Googleは2025年10月1日、Google Assistantから、Gemini AIを搭載した「Gemini for Home」への移行を開始した。また、それと同時に3つの新製品、ホームセキュリティカメラを発売した。
Google Nest Indoor Camera Wiredは100ドル、Google Nest Outdoor Camera Wiredは150ドル、Google Nest Video Doorbell Wiredは180ドルで、いずれも2K解像度を備える。無料ビデオストレージは従来の3時間から6時間に倍増した。
Gemini for Homeは2015年以降のNestおよびAndroidデバイスと後方互換性を持ち、自然な会話や複雑な自動化リクエストに対応する。Google Home Premiumサブスクリプションは月額10ドルから提供され、Gemini機能へのアクセスが含まれる。Google Homeアプリも刷新され、ライブビューの読み込み速度が30%向上した。
2026年春には100ドルのGoogle Home Speakerが発売予定である。
From: Gemini for Home Arrives as Google Launches All-New Smart Home Devices Starting Today
【編集部解説】
10年近く親しまれてきたGoogle Assistantが、生成AI「Gemini」へと完全に世代交代します。この変化は単なるアシスタントの名称変更ではなく、スマートホームの概念そのものを再定義する試みと言えるでしょう。
最も注目すべきは、Gemini for Homeが2015年まで遡って後方互換性を持つ点です。10年前のNestデバイスでも最新のAI機能を利用できるという方針は、ハードウェアの買い替えを強制せず、既存ユーザーを大切にする姿勢の表れです。ただし、サードパーティ製スマートスピーカーは現時点で対象外となっており、Google製デバイスへの囲い込み戦略も垣間見えます。
技術的な進化として特筆すべきは、Geminiの「文脈理解能力」です。従来のGoogle Assistantでは不可能だった「昨夜、何かが私の植物を食べた?」といった曖昧な質問に対しても、カメラ映像を解析して具体的な回答を提供します。また、「2つの寝室以外のすべての照明を消して」といった例外条件付きコマンドや、特定日時のみ有効な一時的ルーチンにも対応可能になりました。
一方で、Googleは意図的にGemini for Homeの能力を制限しています。記事では「より広範なLLMバージョンが創造的になりすぎた」と述べられており、これは生成AIの幻覚(ハルシネーション)問題への対応と見られます。家電制御という信頼性が最優先される用途では、正確性を犠牲にした創造性は不要という判断でしょう。
ビジネスモデルの変化も見逃せません。従来のNest Aware(カメラ専用サブスクリプション)から、すべてのGoogle Homeデバイスを包括するGoogle Home Premiumへと統合されました。月額10ドルという価格設定は、Amazon EchoやApple HomeKitとの競争を意識したものと考えられます。無料ユーザーでも従来と同じ基本機能は利用できますが、Gemini for Homeの高度なAI機能(文脈理解、詳細なカメラ通知、日次ブリーフィングなど)を利用するにはサブスクリプションが必要となります。
ハードウェア面では、バッテリー駆動モデルが提供されない点が残念です。配線工事が不要なワイヤレスカメラは設置の自由度が高く、賃貸住宅でも利用しやすいという利点がありました。この決定は、電力を大量に消費するAI処理を常時稼働させるための選択かもしれません。
2026年春発売予定の新型Google Home Speakerは「Geminiのために構築された」と説明されており、専用ハードウェアによるさらなる進化が期待されます。現行のNest Miniと比較してどのような体験の違いを提供するのか、今後の情報公開が待たれます。
このGemini統合は、スマートホームが「命令を実行する道具」から「対話できるパートナー」へと進化する第一歩です。ただし、常時音声を聞き取るデバイスがより高度なAI処理を行うことで、プライバシーへの懸念も高まるでしょう。Googleがどのようにデータ利用の透明性を確保するかが、今後の普及の鍵を握ります。
【用語解説】
Gemini
Googleが開発した大規模言語モデル(LLM)ベースの生成AI。従来のGoogle Assistantを置き換え、より自然な会話と文脈理解を可能にする。Gemini for Homeはスマートホーム用途に特化したバージョンである。
Google Assistant
Googleが2016年から提供してきた音声アシスタント。スマートスピーカーやスマートディスプレイで広く利用されてきたが、2025年10月1日よりGeminiに完全移行する。
Nest
Googleが2014年に買収したスマートホームデバイスブランド。カメラ、ドアベル、スピーカー、ディスプレイなどを展開してきたが、今後は「Google Home」ブランドに統合される。
LLM(Large Language Model)
大規模言語モデル。膨大なテキストデータで学習したAIモデルで、自然な文章生成や会話が可能。GeminiもLLMの一種である。
【参考リンク】
Google Nest公式サイト(外部)
Googleのスマートホームデバイス製品ラインナップを紹介する公式ストア。カメラ、ドアベル、スピーカー、ディスプレイなどの最新製品情報と購入が可能。
Google Home公式サイト(外部)
Google Homeアプリとスマートホーム体験を紹介する公式サイト。Gemini for Homeの機能説明や対応デバイス一覧を掲載している。
Gemini公式サイト(外部)
GoogleのAIアシスタントGeminiの公式サイト。チャット機能の利用や、各種デバイスでの活用方法を紹介している。
Qualcomm公式サイト(外部)
モバイルプロセッサやXRチップを開発する半導体メーカー。SnapdragonシリーズでスマートフォンやMRデバイスに技術を提供している。
【参考記事】
Gemini for Home: The helpful home gets an AI upgrade(外部)
Google公式ブログによるGemini for Home発表記事。新機能の詳細、対応デバイス、サブスクリプションプランについて説明。無料プランでも従来機能は利用可能だが、Geminiの高度な機能は有料プランが必要という点を明確に記載している。
Hey Google, meet Gemini: the new voice of your smart home(外部)
The Vergeによる詳細な分析記事。Google Home Premiumの価格体系、Gemini for Homeの具体的な機能、Google Assistantからの移行プロセスについて解説している。
Gemini for Home is the official replacement for Google Assistant on smart devices(外部)
Engadgetによる発表日当日の速報記事。新型カメラ3機種の仕様比較、無料ストレージの6時間への倍増、2026年春発売予定のスピーカーについて詳述している。
Google teases its new Gemini-powered Google Home speaker coming in spring 2026(外部)
TechCrunchによる新型Google Home Speakerの詳細記事。100ドルの価格設定、360度サウンド、Gemini専用設計について分析し、競合製品との比較を提供している。
Welcome to the next era of Google Home(外部)
Google公式ブログによる包括的な発表記事。Google Homeアプリの刷新、ライブビュー読み込み速度の30%向上、新しいUI設計について詳細に説明している。
【編集部後記】
皆さんのご自宅には、どんなスマートホームデバイスがありますか?スマートスピーカーやカメラをお使いの方も多いのではないでしょうか。今回のGemini統合で、これらのデバイスとの関係性が大きく変わろうとしています。特に興味深いのは、カメラが「昨夜、何かが植物を食べた?」といった曖昧な質問にも答えられるようになる点です。
従来の「動きを検知しました」という通知から、「郵便配達員が玄関に荷物を置いて立ち去りました」という文脈を理解した説明へと進化します。皆さんなら、この新しいAIアシスタントにどんな質問をしてみたいですか?スマートホームがより「対話できるパートナー」に近づいていく中で、私たちの暮らしがどう変化していくのか、一緒に見守っていきたいと思います。