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FuriosaAI「RNGD」がLG正式採用、GPU比2.25倍電力効率でExaone 4.0を加速

FuriosaAI「RNGD」がLG正式採用、GPU比2.25倍電力効率でExaone 4.0を加速 - innovaTopia - (イノベトピア)

韓国のAIチップスタートアップFuriosaAIは2025年7月22日火曜日、LGのAI研究部門とのパートナーシップ契約を発表した。

LGはExaone大規模言語モデルファミリーを動かすサーバーに同社のRNGD(レネゲード)チップを採用する。RNGDは16ビット精度で256テラFLOPS、8ビット精度で512テラFLOPSの浮動小数点性能を持ち、メモリは48GBのHBM3を2スタック搭載し1.5TB/sの帯域幅を実現する。

消費電力は180ワットで、LGの7か月間の厳格な評価では従来のGPUソリューションより最大2.25倍高い電力効率を示した。FuriosaAIのCEOであるJune Paikは、同社が約3か月前にMetaから8億ドルの買収提案を事業戦略や組織構造に関する意見の相違により断ったことを明かした。

LGとの提携により、RNGDは電子、金融、通信、バイオテクノロジー分野の企業向けにExaone 4.0プラットフォームを通じて展開される。

From: 文献リンクHow AI chip upstart FuriosaAI won over LG with its power-sipping design

【編集部解説】

このニュースを理解するためには、まずFuriosaAIが開発したRNGDチップの革新性について説明する必要があります。従来のGPUが汎用的な処理を前提として設計されているのに対し、RNGDはAI推論専用に特化した「Tensor Contraction Processor(TCP)」アーキテクチャを採用している点が最大の特徴です。

TCPアーキテクチャの革新性は、従来のGPUが行列演算を基本単位とするのに対し、より高次元のテンソル収縮を直接処理できることにあります。これにより、大規模言語モデルで頻繁に行われる多次元データの計算において、データの移動を最小化し、メモリ効率を大幅に向上させています。

電力効率の圧倒的優位性

LGが7か月間の厳格な評価を経て採用を決めた最大の理由は、RNGDの圧倒的な電力効率にあります。180ワットという低消費電力で、従来のGPUソリューションと比較して最大2.25倍の電力効率を実現し、同じ電力制約下で3.75倍多くのトークンを生成できることが実証されました。

特に注目すべきは、同じ電力で比較した場合のスケーラビリティです。複数のRNGDカードを組み合わせることで、単体では最新GPUに劣る性能を補完し、電力効率を重視する企業には魅力的な選択肢となっています。

韓国AI生態系における戦略的意義

このパートナーシップは、単なる技術的な提携を超えた戦略的な意味を持ちます。LGのExaone 4.0は韓国における主権AIモデルとして位置づけられており、韓国のAI生態系全体で活用される予定です。FuriosaAIのCEOが「LGチームはグローバル顧客とも協業している」と語ったように、国内展開から始まり、将来的には国際市場への展開も視野に入れています。

LGは今週Exaone 4.0を発表したばかりで、ChatExaoneプラットフォームを通じて文書分析、深層研究、データ分析、RAG機能を提供します。これらの機能が電子、金融、通信、バイオテクノロジー分野で実用化されることで、韓国企業の技術的優位性構築に寄与する可能性があります。

Metaとの交渉決裂の背景

FuriosaAIが約3か月前に8億ドルという高額な買収提案を断った背景には、価格以外の要因がありました。現地メディアによると、買収後の事業戦略や組織構造について根本的な意見の相違があったとされています。

June Paik CEOは「我々のミッションを継続したい。AIコンピューティングをより持続可能にすることは、個人的にも会社にとっても非常にインパクトのある貢献だと信じている」と語り、独立性を保ちながら自社のビジョンを追求する意志を示しました。

技術的限界と市場での立ち位置

一方で、RNGDには技術的な限界も存在します。単体での処理能力は最新のNvidia H100やB200には及ばず、複数チップでの並列処理が前提となります。また、PCIe 5.0を使用した128GB/sの接続では、Nvidiaの独自NVLink(1TB/s以上)と比較して帯域幅の制約があることも事実です。

しかし、専門家は「FuriosaAIが推論市場を主要ターゲットとするのは賢明な戦略」と評価しています。訓練市場がNvidiaとCUDAに支配されているのに対し、推論市場はより多様で競争が開かれているからです。

長期的な市場への影響

このパートナーシップが成功すれば、AI半導体市場における競争構造に変化をもたらす可能性があります。現在Nvidiaが98%のデータセンターGPU市場シェアを握る中で、電力効率という差別化要因で勝負するアプローチは注目に値します。

ただし、RNGDの真価が問われるのは、より大規模な商用環境での実績です。LGとの7か月間の評価を経て企業導入に至ったことは、AI推論専用チップの実用性を証明する重要なマイルストーンといえるでしょう。

韓国発のAI半導体ベンチャーが、グローバル市場でどこまで存在感を示せるか。そして主権AIインフラの構築が、どの程度現実的な戦略となるのか。FuriosaAIとLGのパートナーシップは、これらの問いに対する重要な試金石となりそうです。

【用語解説】

TCP(Tensor Contraction Processor)
FuriosaAIが開発した独自のAI専用プロセッサアーキテクチャ。従来のGPUが汎用計算を前提とするのに対し、AI推論に特化した設計で、行列演算よりも高次元のテンソル収縮を直接処理することでデータ移動を最小化し、電力効率を大幅に向上させる。

HBM3(High Bandwidth Memory 3)
第3世代高帯域幅メモリ。従来のGDDRメモリと比較して大幅に高い帯域幅を提供する3Dスタック型メモリ技術。AI処理における大量のデータ転送を効率的に行うために使用される。

テンソル並列処理(Tensor Parallelism
大規模言語モデルの推論を複数のチップに分散して実行する技術。モデルの重みと計算処理を複数のアクセラレーター間で分割することで、単一チップでは処理しきれない大規模モデルの実行を可能にする。

主権AI
自国の技術と規制の下で開発・運用されるAIシステム。データのセキュリティ、技術的自立性、国家安全保障の観点から重要視される概念。韓国ではExaone 4.0がその代表例とされる。

RAG(Retrieval Augmented Generation)
検索拡張生成技術。外部の知識ベースやデータベースから関連情報を検索し、それを基に回答を生成するAI手法。企業の内部文書や専門知識を活用したAIシステムで広く使用される。

【参考リンク】

FuriosaAI公式サイト(外部)
韓国発のAI半導体スタートアップ。独自のTCP採用RNGDチップを開発し、電力効率に優れたAI推論専用プロセッサを提供

LG AI Research公式サイト(外部)
LGグループのAI研究機関。2025年7月にExaone 4.0を発表し、企業向けAIエージェントChatEXAONEを提供

FuriosaAI技術文書(外部)
RNGDチップの詳細仕様記載の公式技術文書。TSMC 5nmプロセス、512TFLOPS性能などの技術詳細

【参考記事】

TechCrunch提携発表記事(外部)
FuriosaAIとLGパートナーシップ発表、Meta買収提案拒否の詳細、June Paik CEOコメントの包括報道

FuriosaAI公式ブログ(外部)
7か月間の厳格評価プロセス、2.25倍電力効率、3.75倍トークン生成性能など詳細技術成果を記載

Bloomberg大型顧客獲得報道(外部)
FuriosaAI初の大型顧客獲得、7か月評価プロセス、Nvidia競合としての位置づけ、韓国AI戦略的意義

【編集部後記】

このFuriosaAIとLGの提携を見ていると、AI半導体市場がNvidia一強から多様化の時代に入ろうとしているのを感じませんか?特に電力効率という観点で勝負をかけるアプローチは、データセンターの運用コストが高騰する中で非常に現実的な解決策だと思います。

韓国が主権AIという概念でExaone 4.0とRNGDの組み合わせを推進している事例は、日本のAI戦略にとっても示唆に富んでいるのではないでしょうか。みなさんの会社でも、AI導入を検討する際に「電力コスト」や「技術的自立性」が課題になったことはありませんか?この韓国の事例から学べることがあれば、ぜひ教えていただければと思います。

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TaTsu
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