Anthropic × 作家集団訴訟和解 – 著作権侵害・AI開発・音楽出版社との課題

[更新]2025年8月27日18:48

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Anthropic PBCは2025年8月26日(日本時間27日)、作家らによる著作権侵害の集団訴訟で和解したと公表した。訴訟は2024年8月、AnthropicがLibGenやPiLiMiなどのシャドウライブラリから700万冊超の書籍を違法にダウンロードし、自社の大規模言語モデルの学習に使用したことに端を発する。

2025年7月、カリフォルニア北部地区連邦地裁のウィリアム・アルサップ判事が集団訴訟の認定を命じ、Anthropicは9000億ドル規模の損害賠償の可能性を指摘し「存続危機」への懸念を表明した。

両者は9月3日に和解最終化、9月5日に予備承認の申し立てを予定している。Anthropicには音楽出版社やReddit Inc.による訴訟も継続中である。

From: 文献リンクAnthropic Settles Major AI Copyright Suit Brought by Authors (3)

【編集部解説】

Anthropicと作家との和解は、生成AI企業を取り巻く法規制や著作権リスクの現実を如実に示しています。今回の和解の本質は、裁判所が求めた膨大な損害賠償額が実質的な“死刑宣告”として機能し、Anthropic側に選択の余地なく和解への道を選ばせたという構図です。

Anthropicはすでに年間数十億ドル規模の赤字で、想定される損害賠償(9000億ドル~1兆ドル超という試算もある)は収益では到底賄えない規模でした。仮に裁判が長引けば、時間的・資金的余裕が失われ、追加損害金や訴訟コストで経営が持たないという厳しい判断があったと考えられます。同社は一時的な法的猶予や控訴も試みましたが、根本的なリスク回避には至りませんでした。

加えて、Anthropicは音楽出版社・Reddit等からの複数の著作権訴訟もサンフランシスコの同地裁で進行しています。Universal Music Group等著名音楽出版社からは歌詞データの違法利用で、Redditからは投稿データの無断利用で、それぞれ大規模賠償が争点となっています。

AIが膨大なデータを必要とし、それゆえ著作権者との摩擦が絶えませんが、法定損害賠償の巨額化や、違法データ学習などの「故意」要件によってはAI企業の経営そのものを左右するほどのリスクを背負う時代となりました。今回の和解は、AI開発と著作権規制の折り合いが未確立な現状、不透明かつ高額なリスクが最先端企業参入の大きな壁となることを強く示しています。

AIを活用した新技術や新サービスに可能性が広がる一方、著作権の法的枠組みや“フェアユース”のライン、損害賠償基準など根本的な見直しなくしては、今後も同種の巨額訴訟、企業体力を超えた和解が増加する懸念が拭えません。AI産業の発展にとっても、既存の著作権制度や規制のアップデートが急務に見えます。

【用語解説】

フェアユース(Fair Use):米国の著作権法で、限定的な条件下で著作物利用を認める例外規定。

クラスアクション(集団訴訟):多数の原告が同じ趣旨で一括して行う訴訟。

【参考リンク】

Anthropic(外部)
AI技術の開発を行い、大規模言語モデルClaudeの提供などで知られる米国企業。

Universal Music Group(外部)
世界最大級の音楽出版社で、グローバルな著作権管理やアーティスト支援を展開している。

Reddit(外部)
多様なトピックごとにコミュニティが形成される、米発のソーシャルニュースサイト。

Susman Godfrey LLP(外部)
全米有数の訴訟法律事務所で、今回の作家側代理人を務めている。

Cooley LLP(外部)
テック系企業を多く担当し、Anthropicの代理人を務める大手法律事務所。

【参考記事】

Anthropic Settles High-Profile AI Copyright Lawsuit Brought By Authors(外部)
訴訟の背景と和解内容、AI業界全体への影響を多角的に解析している。

Anthropic settles class action from US authors alleging copyright infringement(外部)
訴訟の経過や各関係者のコメント、業界内の動向を詳細にまとめている。

Anthropic settles AI book-training lawsuit with authors(外部)
和解の意義や他分野訴訟の進展を交えつつ、今後の展望を伝えている。

【編集部後記】

今回のニュースなど、裁判における「和解」とは、私たちが普段使いするときの、イメージとは大きく異なる意味合いを持っています。必ずしも、好意的なやり取りの末にたどり着く結末ではありません。

Anthropicからすれば、「これだけ賠償を払うから、もう許してくれ」といったところでしょう。フェアユースを主張するにしても、違法にアップロードされたデータを学習することの是非を覆すには至らないという例にもなりました。

当然、違法アップロード自体も取り締まられるべきものではありますが、それを利用する立場もまた、違法行為を助長する悪質な行為です。

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りょうとく
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