イーサリアムウォレットMetaMaskが今週中に独自ステーブルコインmUSDの詳細を発表する見込みである。
先週早期投稿されたガバナンス提案が削除されたことで、すでに開発中であることが判明していた。発表後、mUSDは2025年8月末にライブ資産となる予定だ。
MetaMaskは月間アクティブユーザー数3000万人超を有する。mUSD発行には、2025年初めにフィンテック大手Stripeが買収したステーブルコイン決済促進企業Bridge、ステーブルコイン発行プロトコルM^0が協力する。
また伝統的金融のオルタナティブ資産運用会社Blackstoneが管理・資金管理サービスで支援する。MetaMaskとM^0はコメントを控え、BlackstoneとBridgeはコメント要請に応答しなかった。
MetaMaskがブランドステーブルコインを立ち上げる動機は、TetherのUSDTやCircleのUSDCなど主要ステーブルコインを大量保有する他プラットフォーム同様、基礎資産の利回り共有機会にある。
From: Ethereum Wallet MetaMask Will Likely Unveil Its Own Stablecoin this Week
【編集部解説】
MetaMaskのステーブルコイン参入は、Web3の金融インフラが本格的に成熟期に入ったことを示すマイルストーンです。
この発表が持つ技術的意義を解説いたします。MetaMaskは単なるウォレットアプリケーションから、包括的な金融プラットフォームへの進化を図っています。現在、USDT(Tether)やUSDC(Circle)といった既存ステーブルコインが市場を支配していますが、これらの企業は米国債券などの短期投資で得た収益を保有者に還元していません。mUSDの登場により、ユーザーは初めて自分が保有する資産の利回りを享受できる可能性があります。
特に注目すべきは、MetaMaskが選択したパートナーシップの戦略性です。決済インフラを担うBridgeはStripeが2025年初頭に11億ドルで買収したばかりの企業で、伝統的金融と暗号資産をシームレスに繋ぐ技術を持っています。一方、資産管理を担うBlackstoneは世界最大級のオルタナティブ資産運用会社であり、機関投資家レベルの管理体制を提供します。
この動きが業界に与える影響は多面的です。まず、ウォレット事業者のビジネスモデル転換が加速するでしょう。従来の手数料収入モデルから、資産管理による継続収入モデルへのシフトが進みます。次に、ステーブルコイン市場の競争激化により、ユーザーにとってより有利な条件が提示される可能性があります。
しかし、潜在的なリスクも存在します。MetaMaskが資産発行者となることで、プラットフォームリスクが高まります。技術的問題や規制変更により、ユーザー資産に影響が及ぶ可能性があります。また、資産の分散管理という暗号資産の理念から、中央集権的な管理構造への回帰という批判も予想されます。
規制の観点では、米国で最近成立したGENIUS法がステーブルコインの規制枠組みを明確化したことが、この発表のタイミングに影響していると考えられます。企業が自信を持ってステーブルコイン事業に参入できる法的環境が整ったのです。
長期的視点では、mUSDの成功如何によって、他の大手ウォレット事業者やDeFiプロトコルも独自ステーブルコインの発行を検討する可能性があります。これにより、従来の中央集権的な金融機関が提供してきたサービスが、分散化された環境で再構築される「リ・アーキテクチャ」が本格化するでしょう。
今回の発表は単なる新サービスの開始ではありません。Web3金融システムが従来の金融機関と対等に競争できるインフラを構築したことの証左であり、金融アクセスの民主化とユーザーエンパワーメントの新たな段階への移行を意味しています。
【用語解説】
ステーブルコイン
米ドルなど法定通貨の価値に連動するよう設計された暗号資産。価格安定性を保つため、準備資産として国債などが保有される。
mUSD
MetaMaskが発行予定の米ドル連動ステーブルコイン。MetaMask USDの略称。
M^0
ステーブルコイン発行プロトコル。技術的インフラを提供し、企業がステーブルコインを発行できる仕組みを構築する。
DeFi(分散型金融)
ブロックチェーン上で動作する金融サービス。従来の銀行システムを経由せずに、融資・交換・投資などの金融取引が可能。
ガバナンス提案
ブロックチェーンプロジェクトにおける意思決定プロセス。コミュニティメンバーが提案を行い、投票により採否が決定される。
Web3
ブロックチェーン技術を基盤とした次世代インターネット。分散化とユーザーの所有権を重視する概念。
イールド
投資から得られる収益率。ステーブルコインの場合、準備資産である国債の利息収入が該当する。
【参考リンク】
MetaMask(外部)
世界最大規模の暗号資産ウォレット。1億人以上のユーザーを抱え、イーサリアムをはじめ複数のブロックチェーンネットワークに対応
Stripe(外部)
グローバル決済プラットフォーム。2025年2月にBridgeを11億ドルで買収し、ステーブルコイン事業に本格参入
Blackstone(外部)
世界最大のオルタナティブ資産運用会社。運用資産総額1兆ドル超を誇り、幅広い投資領域でサービスを展開
Bridge(外部)
ステーブルコイン決済インフラを提供する企業。企業がステーブルコイン決済を簡単に導入できるAPIとツールを開発
Consensys(外部)
イーサリアムエコシステムの開発企業。MetaMaskの開発・運営を担当し、ブロックチェーン技術の普及に貢献
【参考記事】
CNBC – Stripe Bridge買収完了報道(外部)
StripeによるBridge買収完了(2025年2月、11億ドル)を報じた主要メディアの速報記事。決済大手の暗号資産業界参入の戦略的意義を詳細分析
ホワイトハウス公式 – GENIUS Act成立発表(外部)
2025年7月18日のGENIUS Act(ステーブルコイン規制法)成立に関する政府公式発表。米国におけるステーブルコイン規制枠組みの法的根拠を提供
Sidley Austin法律事務所 – GENIUS Act専門解説(外部)
GENIUS Actの法的影響と企業のステーブルコイン発行への実務的影響を専門的に分析した法律事務所による解説記事。規制環境の変化を詳細に説明
【編集部後記】
MetaMaskのmUSD発表は、私たち一人ひとりのデジタル資産管理に新たな選択肢をもたらします。これまでステーブルコインの利回りは発行企業が独占していましたが、今回の動きでユーザーが直接恩恵を受けられる可能性が出てきました。
皆さんは普段使っているウォレットサービスに、どのような付加価値を求めますか?単なる保管機能を超えて、資産運用の機能まで統合されることについて、どう感じられるでしょうか。一方で、利便性と引き換えに生まれる新たなリスクについても考える必要があります。
この変化が暗号資産業界全体に与える影響と、私たちの資産管理スタイルがどう変わっていくのか、ぜひ一緒に注目していきましょう。