AI専門家のFei-Fei Li氏が共同創業したWorld Labsが、初の商用ワールドモデル製品「Marble」を2025年11月12日にローンチした。Marbleは、テキストプロンプト、写真、ビデオ、3Dレイアウト図などの複数入力から、編集可能でダウンロード可能な3D環境を生成できる。
DecartやOdysseyなどの競合無料デモ版と異なり、永続的な3D環境を生成し、ガウシアンスプラッティング、meshes、ビデオなど様々なフォーマットでのエクスポートが可能である。ビルトインAI編集ツールにより、ユーザーは空間フレームワークを手動構築した後、AIが視覚的ディテールを補完する。Apple Vision ProやMeta Quest 3との互換性があり、ゲーム開発、映画エフェクト、VR分野での活用が期待される。World Labsは2億3000万ドルの資金調達から1年余りでの製品化を実現した。
【編集部解説】
Marbleの最大の技術的特徴は、ガウシアンスプラッティングという3D表現技術を採用している点にあります。これは従来のメッシュベースやNeRF(Neural Radiance Fields:ニューラル放射輝度場)と異なり、点群データを使って高速かつ高品質な3Dレンダリングを実現する手法です。この技術により、リアルタイム性とフォトリアリスティックな品質を両立させています。
もう一つ注目すべきは「永続的な3Dワールド」という概念でしょう。競合のDecartやGoogleのGenieがリアルタイム生成で、その場限りの体験を提供するのに対し、Marbleは一度生成した3D環境を保存し、継続的に編集・活用できる設計になっています。これにより、プロトタイプ制作から最終成果物まで一貫したワークフローが構築可能です。
Chiselという実験的エディターの導入も重要な意味を持ちます。ユーザーが粗い3D形状で空間構造を配置し、AIがビジュアルディテールを補完するという「構造とスタイルの分離」アプローチは、クリエイターの意図を保ちながらAIの生成能力を活用できる点で画期的です。従来のAI生成ツールが抱えていた「制御の難しさ」という課題への一つの解答と言えるでしょう。
ゲーム開発や映画制作の現場では、背景環境やコンセプトアートの制作に膨大な時間とコストがかかっていました。Marbleはこのプロセスを大幅に効率化し、小規模スタジオでも高品質な3D環境を短期間で構築できる可能性を開きます。VRデバイスとの互換性により、設計段階から没入型レビューが可能になる点も実用的です。
また、ロボティクス分野でのシミュレーション環境構築への応用が言及されている点も見逃せません。自律ロボットのトレーニングには多様な環境データが必要ですが、Marbleのような技術があれば、現実世界を再現した訓練環境を効率的に生成できます。これは製造業や物流、災害対応などの分野でロボット活用を加速させる要因となるでしょう。
World Labsが2024年9月に2億3000万ドルの大規模資金調達を実施し、評価額が10億ドルを超えるユニコーン企業となってから約1年での製品化は、投資家の期待の高さを示しています。Andreessen HorowitzやNEA、さらにはGoogleのJeff Deanやジェフリー・ヒントンといった著名AI研究者が投資している事実は、ワールドモデル技術が次世代AI研究の主要トレンドになりつつあることを裏付けています。
【用語解説】
ガウシアンスプラッティング
複数の写真から3Dシーンを再現する技術で、空間を多数のガウス分布(点群)で表現する。ニューラルネットワークを使わず従来の最適化手法を用いるため、NeRFより高速にフォトリアリスティックな3Dレンダリングが可能。
NeRF(Neural Radiance Fields:ニューラル放射輝度場)
2D画像から高精細な3Dシーンを再構築するニューラルネットワーク技術。各空間座標と視点方向から光の色と密度を推定し、新しい視点からの画像をレンダリングする。
Chisel
World Labsが開発した実験的な3Dエディター。テキストプロンプトと3Dオブジェクトの直接操作を組み合わせて空間レイアウトを設計できるツール。
大規模ワールドモデル
3D世界を認識、生成、推論、相互作用できる基盤モデル。World Labsが提唱する、空間知能を実現するAIアーキテクチャの概念。
Spatial Intelligence(空間知能)
3D空間を理解し、その中で推論や相互作用を行う能力。World Labsが注力する、視覚情報を行動や創造に変換するAI技術領域。
永続的3D環境
一度生成した3Dワールドを保存し、継続的に編集・活用できる仕組み。リアルタイム生成型モデルとは異なり、成果物として保持・再利用が可能な設計。
【参考リンク】
World Labs 公式サイト(外部)
Fei-Fei Li氏らが創業した空間知能企業の公式サイト。Marbleの機能紹介、活用事例、技術解説などを掲載。
Marble 公式サイト(外部)
World Labsの初の商用製品Marbleの専用サイト。無料トライアルと有料プランの登録、チュートリアル、ドキュメントなどにアクセスできる。
AWS – 3D Gaussian Splatting解説(外部)
Amazon Web Servicesによる3D Gaussian Splatting技術の詳細解説。NeRFとの比較、技術的メリット、実装方法などを包括的に説明。
AWS – NeRF解説(外部)
Neural Radiance Fieldsの基本原理、アーキテクチャ、活用事例をAWSが解説。マルチレイヤーパーセプトロンを用いた3Dシーン再構成の仕組みを説明。
【参考記事】
Fei-Fei Li’s World Labs speeds up the world model race with Marble – TechCrunch(外部)
TechCrunchによるMarbleローンチの報道。競合のDecartやOdysseyとの比較、永続的3D環境の生成機能、VRデバイスとの互換性などを詳述している。
Introducing World Labs – Radical Ventures(外部)
投資会社Radical VenturesによるWorld Labs紹介記事。Fei-Fei Li氏、Justin Johnson氏、Christoph Lassner氏、Ben Mildenhall氏という創業チームの経歴と、Large World Modelsの技術的ビジョンを解説。
AI Pioneer Fei-Fei Li Raises $230 Million for New Startup – Yahoo Finance(外部)
2024年9月のWorld Labsによる2億3000万ドル資金調達の報道。Andreessen Horowitz、NEAなどの投資家、評価額10億ドル超のユニコーン到達を伝えている。
3D Gaussian Splattingとは?仕組み・NeRFとの違い・企業活用事例 – AI Market(外部)
2023年8月発表の3D Gaussian Splatting技術を日本語で解説。ガウス関数による3D表現、ゴースト現象の抑制、VR/AR応用など幅広く紹介している。
【編集部後記】
ガウシアンスプラッティングは2023年後半に登場した新技術ながら、すでにNeRFより高速かつリアルタイムレンダリングが可能という評価を得ています。しかし一方で、照明の相互作用や複雑なディテールの再現ではNeRFが優位とする見方もあり、用途による使い分けが現実的かもしれません。Marbleがどちらの技術的強みをどう組み合わせているのか、実際の生成品質はいかほどか。VRデバイスで体験できる今、クリエイターたちの反応が気になるところです。ロボティクス分野への応用も言及されていますが、シミュレーション環境としての精度は実用レベルに達しているのでしょうか。
























