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ジャガイモの起源は900万年前のトマトとの交雑だった――中国農業科学院のゲノム解析が証明

ジャガイモの起源は900万年前のトマトとの交雑だった――中国農業科学院のゲノム解析が証明 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-08-09 22:53 by りょうとく

中国農業科学院の研究者らが、ジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム)の起源に関する研究を行い、2025年に学術誌『Cell』に結果を発表した。

研究では栽培ジャガイモ450のゲノムと56の野生ジャガイモ種を対象に、計128のゲノム解析を実施した。その結果、現在のジャガイモは約900万年前、トマトの祖先(ソラヌム・リコペルシクム)と南米原産のEtuberosum属植物との交雑により誕生したことが判明した。

ジャガイモとトマトは約1300万年前の共通祖先から分岐し、その400万年後に子孫同士の交配が成功した。塊茎形成を決定するSP6A遺伝子はトマト由来、地下茎成長を制御するIT1遺伝子はEtuberosum科由来である。

この交雑は中新世(約2,300万~530万年前)のアンデス山脈隆起と同時期に発生し、新たな寒冷気候への適応を可能にした。ジャガイモは1700年から1900年の旧世界人口増加の約25%に寄与したとされる。

From: 文献リンクScience Reveals the Surprising Origins of the Potato

【編集部解説】

今回発表された研究の科学的意義は非常に大きいものです。これまでジャガイモの起源は謎に包まれており、形態的にはチリのEtuberosum種に酷似しているにも関わらず、遺伝学的にはトマトに近いという矛盾した事実が長年科学者を悩ませていました。今回の研究は、この「進化学上のパズル」をついに解き明かしました。

研究チームは44野生種を含む前例のない規模でのゲノム解析を実現しています。野生種の採取は極めて困難で、今回の包括的解析は、次世代シーケンシング技術とAI支援による大規模データ処理の進歩によって初めて可能になりました。これは単なる植物学の発見を超え、現代のバイオインフォマティクス技術の成果といえます。

この発見が農業分野に与える影響は計り知れません。ジャガイモは世界で3番目に重要な作物であり、10億人以上の主食となっています。SP6A遺伝子とIT1遺伝子の機能が解明されたことで、これらの遺伝子を活用した新品種開発が理論的に可能になりました。

特に注目すべきは、研究チームがトマトを「合成生物学のシャシー」として活用する新たなアプローチを提案している点です。トマトは種子繁殖が容易で育種期間も短いため、従来のジャガイモ育種の課題を克服できる可能性があります。現在のジャガイモ育種は10年以上の長期間を要しますが、この技術により大幅な期間短縮が期待されます。

しかし、この技術には慎重な検討が必要な側面もあります。遺伝子組換えや合成生物学的手法により開発された新品種に対する消費者の受容性、各国の規制対応、さらには野生種との交雑による生態系への影響など、複数の課題が存在します。

長期的視点で見ると、この研究は「ハイブリダイゼーション主導進化」という新たな進化観を提示している点で重要です。従来の「ランダム変異による漸進的進化」に対し、「種間交雑による急速な新形質獲得」が生物多様性創出の重要メカニズムであることを実証しました。これは生命科学全般の理解を根本から変える可能性を秘めています。

【用語解説】

ゲノム解析
生物の全遺伝情報(DNA配列)を網羅的に分析し、遺伝子の構造や機能を解明する技術である。次世代シーケンシング技術の進歩により、短期間で大量のゲノムデータを取得できるようになった。

ソラヌム属
ナス科に属する植物群で、ジャガイモ、トマト、ナス、タバコなど約1,400種を含む。世界で最も種類が多い植物属の一つである。

塊茎(かいけい)
植物が地下に形成する肥大した茎で、養分を貯蔵する器官である。ジャガイモの可食部分がこれに該当し、種子を用いない無性生殖を可能にする。

SP6A遺伝子
ジャガイモの塊茎形成を制御する「マスタースイッチ」として機能する遺伝子である。この遺伝子がトマト系統から受け継がれたことが今回の研究で判明した。

IT1遺伝子
地下茎の成長を制御し、塊茎形成に重要な役割を果たす遺伝子である。南米原産のEtuberosum科植物から受け継がれた。

中新世
約2,300万年前から530万年前の地質時代である。この時期にアンデス山脈の急激な隆起が発生し、ジャガイモの進化に大きな影響を与えた。

ハイブリダイゼーション(交雑)
異なる種や系統の生物同士が交配し、新たな遺伝的組み合わせを持つ子孫を生み出すことである。従来考えられていたよりも生物進化における重要性が高いことが明らかになりつつある。

【参考リンク】

中国農業科学院(CAAS)(外部)
中国の国家農業科学研究機関。1957年設立で45の研究所を擁する。今回の研究を主導。

Cell誌(外部)
生命科学分野最権威の学術誌。1974年創刊でインパクトファクター30.22。

【参考記事】

The potato evolved from an ancient tomato encounter, scientists say(外部)
ジャガイモの進化的起源研究の概要とアンデス山脈隆起との関連性を解説。

What’s a Potato? A Nine-Million-Year-Old Tomato(外部)
ジャガイモとトマトの系統関係と進化生物学への影響を詳細分析。

Scientists just solved the 9-million-year mystery of where potatoes came from(外部)
研究の技術的詳細と次世代シーケンシング技術の貢献について説明。

Evolutionary origins of the potato revealed – and a tomato was involved(外部)
研究結果の客観的報告と食料安全保障への潜在的影響を言及。

【編集部後記】

私たちがいつも当たり前に食べているジャガイモが、実は900万年前のトマトとの「運命的な出会い」から生まれていたなんて、誰が想像したでしょうか。

人類の食卓を支えてきた「偶然の産物」が、今度は最新のゲノム技術によって、未来の食料問題解決の鍵になろうとしています。毎日のフライドポテトや肉じゃがを食べるとき、その背景にある壮大な進化の物語を思い浮かべてみませんか?

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TaTsu
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