医療AI「Comet」が変える臨床判断|Epic社が1150億データポイントで実現する予測医療

医療AI「Comet」が変える臨床判断|Epic社が1150億データポイントで実現する予測医療 - innovaTopia - (イノベトピア)

Epic社は2025年9月3日、医療インテリジェンスシステム「Comet」を発表した。

Cometは臨床医、医療システム、患者の意思決定を支援するツールで、患者の治療経過における次の展開を予測し、疾患リスク、入院期間、治療成果を推定する。システムは1150億件の医療イベントから学習し、可能性の高い未来を計算する。手法と評価結果はイェール大学とマイクロソフトの研究者との共同論文としてarxivで公開されている。

CometはEpic Cosmosプラットフォーム上に構築され、診断、検査、薬物療法、診療などの時系列医療イベントから、数百万件の匿名化患者記録と1000億を超えるデータポイントで訓練される。大規模言語モデルと同じ技術を使用し、患者の現在状態から複数の将来タイムラインを生成する。

評価された78ケースの大部分で、Cometは個別設計されたモデルを上回る性能を示した。2026年2月から、Cosmos参加組織の研究者が仮想ラボでCometを利用可能となる。

From: 文献リンクComet: A New Medical Intelligence for Clinical and Operational Insights

【編集部解説】

Epic社が発表したCometは、医療AI分野における重要な転換点を示しています。従来の医療AIが特定の疾患や症状に特化していたのに対し、Cometは患者の全体的な健康軌道を予測する包括的なアプローチを採用している点が革新的です。

1150億件という膨大な医療イベントデータから学習した点は特筆すべきでしょう。これは単一の医療機関では到底収集できない規模であり、Epic Cosmosプラットフォームの強みを活かした取り組みと言えます。大規模言語モデルと同じトランスフォーマー技術を医療分野に応用することで、時系列の医療データから複雑なパターンを学習し、将来の健康状態を予測できるようになりました。

この技術によって可能になることは多岐にわたります。救急外来での入院判断、早期退院の安全性評価、30日再入院リスク予測など、日常的な臨床判断をデータに基づいて支援できるようになります。特に膵臓がんのような早期発見が困難な疾患の予測可能性は、患者の予後改善に大きく貢献する可能性があります。

一方で潜在的なリスクも存在します。AIの予測に過度に依存することで、医師の臨床的直感や患者との対話が軽視される懸念があります。また、学習データの偏りが予測結果に影響する可能性も考慮すべきでしょう。

規制面では、医療AIの承認プロセスや責任の所在について、既存の枠組みでは対応しきれない課題が浮上する可能性があります。患者データの利用範囲や予測結果の医療判断への組み込み方法について、新たなガイドラインが必要になるかもしれません。

長期的には、予測医療から予防医療への転換を加速させる技術として位置づけられます。症状が現れる前に疾患リスクを特定し、早期介入を可能にすることで、医療費削減と患者QOL向上の両立が期待されています。

【用語解説】

Epic Cosmos
Epic社が運営する大規模医療データプラットフォーム。匿名化された患者データを安全に管理し、医療研究とイノベーションを支援する協調的なデータ基盤である。

ASCVD(動脈硬化性心血管疾患)
動脈硬化によって引き起こされる心血管疾患の総称。心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患などが含まれる。予防医学において重要な指標の一つとされている。

大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータから学習し、自然言語の理解と生成を行うAIモデル。ChatGPTやGPT-4などが代表例で、Cometも同様のトランスフォーマー技術を医療データに応用している。

時系列医療イベント
患者の治療過程において時間順に発生する医療行為や状態変化。診断、検査結果、処方、入退院などの記録を時間軸で整理したデータ。

【参考リンク】

Epic Systems Corporation(外部)
電子医療記録システムの世界的リーダー企業。米国の主要医療機関の多くでEpicのシステムが採用されている。

Epic Cosmos(外部)
Epic社が運営する医療研究プラットフォーム。匿名化された大規模患者データを研究機関が安全に利用できる環境を提供。

arXiv(外部)
コーネル大学が運営する学術論文のプレプリントサーバー。査読前の最新研究成果が公開される場として広く利用されている。

【参考記事】

Generative Medical Event Models Improve with Scale(外部)
2025年8月に投稿された、Epic社の医療AI「Comet」の技術的詳細を解説した元論文です。1億人以上の患者データと1,150億件以上の医療イベントという大規模なデータセットで学習した本モデルの構造や性能について述べられています。

Epic’s Comet and the Next Era of Predictive Healthcare(外部)
医療技術企業のCEOによる詳細な分析記事。Cometが持つデータ規模の大きさや、既存の電子カルテシステムに統合される強みを評価し、予測医療の次の時代について論じています。

Epic Launches Comet: A New AI Platform to Predict Patient Health Journeys(外部)
Cometの技術的な仕組みを簡潔に解説したニュースレポート。大規模言語モデルと同様の技術を使い、時系列の医療イベントのパターンを学習して、患者の未来のタイムラインをシミュレートする点を説明しています。

【編集部後記】

医療AIが予測する未来について、皆さんはどのように感じられるでしょうか。Cometのような技術が実用化されれば、私たちが病院を訪れる体験は大きく変わるかもしれません。医師が「もしかすると来週再入院の可能性があります」と具体的な数値とともに説明してくれる日が近づいているのです。

一方で、AIの予測に頼りすぎることへの不安もあります。医療の現場で人間の直感や経験はどこまで重要なのか、患者として私たちはAIの判断をどう受け止めるべきなのか。皆さんご自身やご家族が医療を受ける立場として、この技術進歩をどう捉えていますか。ぜひSNSで皆さんの率直なご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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