Googleは2025年11月10日、コーディング不要で数分でプロトタイプを構築できる地理空間AIエージェント「Builder agent」を発表した。
このツールは生成AIとGoogle Maps Platform APIを組み合わせ、自然言語での指示だけでカスタムコード化されたインタラクティブなプロトタイプを生成する。
Street Viewを使った仮想ツアーや3Dマップ、環境データの可視化などが可能で、不動産アプリや旅行会社、都市計画などでの活用が想定される。Builder agentはGeminiモデルと適応的推論を使用し、2億5000万以上の場所の最新データに基づいて動作する。
Code Assist Toolkitを組み込み、ソースコードとソリューションガイドを提供する。プロトタイプは共有可能で、生成されたコードは開発環境へのエクスポートが可能である。
このサービスは無料で利用できる。
From:
Turn map ideas into custom-coded prototypes in minutes, no coding required
【編集部解説】
Googleが発表したBuilder agentは、開発の民主化という大きな潮流の中で注目すべき一手です。このツールの本質は、「コーディングスキルの有無」という壁を取り払い、アイデアを持つすべての人に地理空間アプリケーション開発の扉を開く点にあります。
従来、Google Maps APIを活用した開発には、JavaScriptやAPIの仕様理解が不可欠でした。Builder agentはGeminiモデルの推論能力を活用し、「ロサンゼルスの3Dマップを作成して」といった自然言語の指示を、実際に動作するコードへと変換します。生成されたコードはそのままエクスポート可能で、Firebase Studioでの更なるカスタマイズにも対応しています。

この動きは、ローコード・ノーコード開発市場の急成長と連動しています。2025年までに新規アプリケーションの70%がローコード・ノーコード技術を活用するという予測もあり、Builder agentはこの流れを地理空間分野へ拡張する戦略的な製品といえるでしょう。
技術的な側面では、Model Context Protocol(MCP)の採用が重要です。これは、AI アシスタントと外部データソースを接続する新しい標準規格で、開発者が自身のAIモデルをGoogle Mapsの2億5000万以上の場所データに接続できるようになります。Grounding Liteと呼ばれるこの機能により、「最寄りのスーパーまでどのくらい?」といった文脈的な質問に、視覚的かつインタラクティブに回答できるAIアシスタントの構築が可能になります。
開発者の生産性向上という観点からも見逃せません。AI支援ツールを活用した開発者の61%が生産性の向上を報告し、レビューサイクル時間が31.8%短縮されたという研究結果もあります。Builder agentは、初期のスコープ設定段階で数週間を節約し、本格的な開発投資の前に実現可能性を検証できる環境を提供します。
一方で、生成されるコードの品質管理や、セキュリティ面での配慮は引き続き必要です。特に位置情報を扱うアプリケーションでは、プライバシー保護やデータガバナンスへの注意が欠かせません。また、AIが生成したコードを理解し、適切にメンテナンスできる能力も、長期的な運用では重要になってきます。
Googleは同時期にGemini capabilities in Google Earthも展開しており、地理空間AI分野での包括的な戦略が見て取れます。Builder agentはその中核を担うツールとして、不動産、旅行、都市計画、物流など多様な業界でのイノベーションを加速させる可能性を秘めています。
【用語解説】
Builder agent
Googleが開発した地理空間AIエージェント。自然言語の指示からGoogle Maps Platformを活用したプロトタイプを自動生成するツールである。
Geminiモデル
Googleが開発した大規模言語モデル。マルチモーダル機能を持ち、テキスト、画像、音声などを処理できる生成AI技術の基盤となっている。
Model Context Protocol (MCP)
AIアシスタントと外部データソースを接続するための標準化されたオープンソースプロトコル。Claude、Gemini、ChatGPTなどのAIアプリケーションが、データベースやAPIといった外部システムとシームレスに連携できるようにする仕組みである。
Grounding
AI生成の回答を特定のデータソースに基づかせる技術。Google Mapsとのグラウンディングでは、2億5000万以上の場所データに基づいた正確で最新の位置情報を提供する。
Street View
Googleが提供する360度パノラマ画像サービス。世界中の道路や場所を仮想的に探索できる技術である。
Code Assist Toolkit
Google Maps Platformに組み込まれたAIコーディング支援ツール。最新のドキュメントと技術リソースに基づいて実装計画とコード生成をサポートする。
【参考リンク】
Google Maps Platform – Builder agent(外部)
Builder agentの公式ページ。無料でプロトタイプ作成を開始でき、自然言語からカスタムコード化された地理空間アプリケーションを数分で生成できる。
Grounding with Google Maps | Gemini API(外部)
Gemini APIとGoogle Mapsのグラウンディング機能に関する公式ドキュメント。2億5000万以上の場所データを活用した位置情報対応AIアプリケーションの構築方法を解説。
Model Context Protocol 公式サイト(外部)
MCPに関するオープンソース標準の公式サイト。AIアプリケーションと外部システムを接続する仕組みについて、アーキテクチャやユースケースを詳しく説明。
Vertex AI Agent Builder(外部)
Googleのエンタープライズ向けAIエージェント構築プラットフォーム。企業データに基づいた高度なエージェントシステムを構築、スケール、ガバナンスする包括的な環境を提供。
【参考記事】
Google Maps releases new AI tools that let you create custom prototypes(外部)
TechCrunchによるBuilder agentの発表記事。Model Context Protocol (MCP)の採用により、開発者が自身のAIモデルをGoogle Mapsの2億5000万以上の場所データに接続できる点を詳述。
【編集部後記】
もし、あなたの頭の中に「こんな地図アプリがあったらいいのに」というアイデアが眠っているなら、Builder agentはそれを形にする最初の一歩になるかもしれません。
コードを書けなくても、自然な言葉で語りかけるだけでプロトタイプが生まれる。その体験は、開発という行為の敷居をどこまで下げられるのか、私たち自身で確かめてみる価値があるのではないでしょうか。あなたなら、この技術で何を作ってみたいですか?
























