EPA、PFAS「永遠化学物質」規制を緩和へ – トランプ政権下で飲料水安全基準が後退

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米国環境保護庁(EPA)は2025年5月14日、飲料水中の「永遠化学物質」(PFAS)に関する規制を大幅に緩和する計画を発表した。

トランプ政権下のEPA長官リー・ゼルディンは、バイデン前政権が2024年4月10日に最終決定した飲料水規制の一部を撤回する方針を明らかにした。

この変更により、主要な2種類のPFAS(PFOA、PFOS)については規制を維持するものの、その遵守期限を当初の2029年から2031年へと2年延長する。さらに、GenXを含む他の4種類のPFAS(PFHxS、PFNA、HFPO-DA、PFBSを含むハザードインデックス)に関する規制は撤回し、再検討するとしている。

EPAの発表によると、米国内で約1億4300万人がPFASに汚染された飲料水にさらされており、EPAが義務付けた検査では全米の飲料水の約半分からPFASが検出されている。これらの化学物質は、がん、免疫系障害、発達障害、ホルモンバランスの乱れなど様々な健康問題と関連している。

ゼルディン長官は声明で「PFOAとPFOSから米国民を保護するための全国的な基準を維持する道を進んでいる」と述べる一方、「コンプライアンスのための追加時間という形で常識的な柔軟性を提供する」とも述べている。

この規制緩和に対し、非営利団体「公益のための公務員環境責任」のカイラ・ベネット科学政策ディレクターは「EPAの使命は人間の健康と環境を保護することだ。これはその使命とEPAが支持すべきすべてに反している」と批判している。

一方、化学大手ケマーズ社の広報担当者ジェス・ロイゾーは「EPAが基礎となる科学を見直し修正する意欲を称賛する」と述べ、規制緩和を支持している。

EPAは今秋に規則案を発表し、2026年春に最終規則を確定する予定である。

References:
文献リンクThe EPA Is Giving Some Forever Chemicals a Pass

【編集部解説】

トランプ政権下のEPAが発表した「永遠化学物質」規制の緩和は、環境保護と産業界の利益のバランスを再考する動きといえます。この決定は単なる規制緩和にとどまらず、科学的根拠の解釈や公衆衛生政策の優先順位に関する根本的な姿勢の変化を示しています。

PFASは「永遠化学物質」と呼ばれる通り、環境中で分解されにくく、人体内に蓄積する特性を持っています。EPAの最新調査によれば、米国人口の約1億4300万人がPFASを含む飲料水にさらされており、その健康影響は看過できない状況です。

今回の規制見直しでは、PFOA・PFOSという最も研究が進んでいる2種類のPFASについては規制を維持しつつも、遵守期限を2年延長することになりました。一方で、GenXを含む他の4種類については規制を撤回・再検討するという二段構えの対応となっています。

この決定の背景には、水道事業者からの強い反発があります。彼らはPFAS除去のための設備投資コストが膨大であり、最終的には消費者の水道料金値上げにつながると主張し、EPAを提訴していました。今回のEPAの対応は、この訴訟の主張と一部合致しています。

しかし環境保護団体は、安全飲料水法(Safe Water Drinking Act)には一度設定された規制を緩和することを制限する条項があるとして、この規制緩和は違法だと主張しています。特に自然資源防衛協議会(NRDC)のエリック・オルソン氏は「期限延長は明らかに違法」と強く批判しています。

GenXなどの新世代PFASに関する規制撤回は、北カロライナ州などの汚染地域に大きな影響を与える可能性があります。2016年の調査では、ケマーズ社の施設近くの水道水からGenX化学物質が平均631ppt、最大で4,500pptも検出されており、バイデン政権の規制では10pptという厳しい基準が設けられていました。

興味深いのは、ケマーズ社の対応です。同社は北カロライナ工場からのPFAS排出削減に4億ドル以上を投資したと主張する一方で、今回の規制見直しを「科学的根拠の修正」として歓迎しています。これは企業の環境対応と規制緩和支持という一見矛盾する姿勢を示しています。

この規制緩和と並行して、EPAは研究開発局(ORD)の大幅な縮小も進めています。ORDは化学物質の健康影響を研究する重要な部門であり、その縮小はPFASに関する科学的知見の進展を10年以上遅らせる可能性があるとの懸念も出ています。

今回の規制見直しは、科学的根拠に基づく環境政策と経済的負担のバランスをどう取るかという普遍的な課題を浮き彫りにしています。短期的には水道事業者の負担軽減につながりますが、長期的な公衆衛生への影響については不確実性が残ります。

今後、EPAは今秋に規則案を発表し、2026年春に最終規則を確定する予定です。この間、環境団体と産業界の双方から様々な意見が出されることが予想され、最終的にどのような形で規制が確定するか注目されます。

【用語解説】

PFAS(ピーファス)
ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称で、1万5,000種類以上の合成化学物質群。水や油をはじく性質と化学的安定性から「永遠の化学物質」とも呼ばれ、自然環境中で分解されにくい特徴がある。

EPA(環境保護庁)
アメリカ合衆国の環境政策全般を担当する行政組織で、日本の環境省に相当する。本部はワシントンD.C.にあり、環境汚染の防止・対策や環境問題のリスク削減などに関する規制措置を行っている。

GenX(ジェンエックス)
PFOAを使用せずに高性能フルオロポリマーを製造するための加工助剤技術の商標。HFPOダイマー酸およびそのアンモニウム塩が主要な化学物質で、動物実験では肝臓、腎臓、免疫系への悪影響が確認されている。

ケマーズ社(Chemours)
2015年に米国デュポン社から分離独立した化学会社。チタニウムテクノロジー、フッ素製品、特殊化学品などを扱い、グローバルで売上8,440億円、従業員約6,200名を擁する。日本ではケマーズ株式会社として事業展開している。

ppt(パーツ・パー・トリリオン)
1兆分の1を表す濃度の単位。水1リットルあたりナノグラム(10億分の1グラム)レベルの極めて微量な物質を表す。例えるなら、東京ドーム約400個分の水に角砂糖1個を溶かした濃度に相当する。

【参考リンク】

Chemours(ケマーズ)(外部)
化学の力でより良い世界を創造することを目指す企業。チタニウムテクノロジー、サーマル&スペシャライズドソリューションズなどを展開。

ケマーズ株式会社(日本法人)(外部)
日本におけるケマーズの事業拠点。テフロン™塗料、ナフィオン™イオン交換膜、酸化チタン顔料などの製品を取り扱っている。

米国環境保護庁(EPA)(外部)
アメリカの環境政策を担当する行政組織。大気汚染、水質汚濁、有害化学物質による環境汚染などの防止・対策を行っている。

【参考動画】

【編集部後記】

皆さんの身の回りにある撥水加工の衣類やフライパン、食品包装紙。これらに使われているPFASが、今まさに国際的な規制の転換点を迎えています。日本でも水道水から検出されるケースが報告されていますが、あなたの家庭の水は大丈夫でしょうか? また、環境規制と経済発展のバランスをどう取るべきか、一度考えてみませんか? 私たちの日常生活と環境保護の関係を見つめ直す機会として、この問題に関心を持っていただければ幸いです。

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TaTsu
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