ノルウェーのSaga Roboticsが2025年8月12日、自律型農業ロボット「Thorvald」の英国・米国での事業拡大を目的として840万ポンドの資金調達を完了したと発表した。
今回のラウンドには新規投資家のPraesidium Agri-FoodTechや、継続投資家のAker、Nysnø Climate Investments、Blystad、Hatteland、Melesio、Sanden、MP Pensjonが参加した。
取締役会にはElliptic Labs CEOのLaila DanielsenとPraesidium Agri-FoodTechのAlice Lauroraが新たに加わった。英国ではThorvaldが13の主要イチゴ生産者をサポートし、国内市場の20%を処理している。同社は2026年に30%超を目標とする。米国では1,300エーカー以上のブドウ園で稼働し、2026年までに3倍の展開を計画する。
2025年栽培シーズンには150台以上のThorvald 3.0が現場で稼働している。創設者Pål Johan Fromはカリフォルニアに移住し米国事業を統括する。同社は2025年栽培シーズンで収穫予測データツールから初の商業収益を記録した。
From: Saga Robotics raises £8,4M to scale Thorvald AgRobots in UK & US
【編集部解説】
Thorvaldロボットの技術的特徴と革新性
Saga RoboticsのThorvaldは、従来の農薬散布に代わりUV-C光技術を使用してうどんこ病を防除する自律型農業ロボットです。この技術革新の核心は、化学農薬を使わずに病害を制御できる点にあります。UV-C光は特定の波長域の紫外線で、病原菌のDNAを破壊することで物理的に除菌する仕組みです。
さらに重要なのは、Thorvaldが単なる病害防除ツールを超えてデータプラットフォームとしても機能することです。ロボットが収集する果実・花数カウント、成熟度評価、位置情報などのデータを活用した収穫予測サービスで、2025年シーズンに初の商業収益を記録しました。これは農業ロボティクスにおけるビジネスモデルの進化を示しています。
市場浸透の現実と意味するもの
英国イチゴ市場での20%という浸透率は、農業ロボットとしては極めて高い数値です。一般的に農業技術の普及には長期間を要することを考えると、この実績は技術的成熟度と経済性の両面で成功を収めていることを示します。
米国では1,300エーカー超のブドウ園での運用実績があり、2026年までに3倍拡大を計画しています。カリフォルニア州のCOREインセンティブプログラムへの承認は、公的機関がこの技術を持続可能農業の重要な要素として認定したことを意味します。
Farming-as-a-Service(FaaS)モデルの戦略性
Thorvaldは基本的にFaaSモデルで運営されており、生産者は機械購入ではなくエーカー当たりの処理料金を支払います。このモデルは初期投資リスクを軽減し、導入ハードルを下げる効果があります。特に高額な農業ロボットにとって、この柔軟な料金体系が普及の鍵となっています。
長期的視点での農業変革
現在150台以上のThorvald 3.0が稼働している状況は、農業ロボティクス産業におけるスケールアップの成功例といえます。創設者Pål Johan Fromがカリフォルニアに移住して米国事業を統括する体制は、グローバル展開への本格的なコミットメントを表しています。
この技術が持つ最大のポテンシャルは、「世界で最も化学物質に依存している特殊作物市場」での化学農薬使用量削減にあります。食品安全性への消費者関心の高まりと環境規制強化の流れの中で、Thorvaldのような技術は単なる効率化ツールを超えた社会的意義を持っています。
リスクと課題
一方で、UV-C技術による病害防除の限界や、多様な作物・地域への適応性については今後の検証が必要です。また、高度な自律システムゆえの技術的トラブルリスクや、気象条件による制約も考慮すべき要素です。
今回の資金調達により、同社は技術実証段階から本格的な商業拡大フェーズに移行します。
【用語解説】
UV-C光技術
特定の波長を持つ紫外線で、病原菌のDNAを破壊し農作物の病害を物理的に防ぐ技術である。化学農薬の使用を削減できる。
Farming-as-a-Service(FaaS)モデル
農業ロボットの所有ではなく、利用面積に応じて料金を支払うサービスモデルである。初期費用を抑え、導入のハードルを低減する。
COREインセンティブプログラム
カリフォルニア州が提供する農業ロボット購入支援の助成金プログラムである。持続可能な農業技術の導入を促進している。
【参考リンク】
Saga Robotics(外部)
Saga Roboticsの公式サイト。UV-C光を活用した自律型農業ロボットThorvaldの詳細や最新ニュースを掲載
Praesidium Agri-FoodTech(外部)
ルクセンブルクに拠点を置くアグリフードテック向けベンチャーキャピタル。Saga Roboticsの資金調達ラウンドに参加
Elliptic Labs(外部)
ノルウェー発AIソフトウェア企業。Saga Robotics取締役会のメンバーLaila DanielsenがCEOを務める
【参考動画】
【参考記事】
Saga Robotics bags £8.4m to roll out farming robot Thorvald(外部)
Saga Roboticsが英国と米国でのThorvaldロボットの商業展開加速のために840万ポンドを調達した詳報
Saga Robotics Raises £8.4 Million to Scale Crop-Management Operations in UK & US(外部)
Saga Roboticsが英国と米国の高価値作物市場にてThorvaldの展開を強化するため840万ポンドの資金調達を発表
Saga Robotics secures USD 11.2 Million as Thorvald enters commercial breakout phase(外部)
ノルウェーのSaga RoboticsがThorvaldロボットの商用展開強化のため、約1,120万米ドルの資金調達を完了
【編集部後記】
農業ロボットThorvaldが英国イチゴ市場の20%をカバーし、データ活用で新たな収益源まで生み出している現実をご覧いただき、いかがでしたでしょうか。私たちが思い描く「未来の農業」が、すでに現場で実証されている状況に驚かれた方も多いのではないでしょうか。
みなさんにお聞きしたいのですが、このような農業のデジタル変革が進む中で、食の安全性や環境負荷軽減への期待と同時に、どのような課題や懸念をお持ちでしょうか。また、日本の農業現場でも同様の技術導入が進むとしたら、どのような変化を期待されますか。
ぜひSNSで、みなさんの率直なご意見をお聞かせください。一緒に農業テックの可能性について考えてみませんか。