Last Updated on 2025-08-04 18:05 by まお
フロリダポリテクニック大学のNathan Dawson准教授らの研究チームが、動物界初となる生体レーザー共振腔を孔雀の尾羽で実現したことが2025年7月にScientific Reports誌で発表された。
研究では雄孔雀(Pavo cristatus)の尾羽にロダミン6G染料を複数回含浸させ、532nmの緑色レーザーで励起した結果、574nmと583nmの2つの波長で安定したレーザー発振を観測した。興味深いことに、羽根のアイスポット(目玉模様)全域で同一波長が再現性高く発振し、特に緑色領域で最も強い光強度を示した。
重要な発見として、単回の染色処理では効果がなく、濡潤と完全乾燥を繰り返すサイクルが必要であることが判明している。これにより染料と溶媒がバービュール(羽小枝)により深く浸透し、ケラチン鞘の構造変化が生じると考えられている。
この成果は生体適合レーザーとして体内センシング、リアルタイム医療イメージング、治療用途への応用が期待されており、次世代バイオフォトニクス技術の基盤となる可能性を秘めている。
From:
Peacock feathers can emit laser beams
【編集部解説】
孔雀の羽根が示した”生体レーザー”は、自然界のフォトニッククリスタルが人工共振器に匹敵する精度で光を制御できることを示しています。通常のランダムレーザーと異なり、すべての色領域で同一波長が再現性高く発振した点は特に注目に値します。この安定性は、羽根内部に未解明の微小共振構造が広範囲に存在することを示唆しており、研究グループはタンパク質顆粒などが関与している可能性を挙げています。
医療応用では、組織に埋め込める生体適合レーザーが実現すれば、リアルタイムの血中成分モニタリングやがん細胞の早期検出など、非侵襲型の診断・治療デバイスが視野に入ります。一方で、長期照射による組織損傷リスクや、染料の生体安全性評価、規制枠組みの整備といった課題も無視できません。
また、本研究はバイオミメティクスに新しい道を開く可能性があります。自然由来のナノ構造を模倣した光学材料が開発されれば、低消費電力で高効率なフォトニックチップや環境発電型センサーなど、従来のシリコンフォトニクスを補完する技術が生まれるかもしれません。私たちが見逃してきた自然界のデザインに、次世代テクノロジーの鍵が潜んでいることを改めて示す発見です。
【用語解説】
バービュール(barbule)
羽根の微細繊維。秩序あるメラニンロッドをケラチンが被覆し、干渉による構造色を生む。
ロダミン6G(Rhodamine 6G)
蛍光色素。緑色光励起で橙–赤色域に強い発光を示すため、染料レーザー媒質として広く利用される。
フォトニッククリスタル
屈折率が周期的に変化するナノ構造体。特定波長の光を遮断または透過し「光の半導体」として機能する。
生体レーザー共振腔
生物組織内に自然形成される光学共振器。励起源と増幅媒質がそろうことで組織自体がレーザーを発振する。
Scientific Reports
Nature Portfolio発行のオープンアクセス総合科学誌。査読基準を科学的妥当性に特化し、最新インパクトファクター4.0。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
孔雀の羽根が放つレーザーは、自然界が秘める設計図の一端かもしれません。生体レーザーが医療や創薬、アート表現で活用される未来を想像すると胸が高鳴ります。皆さんは、この技術がどのような場面で力を発揮すると考えますか?自然とテクノロジーが交差する最前線を、私たちと共に探求していきましょう。