中国の人工知能企業Z.ai(旧称Zhipu)は2025年9月30日、新しいフラッグシップモデルGLM-4.6をリリースした。
北京を拠点とする同社は、GLM-4.6がAnthropicの5月リリースのClaude Sonnet 4や、10月リリースのDeepSeek-V3.2-Expなど国内外の主要モデルに対して競争上の優位性を持つと発表した。
コーディング、推論、エージェント機能を評価する8つのベンチマークで、7月リリースのGLM-4.5から全面的に改善した。ただし、その前日にリリースされたAnthropicのClaude Sonnet 4.5にはコーディング能力で遅れをとっている。
Z.aiはコーディングツールのサブスクリプションプランを開始し、GLM-4.6を統合した。新モデルはHugging FaceとModelScopeでオープンソース化されたが、小型のAirバージョンのリリース予定はない。
Z.aiが22のタスクを追加したCC-Benchベンチマークで、GLM-4.6はClaude Sonnet 4とほぼ同等の性能を示した。
From: China’s Z.ai rolls out GLM-4.6 in latest coding challenge to Anthropic, OpenAI
【編集部解説】
中国のAI開発競争が新たな局面を迎えています。Z.aiのGLM-4.6リリースは、単なる新モデルの発表以上の意味を持っています。
注目すべきは、このモデルがコーディングエージェント領域に特化している点です。コーディングエージェントとは、人間の指示を理解してプログラムコードを自動生成・修正できるAIのこと。これは人工汎用知能(AGI)への重要なステップとされており、ソフトウェア開発の生産性を劇的に向上させる可能性があります。
Z.aiが独自に22のタスクを追加したCC-Benchというベンチマークで、Claude Sonnet 4と同等の性能を主張している点も興味深いところです。ただし、同日リリースされたClaude Sonnet 4.5には及ばないと認めており、米中のAI技術競争における現在地を示しています。
オープンソース戦略も見逃せません。Hugging FaceとModelScopeで公開することで、開発者コミュニティからのフィードバックを得て改善を加速させる狙いがあります。一方で、消費者向けハードウェアで動作する軽量版Airの提供を見送ったことは、商業化とリソース配分の優先順位を示唆しています。
サブスクリプションモデルの導入は、中国AI企業が研究開発投資を回収し、持続可能なビジネスモデルを構築する段階に入ったことを意味します。DeepSeek、Alibaba Cloud、Moonshot AIなど複数の中国企業がコーディングAI分野に参入しており、国内競争も激化しています。
この動きは、グローバルなソフトウェア開発エコシステムに影響を与えるでしょう。コーディング支援AIが普及すれば、プログラマーの役割は「コードを書く人」から「AIを指揮する人」へと変化していく可能性があります。
【用語解説】
AGI(人工汎用知能)
Artificial General Intelligenceの略。特定のタスクに特化した現在のAIとは異なり、人間と同等かそれ以上の知的能力を持ち、あらゆる認知タスクを実行できる仮説上のAIシステムを指す。
コーディングエージェント
自然言語での指示を理解し、プログラムコードの生成、修正、デバッグを自動で行うAIシステム。開発者の生産性向上とソフトウェア開発の民主化に寄与する技術として注目されている。
ベンチマーク
AIモデルの性能を客観的に評価するための標準化されたテストセット。コーディング能力、推論能力、言語理解など、特定の能力を数値化して比較可能にする。
CC-Bench
コーディングエージェントの実践的な能力を評価するための公開ベンチマーク。実世界のコーディングタスクにおけるAIの性能を測定する。
オープンソース
ソフトウェアのソースコードを無償で公開し、誰でも自由に利用、修正、再配布できるようにする開発モデル。開発者コミュニティからのフィードバックと貢献を促進する。
【参考リンク】
Z.ai(旧Zhipu AI)公式サイト(外部)
北京を拠点とする中国のAIユニコーン企業。清華大学発のスタートアップで、大規模言語モデルGLMシリーズを開発している。
Anthropic公式サイト(外部)
AI安全性研究に注力する米国のAI企業。Claudeシリーズの大規模言語モデルを開発し、特にコーディング能力で高評価を得ている。
Hugging Face(外部)
機械学習モデル、データセット、アプリケーションを共有するオープンソースプラットフォーム。AI開発の民主化を推進している。
ModelScope(外部)
Alibaba Cloudが運営する中国のAIモデル共有プラットフォーム。国内外の多様なAIモデルとツールを提供している。
DeepSeek公式サイト(外部)
中国の新興AI企業。高性能な大規模言語モデルを開発し、特にコストパフォーマンスとオープンソース戦略で注目されている。
Moonshot AI公式サイト(外部)
中国のAIスタートアップ。Kimiという長文コンテキスト処理に優れた大規模言語モデルを開発し、急速にシェアを拡大中。
【参考記事】
Anthropic releases Claude Sonnet 4.5(外部)
Anthropic公式の発表。Claude Sonnet 4.5を「世界最高のコーディングモデル」として同日リリースした。
【編集部後記】
コーディングAIの進化は、私たちの働き方をどう変えていくのでしょうか。プログラミングができない方でも、自分のアイデアを形にできる未来が近づいているのかもしれません。一方で、開発者の方々にとっては、AIとどう協働していくかが問われる時代になりそうです。
中国企業が次々とオープンソース戦略を展開する中、日本のAI開発はどのようなポジションを取っていくべきなのか。皆さんは日々の仕事や創作活動で、AIコーディングツールを試されたことはありますか?もしあれば、どんな場面で役立ったか、あるいは限界を感じたか、ぜひ考えてみていただけたらと思います。