連邦住宅金融庁(FHFA)のウィリアム・J・プルテ長官は2025年6月25日(水曜日)、ファニーメイとフレディマックに対し、一戸建て住宅ローンのリスク評価において暗号資産を資産として認定するよう指示した。
この指令により、借り手は暗号通貨を米ドルに換金することなく住宅ローンの担保資産として利用できるようになる。ファニーメイとフレディマックは2008年の金融危機以降、政府管理下に置かれており、米国住宅市場で重要な役割を果たしている。
プルテ長官は重要な研究を経てこの決定を行ったと述べ、この政策はトランプ大統領の「米国を世界の暗号資産の首都にする」という目標に沿ったものである。
JPMorganも富裕層顧客向けに暗号資産担保融資を検討しており、CircleのUSDCステーブルコインも来年から先物取引の適格担保となる予定である。
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US home mortgage regulator to recognize crypto assets in risk assessments
【編集部解説】
今回のFHFAによる指令は、単なる政策変更を超えて、米国の金融システムにおける根本的なパラダイムシフトを示しています。従来、暗号資産は価格変動の激しさや規制の不透明さから、住宅ローンの審査において「リスク要因」として扱われてきました。しかし、この決定により暗号資産が正式に「資産」として認定されることになります。
特に注目すべきは、借り手が暗号資産を米ドルに換金する必要がなくなる点です。これまで多くの暗号資産保有者は、住宅購入時に保有資産を売却せざるを得ませんでした。売却により税務上の問題が発生したり、将来の価格上昇機会を逸失するリスクがあったためです。
プルテ長官は「重要な研究の後」にこの決定を行ったと述べていますが、具体的な対象範囲や評価基準については今後明確化される見込みです。価格変動リスクをどのように評価し、担保価値をどう算定するかが重要な課題となるでしょう。
この政策変更が与える影響は多岐にわたります。まず、デジタルネイティブ世代の住宅購入機会が拡大する可能性があります。特に20代から30代の若年層は、従来の金融資産よりも暗号資産を多く保有する傾向にあり、彼らの住宅市場参入が促進されるでしょう。
一方で、潜在的なリスクも存在します。暗号資産の価格変動は株式市場を大きく上回る激しさを持ち、担保価値の急激な下落が住宅ローン市場全体に与える影響は未知数です。2008年の金融危機を経験したファニーメイとフレディマックが、再び新たなリスク要因を抱えることになる懸念もあります。
規制面では、この決定が他の金融機関や政府機関に与える影響も注目されます。JPMorganが既に富裕層向けに暗号資産担保融資を検討していることからも分かるように、民間金融機関での類似サービス拡大が予想されます。
長期的な視点では、この政策は米国が「世界の暗号資産首都」を目指すトランプ政権の戦略の一環として位置づけられます。金融インフラの暗号資産対応が進むことで、デジタル資産エコシステムの成熟が加速し、最終的には従来の金融システムとの完全な統合が実現する可能性があります。
【用語解説】
暗号資産(仮想通貨)
電子データのみでやりとりされる通貨で、法定通貨のように国家による強制通用力を持たない。主にインターネット上での取引に用いられ、デジタル通貨とも呼ばれる。
政府支援企業(GSE)
Government Sponsored Enterprisesの略。形式的には民間の株式会社だが、市場では「暗黙の政府保証」が期待されており、米国政府と同等の信用力が認められている。
住宅ローン担保証券(MBS)
住宅ローン債権を証券化した金融商品。ファニーメイとフレディマックが民間金融機関から住宅ローン債権を買い取り、証券化して投資家に販売する。
ステーブルコイン
法定通貨と価値が連動するよう設計された暗号資産。USDCは米ドルと1:1でペッグされ、100%法定通貨建ての準備資産によって裏付けられている。
【参考リンク】
連邦住宅金融庁(FHFA)(外部)
ファニーメイ、フレディマック、連邦住宅貸付銀行システムの監督・規制を担当する米国政府機関
ファニーメイ(Fannie Mae)(外部)
1938年設立の政府支援企業で、住宅ローンの流動性を提供し米国住宅市場を支える
フレディマック(Freddie Mac)(外部)
1970年設立の政府支援企業で、ファニーメイと並んで米国住宅ローン市場の中核を担う
JPMorgan(外部)
米国ニューヨークに本社を置く世界有数のグローバル総合金融サービス会社
Circle(外部)
USDCステーブルコインの発行企業でブロックチェーン技術を活用した金融サービスを提供
【参考記事】
JPMorgan to allow select clients to use crypto as collateral(外部)
JPMorganが富裕層顧客に暗号資産担保利用を許可する計画を報じたロイター記事
Circle’s USDC approved as collateral for futures trading(外部)
CircleのUSDCステーブルコインが先物取引の適格担保として承認されたことを報じた記事
【編集部後記】
今回のニュースを読んで、みなさんはどのような感想を持たれたでしょうか。暗号資産が住宅ローンの担保として認められることで、これまでとは全く異なる資産形成の道筋が見えてきました。
もしかすると、みなさんの中にも暗号資産を保有されている方がいらっしゃるかもしれません。この政策変更は日本にも影響を与える可能性があります。日本の金融機関や住宅ローン制度にも同様の変化が訪れるのか、それとも独自の道を歩むのか。
私たちinnovaTopiaも、この分野の動向を引き続き注視していきたいと思います。みなさんはこの変化をどのように捉えられますか?ぜひSNSで感想をお聞かせください。