全米レコード協会(RIAA)は2025年9月19日、AI音楽生成スタートアップSunoに対する修正訴状を提出した。
訴状では、Sunoがユニバーサル、ソニー、ワーナーの著作権楽曲をYouTubeから違法に「ストリームリッピング」し、生成AI音楽モデルの訓練に使用したと主張している。
RIAAはSunoがYouTubeの「ローリング暗号」暗号化を回避し、利用規約に違反したと申し立てている。この行為はデジタルミレニアム著作権法(DMCA)第1201条の回避防止条項に違反するとされる。
Sunoは訓練データセットを公開せず、データ取得方法について曖昧にしている。同社はフェアユース原則による保護を主張しているが、ICMP出版社グループの研究がSunoの違法なデータ調達を示唆している。
RIAAは回避行為1件につき2,500ドル、侵害作品1つにつき最大15万ドルの損害賠償を求めている。
From: Record labels claim AI generator Suno illegally ripped their songs from YouTube
【編集部解説】
この訴訟は、従来の著作権侵害訴訟とは異なり、今回の修正訴状では技術的な暗号化回避行為そのものが争点となっており、AI開発における「手段の合法性」が問われている点が注目されます。
DMCA第1201条の適用は、これまでスマートフォンのロック解除やマクドナルドのアイスクリームマシン修理など幅広い分野で論争を呼んできました。今回AI分野にこの条項が適用されることで、AIの学習データ収集における技術的手法そのものが法的制約を受ける可能性があります。
ストリームリッピング技術は、音楽業界にとって長年の課題でした。YouTubeの「ローリング暗号」は、まさにこうした行為を防ぐために開発された技術的防護措置です。Sunoがこれを意図的に回避したとする主張は、AI企業の学習データ収集手法への監視強化を意味しています。
フェアユース原則は、AI開発企業が頻繁に援用する抗弁です。しかし、著作権保護技術を積極的に回避する行為は、フェアユースの範囲を超える可能性が高く、この論拠の有効性に疑問を投げかけています。
音楽生成AIの急速な発展により、プロのミュージシャンや作曲家の創作活動への影響も深刻化しています。一方で、AI技術は音楽制作の民主化や新たな創作表現の可能性も秘めており、バランスの取れた規制枠組みの構築が求められています。
この訴訟の結果は、音楽業界だけでなく、テキスト、画像、動画など他の生成AI分野の発展にも大きな影響を与えることになるでしょう。
【用語解説】
ストリームリッピング
ストリーミングプラットフォーム上の音声や動画コンテンツを、ダウンロード可能なファイル形式に変換する技術。YouTube、Spotify等のサービスから楽曲を抽出する際に使用される。
ローリング暗号
YouTubeが採用している動的暗号化技術。定期的に暗号化キーを変更することで、コンテンツの無許可ダウンロードを防止する技術的保護措置。
DMCA第1201条
デジタルミレニアム著作権法の回避防止条項。著作権保護技術を迂回する行為を禁じる米国の法律。違反者には民事・刑事両面での処罰が科せられる。
フェアユース
米国著作権法における例外規定。教育、批評、パロディ等の目的であれば、著作権者の許可なく著作物を使用できるとする原則。
生成AI音楽モデル
大量の楽曲データを学習し、新たな音楽を自動生成するAI技術。メロディ、歌詞、楽器演奏等を人工的に作り出すことが可能。
【参考リンク】
Suno(外部)
AI技術を活用した音楽生成プラットフォーム。テキストプロンプト入力でオリジナル楽曲を自動生成できるサービス
Recording Industry Association of America (RIAA)(外部)
米国レコード協会の公式サイト。音楽業界の権利保護、海賊版対策、業界統計発表を行う団体
YouTube(外部)
世界最大の動画共有プラットフォーム。音楽コンテンツも豊富で今回データ抽出元として問題視
【参考記事】
Record Companies Bring Landmark Cases for Responsible AI Against Suno and Udio in Boston and New York Federal Courts, Respectively
要約: 全米レコード協会(RIAA)がSunoとUdioを著作権侵害で提訴した際の公式発表です。AI音楽生成モデルの訓練に無断で楽曲が使用されたと主張し、音楽権利者の権利保護を目指す画期的な訴訟であることを強調しています。
3 things you might have missed in the major labels’ Suno lawsuit
要約: レコード会社がSunoを「ストリームリッピング」で著作権侵害と非難している詳細を報じています。国際音楽出版社連合(ICMP)の調査に基づき、YouTubeの暗号化技術を回避した違法性を主張している点を深掘りしています。
Suno defends AI training with copyrighted music amid RIAA lawsuit
要約: Suno側が、著作権で保護された楽曲をAIの訓練データに使用したことを認めつつ、それは「フェアユース」原則の範囲内であり合法であると反論している点を解説しています。RIAAとの法廷闘争における核心的な論点を示しています。
A Major Update on DMCA Section 1201- What It Means for AI Research
要約: デジタルミレニアム著作権法(DMCA)第1201条の最新動向について解説しています。AI研究における技術的保護措置の回避がもたらす法的制約と、研究目的の例外が認められなかったことがAI開発にどう影響するかを論じています。
【編集部後記】
この訴訟は、私たちが日常的に使っているAI音楽ツールの裏側で何が起きているかを浮き彫りにしています。皆さんはSunoのようなAI音楽生成サービスを使ったことはありますか?簡単なプロンプトで楽曲が作れる便利さの裏で、こうした複雑な権利問題が存在しているのが現実です。
一方で、AI技術が音楽制作を民主化し、誰もが気軽に創作できる可能性も秘めています。この技術革新と既存の権利保護のバランスをどう取るべきか、皆さんはどう考えますか?クリエイターの権利を守りつつ、新しい技術の恩恵を享受する方法について、ぜひ一緒に考えてみませんか。