Amazonは火曜日のイベントで、最新のRingカメラとドアベルに搭載される新しいAI機能を発表した。主な機能は「Familiar Faces」で、ユーザーが登録した友人や家族の顔をAIが識別し、見知らぬ人物を検出した際にも警告する。この機能はAlexa+ Greetingsシステムと統合され、特定の顔を認識すると個別の挨拶を行う。
もう一つの機能「Search Party」は、近隣のRingユーザーと連携して迷子のペットを探すもので、犬用は11月に開始され、猫やその他のペットは将来対応予定だ。
製品ラインナップはIndoor Cam Plusが59.99ドル、Wired Doorbell Plusが179.99ドル、Wired Doorbell Proが249.99ドル、Outdoor Cam Proが199.99ドル、Spotlight Cam Proが249.99ドル、Floodlight Cam Proが279.99ドル、Wired Doorbell Eliteが499.99ドルで、本日より予約注文が可能だ。Familiar FacesとAlexa+ Greetingは12月から提供開始される。
From: Ring cameras can now recognize faces and help to find lost pets | TechCrunch
【編集部解説】
Ringが顔認識機能を搭載することは、家庭用セキュリティデバイスの歴史における重要な転換点を示しています。同社は過去に「顔認識技術を製品やサービスに使用しない」と明言してきましたが、今回発表された「Familiar Faces」は、その方針を大きく転換するものです。
この技術は、ユーザーが自ら家族や友人の顔を登録し、デバイス上でローカルに識別するという点で、ClearviewAIのような商業的な顔認識システムとは異なります。つまり、見知らぬ人物を特定するのではなく、登録済みの人物を認識して通知の煩わしさを減らすことが主な目的です。しかし、この技術が実装されることで、将来的により広範な監視機能へと拡張される可能性は否定できません。
特筆すべきは、過去1年間でRing Neighborsアプリに100万件以上のペットの迷子・発見に関する投稿があったという公式データです。この数字は、コミュニティベースの安全ネットワークとしてのRingの役割が拡大していることを示しています。
しかし、プライバシーの観点からは懸念も残ります。Ringは過去に法執行機関との密接な関係やデータ管理の不備で批判を浴びてきました。2024年にFTC(連邦取引委員会)は、サイバー犯罪者や不正な従業員がユーザーのビデオにアクセスしていた問題で、Ringに560万ドルの返金を命じています。
また、2024年1月には、令状なしでの警察への映像提供を中止すると発表しましたが、2025年夏ごろにはAxon Enterpriseとの提携により、警察が映像リクエストできる機能を再導入しました。
創業者のJamie Siminoffは2023年に一度退任しましたが、2025年4月に復帰し、「AIファースト」の企業再構築を宣言しています。この方針転換は、従業員の昇進にAI利用の証明を求めるなど、組織文化の根本的な変革を伴っています。
技術的には、新しい「Retinal Vision」技術により2K・4K解像度と10倍ズーム、低照度性能の向上が実現されます。これは単なる画質向上ではなく、AI処理の基盤となるデータの質を高め、より高度な映像分析を可能にします。
今回の発表は、便利さとプライバシーのトレードオフという古典的なジレンマを改めて提起しています。デバイス自体は家族の安全やペット探しといった正当な目的で設計されていますが、一度インフラが整えば、その用途は容易に拡大されうるのです。
【用語解説】
Familiar Faces(ファミリアー・フェイシズ)
Ringが新たに導入する顔認識機能。ユーザーが家族や友人の顔を事前に登録することで、カメラがその人物を検出した際に個別に通知する。登録されていない人物を検出した場合も警告を発する。
Alexa+ Greetings(アレクサプラス・グリーティングス)
Amazonの音声アシスタントAlexaを統合したスマートドアベル機能。訪問者と自動的に対話し、配達管理や訪問目的の確認を行う。Familiar Facesと連携することで、認識した人物に応じて個別の挨拶を実行できる。
Search Party(サーチ・パーティ)
近隣のRingカメラをネットワーク化して迷子のペットを探すAI機能。ユーザーが迷子のペットを登録すると、周辺のRingユーザーに通知が届き、カメラがAIで一致する可能性のあるペットを検出した場合に所有者に報告する仕組み。
Retinal Vision(レティナル・ビジョン)
Ringが開発した新しい画像処理技術。AI駆動の最適化により、従来よりも鮮明な映像を提供する。2K解像度と4K解像度の製品ラインで利用可能で、10倍ズームや低照度環境での性能向上を実現している。
Ring Neighbors(リング・ネイバーズ)
Ringが運営するコミュニティ監視ネットワークアプリ。ユーザー同士が映像や情報を共有し、地域の安全を高めることを目的としている。過去には警察との連携が批判の対象となった。
FTC(Federal Trade Commission / 連邦取引委員会)
米国の独立政府機関で、消費者保護と競争法の執行を担当する。2024年には、Ringのデータ管理問題に関して560万ドルの返金を命じた。
Clearview AI(クリアビューAI)
ソーシャルメディアなどから無断で収集した数十億枚の顔画像を用いて顔認識サービスを提供する企業。プライバシー侵害の懸念から各国で訴訟や規制の対象となっている。商業的な顔認識システムの代表例。
【参考リンク】
Ring公式サイト(外部)
Amazon傘下の家庭用セキュリティデバイスメーカー。ビデオドアベルやセキュリティカメラを主力製品とする。
Amazon – Ring製品発表ページ(外部)
Ringの4Kカメラと新AI機能に関する公式発表ページ。Familiar Faces、Search Party、Alexa+ Greetingsの詳細を掲載。
Axon Enterprise公式サイト(外部)
警察向けのテーザー銃、ボディカメラ、証拠管理システムを提供する企業。Ringと提携している。
Electronic Frontier Foundation (EFF)(外部)
デジタル時代の市民的自由を擁護する非営利団体。Ringと警察の関係について批判的な立場を取る。
FTC(連邦取引委員会)(外部)
米国の消費者保護と競争法執行を担当する独立政府機関。2024年にRingに返金命令を下した。
【参考記事】
Ring unveils first-ever 4K security cameras and AI feature that helps families find lost pets(外部)
Amazon公式の発表記事。過去1年間でRing Neighborsアプリに100万件以上のペット関連投稿があったという統計データを提供。製品価格と提供開始時期も明記。
Ring founder ‘backs the blue,’ says AI is helping Amazon-owned doorbell unit fight crime(外部)
Ring創業者Jamie Siminoffの復帰と企業方針の転換を報じる記事。2018年の8億3900万ドルでの買収から2025年4月の復帰までの経緯を詳述。
Amazon Ring Cashes in on Techno-Authoritarianism and Mass Surveillance(外部)
EFFによるRingの監視機能強化に対する批判記事。「AIファースト」戦略への転換と従業員の昇進にAI利用証明を求めている実態を報告。
Amazon’s Ring launches AI-generated security alerts(外部)
2025年6月に導入されたVideo Descriptions機能について報じる記事。AIが映像を分析してテキスト説明を生成する機能をベータ版として提供開始。
Police surveillance and facial recognition: Why data privacy is imperative for communities of color(外部)
Brookings研究所による顔認識技術と警察監視の社会的影響に関する分析。Ring Neighborsアプリが有色人種コミュニティに与える影響を指摘。
【編集部後記】
家庭用カメラに顔認識機能が搭載される時代が到来しました。Ringのような技術は、確かに日常生活の安心を高めてくれます。しかし同時に、プライバシーの境界線が曖昧になっていくことも事実です。皆さんは、ご自宅の玄関先に設置するカメラに、どこまでの「知能」を求めますか?家族の顔を識別する便利さと、常に記録され続ける生活——このバランスについて、利用することを考えている方は深く考えるべき内容だと思いました。