて稼いでくる世界をどう思われますか?それとも、一台のロボットが家族の一員でありながら社会の働き手でもある、そんな不思議な共存関係に魅力を感じますか?もしくは、ロボットが「転職」を重ねて様々なスキルを身につけていく成長物語に、新しいエンターテイメントの可能性を見出されるでしょうか?このワクワクする未来について、ぜひ皆さんの想像や期待をコメントで聞かせてください。