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2025年8月19日に報じたWindows 11セキュリティアップデート「KB5063878」によるSSD認識問題について、8月31日にはMicrosoft社とPhison社の公式否定見解をお伝えしました。
しかし問題はさらに複雑な展開を見せています。X(旧Twitter)では新たな原因説や実証的検証結果が投稿され、ユーザー間で活発な技術議論が展開されています。
企業の公式見解と実際のユーザー体験の間に横たわる溝は深まる一方で、この問題は現代のSNS時代における技術情報検証の在り方を問う事例となっています。
X上で交錯する原因説と技術検証
文字コード問題説の登場と技術的反論
9月3日頃、XユーザーのEriMerge49709氏が「英語版(1バイト環境用)のファイルシステムを誤って日本語版など(2バイト環境用)に送信した後、Microsoft社がサイレント修正した」とする新たな原因説を投稿。この投稿は9月4日10時時点で、9,561いいね、7,346リポスト、224件の引用投稿を記録する大きな反響を呼びました。
しかし、技術者コミュニティからは強い反論が寄せられています:
Windows UpdateによるSSD破壊問題の引用リツイートまとめ【Grokによる最新30件の分析】
指定されたXポスト(ID: 1962855272302760183)は、Windows Updateのバグ(KB5063878関連)でSSDが破壊される問題について、最新Updateで修正されたと説明したもの。MSが原因として、英語版(1バイト環境用)のファイルシステムを誤って日本語版など(2バイト環境用)に送信した後、サイレント修正したと述べている。
このポストに対する引用ポストは224件あり、主に日本語圏のユーザーから反応が集まっている。以下に主な傾向と代表的な反応をカテゴリ別にまとめる(Latestモードで取得した最新30件ベースで分析)。全体として、修正情報への感謝や疑問、MS批判が目立つが、技術的な誤解やデマ指摘も多い。
1. 修正情報への肯定的反応・更新推奨
多くのユーザーが問題の解決を歓迎し、最新Updateを適用するよう勧める。壊れたデータは戻らないが、予防策として有効と見なされている。
- 「最近、Windows 修正プログラムによりPCが立ち上がらなくなる問題が一部で発生していたようですが、今は解決した様子です。」
- 「もうパッチ来て直ってるみたいよー」(VRC関連のユーザーから)
2. 原因説明への疑問・技術的指摘
1バイト/2バイト環境の説明に違和感を覚える声が多く、NTFSファイルシステムはUnicodeベースで言語依存がないはずだと指摘。デマや誤情報だと疑うユーザーも。
- 「NTFSの文字コードは英語圏もCJK圏もUTFで共通だし、文字コードの扱いでSSDのコントローラまで破損するわけがないんだけどなー…」
- 「うん…?NTFSってそんな感じだったっけ?記憶が曖昧だけど、たしか違ったような気がする」
- 「NTFSの成り立ちから言ってntfs.sysがANSI版とUnicode版で別れてるとかまず無いから。さも真実かのように誤情報が流布するってことは、今時のWindowsもSJISベースで動いてると考えてる人がたくさん居るってことなんだろうね…」(プログラマー風のユーザー)
3. MSのミスへの批判・賠償要求
MSのポカミスを非難し、賠償責任を問う声。サイレント修正の対応を不誠実だと見る人も。
- 「マジかー!毎回マイクロは賠償問題にならないのが不思議でならない 壊れた人かわいそす」
- 「原因がほぼ確定してMS側の非であることが明らかになったわけなのでMSがどんなスタンスとろうとも賠償責任が発生しそうな気がするけど、あくまで白を切るつもりなんだろうか。集団訴訟の前例はあるっぽいけど。」
- 「MSさんとんでもねぇミスしてくれたなおい」
4. 更新への不安・様子見
怖くてまだ更新しない、または1-2ヶ月待つという慎重派。過去のバグ経験から様子見を推奨。
- 「なるほど、わからん とりあえずもう最新版更新していいか??」
- 「もうアップデートして大丈夫なんでしょうか…?怖くて一応「1週間停止」しててどうしようかなってなってるんですが… そろそろ1週間経つ…」
- 「新しいバグあるかもしれないししばらくはアップデートしたくないな」
5. デマ・嘘疑惑・反論
ポスト自体を嘘やデマと疑う声。一方で、英語圏でも報告ありと反論する人も。
- 「まず嘘やめよう」
- 「デマ、英語圏でもこの問題話題になっていてアメリカのフォーラムやyoutubeでも検証や再現報告が多く行われている。」
- 「いっときこのツイートを信じかけたけど、メディアからの続報がないから結局様子見るしかないな このツイートが情報源って示してるツイート信頼性低過ぎるし」
6. その他の反応(驚き・ユーモア・不明点)
単に怖い、わからない、または関連情報を共有。
- 「こわっぴねぇ……」
- 「1バイト環境、2バイト環境ってなんだろう?」
- 「日本人からの報告多かった原因これかww 単なるポカミスやないかいww」
ユーモア例
「”2025年10月14日”、後の世に云う「サルバンの破砕日」であった…。」(サポート終了日を揶揄?)
全体の傾向
エンゲージメント: 元ポストは9月4日10時時点で、9,561いいね、7,346リポストとバズり、引用ポストも活発。問題解決後の安心感が広がっているが、技術的疑念が残る。
ユーザー層: ITエンジニア、ゲーマー、VRCユーザーなどPCヘビーユーザーが多い。英語圏の報告を挙げる声もあり、グローバルな問題として認識。
注意点: 原因説明に誤りがある可能性を指摘する専門家風の反応が多いため、公式情報(MSサポート)を確認推奨。壊れたSSDの復旧は個別対応が必要。
実証的検証が示す新たな仮説
一方、Xユーザーのごんた氏(@TjPqXb5YO700Qs7)は、同一ハードウェア環境でアップデート適用方法を変えた比較検証を実施し、驚くべき結果を報告しています。
検証条件
- OS:Windows 11 Pro(極限までクリーンでシンプルな環境)
- SSD:KINGSTON SA400S37480G
- 比較対象:「KB5063878後適用環境」vs「クリーンインストール環境」
決定的な結果の差異:
- アップデート適用環境:鬼畜ツールでエラー頻発、SMART値異常、イベントログにdisk 153/129/55エラー
- クリーンインストール環境:同じ負荷テストでも「鬼強い、一切壊れず」
技術的メカニズムの分析:
「storport.sys(I/Oをデバイスに渡す橋渡し役)とntfs.sys(Flush/Trimタイミング決定)で、アプデ直撃環境ではFlushが秒間数百〜千単位で乱発、クリーンインスコ環境では正常範囲内」
企業見解とユーザー検証の整合性
Microsoft・Phison社の公式スタンス
前回報道でお伝えした通り、両社は一貫して問題との関連性を否定しています:
- Microsoft社:「徹底的な調査の結果、KB5063878とSSD障害の関連性は発見されなかった」bleepingcomputer
- Phison社:「4,500時間以上のテスト、2,200回超のサイクルでも問題の再現に至らず」notebookcheck
検証環境の違いが解く謎
興味深いことに、ごんた氏の検証結果は企業側の「問題を再現できない」という発表を技術的に説明します。企業の検証はクリーンな環境から開始される一方、実際のユーザーは既存システムへのアップデート適用が中心となるためです。
ごんた氏の結論
「KB5063878そのものより、アップデート適用工程の方がぶっ壊れてる可能性は高くね?」
ユーザー間で分かれる情報の信頼性評価
修正情報への期待と懐疑
引用投稿では様々な反応が見られました
安堵の声
- 「最近、Windows修正プログラムによりPCが立ち上がらなくなる問題が一部で発生していたようですが、今は解決した様子です」
- 「もうパッチ来て直ってるみたいよー」[Grok分析結果]
慎重な検証姿勢
- 「まず嘘やめよう」
- 「メディアからの続報がないから結局様子見るしかない このツイートが情報源って示してるツイート信頼性低過ぎる」[Grok分析結果]
企業責任論の台頭
注目すべきは、ユーザー間で企業責任を問う声が強まっていることです:
「原因がほぼ確定してMS側の非であることが明らかになったわけなのでMSがどんなスタンスとろうとも賠償責任が発生しそう」「集団訴訟の前例はあるっぽい」[Grok分析結果]
技術情報検証の新たな課題
SNS時代の情報精査の重要性
今回の一連の議論は、現代のSNS環境における技術情報の検証プロセスについて重要な示唆を与えています:
- バイラル化と技術的正確性の乖離:大きな反響を呼ぶ情報が必ずしも技術的に正確とは限らない
- 専門知識による自浄作用:技術者コミュニティが不正確な情報に対して検証・反論を行う文化
- 実証的検証の価値:理論ではなく実際の環境での検証データの重要性
情報の多層化と今後の課題
現在の状況は以下のような複数レイヤーで情報が交錯しています:
- 企業レイヤー:「関連性なし」の公式見解
- ユーザーレイヤー:実体験に基づく問題報告
- SNS推測レイヤー:技術的根拠が不明確な仮説
- 実証検証レイヤー:環境統制した比較実験データ
現在推奨される対応策
技術的対策
ごんた氏推奨の回避策:
- OSクリーンインストール:「これが最強、一番安心」
- Linuxブートでの丸ごとバックアップ:OS内コピーによるFlush/Trim嵐回避
- FastCopyの速度制限モード:Flush/Trimストーム緩和の可能性
従来推奨策(前回報道より):
- データバックアップの徹底
- SSD使用率60%以下の維持
- 大容量ファイル操作時の慎重な監視
- KB5063878のアンインストール(セキュリティリスクを伴う)
今後の注目ポイント
静かな収束の可能性
この種の技術問題は、しばしば以下のパターンで推移します
- 大きな話題となって注目を集める
- 企業側が否定的見解を発表
- 時間の経過と共に報告数が減少
- 明確な結論が出ないまま自然に収束
特に「サイレント修正」説が事実であれば、公式発表なしに問題が解決し、議論が自然に沈静化する可能性もあります。
技術検証文化への影響
今回の事例は、SNS時代における技術情報の拡散と検証のあり方について以下の教訓を残しています:
- 専門知識による情報精査の重要性
- 実証的データの価値
- 企業とユーザーの検証環境差の認識
- バイラル化する情報への批判的視点の必要性
【用語解説】
KB5063878
2025年8月にリリースされたWindows 11のセキュリティ更新プログラム。正式名称は「KB5063878(ビルド26100.4946)」で、セキュリティ強化を目的としていたが、SSD認識問題の発生源として疑われている。
SSD(Solid State Drive)
フラッシュメモリを用いた記憶装置。従来のHDD(ハードディスクドライブ)と比較して高速アクセスが可能だが、コントローラーチップの不具合により認識されなくなるリスクがある。
NTFSファイルシステム
Windows標準のファイルシステム。1993年から一貫してUTF-16エンコーディングを採用しており、言語版による仕様の違いは存在しない。大容量ファイルの管理や高度なセキュリティ機能を提供する。
Flush/Trimコマンド
SSDの性能維持と寿命延長のためのコマンド。Flushはデータの強制書き込み、TrimはSSD内の不要データ領域の整理を行う。これらが異常に頻発すると、SSDコントローラーに過負荷をかける可能性がある。
Flash Translation Layer(FTL)
SSD内部でNANDフラッシュメモリの物理アドレスと論理アドレス変換を行うソフトウェア層。データ配置最適化、摩耗均一化、エラー訂正などSSDの動作を制御する中核機能である。
SMART機能
Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technologyの略。ストレージデバイスの健康状態を監視し、温度、エラー回数、書き込み回数などを記録してユーザーに異常を警告する予防診断システム。
Host Memory Buffer(HMB)
DRAM非搭載SSDがシステムRAMの一部をキャッシュとして活用する技術。コスト削減とパフォーマンス向上を実現するが、OSの変更によって動作に影響を受けやすい特性がある。
テレメトリーデータ
オペレーティングシステムが自動収集する使用状況や性能データ。Microsoft社は世界中のWindows環境からこのデータを収集し、障害の早期発見やシステム改善に活用している。
【参考リンク】
Phison Electronics
台湾に本社を置くNANDフラッシュメモリコントローラーの世界最大手メーカー。SSDの性能と信頼性を左右するコントローラーチップを製造し、多くのSSDブランドに採用されている。
SanDisk
Western Digitalの子会社でフラッシュメモリ製品の老舗ブランド。Extreme Proシリーズなどの高性能SSDを製造しており、今回の問題でも一部モデルが影響を受けたとされている。
Corsair
アメリカのゲーミング向けPC部品メーカー。Force MP600シリーズなどの高性能SSDを製造しており、Phison製コントローラーを採用したモデルで問題が報告されている。
Windows Central
Microsoft Windows専門の技術情報サイト。Windows 11の最新アップデート情報やトラブルシューティング記事を提供し、今回のKB5063878問題についても詳細な技術分析を掲載している。
Microsoft Learn Community
Microsoft公式の技術者コミュニティプラットフォーム。Windows 11の技術問題について、Microsoft社員や認定技術者による詳細な分析と解決策が議論されている。
BleepingComputer
サイバーセキュリティとテクノロジー分野で権威性の高い技術メディア。Microsoft社の公式見解や技術的検証結果について、独自取材に基づく詳細な報道を行っている。
【編集部後記】
Windows 11 KB5063878問題は、当初のSSD認識不具合から、現在では「企業 vs ユーザー」「理論 vs 実証」「SNS仮説 vs 技術的事実」という多次元の対立構造を含む複雑な事例となっています。
Microsoft社とPhison社の公式否定、文字コード説の技術的矛盾、そしてアップデート工程問題説という3つの異なる視点が交錯する中で、真相の解明には引き続き冷静な技術検証と情報精査が必要です。
innovaTopia編集部としては、今後も企業発表とユーザー検証の両方を注視し、技術的事実に基づいた中立的な報道を継続してまいります。この問題がどのような形で最終的な結論に至るのか、そして現代のIT環境における技術問題解決プロセスにどのような示唆を与えるのか、引き続き注意深く追跡していく予定です。
(読者の皆様へ)大容量ファイル処理を日常的に行う環境では、念のため事前のバックアップとシステム監視の強化をお勧めいたします。また、SNS上の技術情報については、専門的検証を経た情報源からの確認も併せて行うことを推奨します。